「R65不動産」立ち上げのきっかけを語る「R65」代表取締役の山本遼さん。
撮影:小林優多郎
高齢者になると、住宅を借りづらくなる——。この現状を打破しようと、不動産ポータルサイト「R65不動産」が立ち上がりました。R65不動産は、対象を65歳以上の高齢者に絞ることで不動産業界でも独自のポジションを築いています。
2015年のサイト立ち上げから7年を経て、現在は40社の不動産会社が「R65不動産」に物件を掲載をしています。
R65 代表取締役の山本遼さんに、サイトを立ち上げたワケや事業の裏話、影響を受けた本についてを伺いました。
当日の様子は、YouTubeでご視聴いただけます。
撮影:Business Insider Japan
──なぜ「R65不動産」を立ち上げたのでしょうか。
山本遼さん(以下、山本):不動産会社に勤めていた時に、高齢の方が部屋を借りるのは大変だということを知り、その経験が立ち上げのきっかけになりました。
──どのように大変なのでしょうか。
山本:物件を見付けることが非常に難しく、不動産会社勤務時代に80代の方を担当した時には、大家や取引先などに200件問い合わせて、選べる物件として絞れたのは5件でした。
──「R65」の事業内容は、起業される前に会社へ提案していたのですよね。
山本:はい。しかし、経営陣から「儲からないから今ではないよね」と言われたため、自分で立ち上げようと考えました。
日本の不動産業界では、高齢になると家を借りにくい状況が出来上がってしまっていた。
画像:番組よりキャプチャー
──不動産オーナーの7割が高齢者の受け入れに拒否感を持たれているのですね。
山本:そうですね。最近は、築30〜40年の古い賃貸住宅を壊すために、立ち退きをお願いしても引っ越し先がなく、壊せない物件が多くあることも問題として上がっています。
──なぜ不動産オーナーは高齢者に拒否感を抱くのでしょうか。
山本:孤独死(自然死)や認知症などへの恐れからです。
特に、R65を立ち上げた当時は自然死が事故物件に当たるかの定義がなく、自然死が起きたことをオーナー側が顧客に言うべきかどうかが曖昧でした。
一律に高齢者は自然死の恐れがあるため、拒否感を持っていました。
──明確に言えば、物件の価値が下がるから、ということですか?
山本:そこが何とも言えませんでした。
例えば、殺人や自殺は物件の価値が下がります。ですが自然死の場合は、次に住む人が嫌なのかどうかという情報がなく、オーナー側からすれば「恐い」部分でした。
更に、不動産会社はオーナーが高齢者へ拒否感をもっていることを知っているため、対応が渋くなるということもありました。
──構造的な課題ということですね。
山本:そうです。そして、この課題は少なくとも30年前くらいから言われていました。しかも、不動産業界では常識でしたが、一般の方にはあまり認知されていなかったと思います。
不動産会社時代に、高齢の方から「こんなに借りられないとは思わなかった」と話されたこともあり、かなり根深い課題だと感じています。
貯金が「3桁」になるほど儲からない
とにかく儲からなかった、と話す山本さん。
撮影:小林優多郎
──起業当初は、とにかく儲からなかったそうですね。
山本:そうですね。高齢の方でも貸りられる物件を探すところから始めましたし、書類のやりとりや部屋を決める工程は、若い方と比べて3倍の時間がかかりました。
──時間がかかるということは、人件費もその分増えますね。
山本:そうなんです。不動産会社時代に経営陣に言われた「儲からない」が、こういうことだったのかと痛感しました。
──貯金残高が会社と個人それぞれの口座で3桁になった時期もあったとのことですが、生活はどのような感じだったのですか?
山本:正直あまり覚えてないです。遊ばずにひらすら働いてたことだけは覚えています。
幸いなことに、僕らは自社の物件で借り上げているものがあったので、家賃で困ることはなかったです。
見守りサービスで孤独死の問題も解決
独自開発の見守りサービス「見守り電気」とは?
画像:番組よりキャプチャー
──R65は見守りサービス「見守り電気」を独自開発したことがブレイクスルーにつながりました。この見守り電気の独自性について教えてください。
山本:3つの独自性がありますが、1つはプライバシーです。「見守り電気」は、朝起きてから電気の使用量が一定になっていた場合はアラートが出て、大家や管理会社がすぐ気付けます。
他社の見守りサービスには、カメラを物件に付けるものなどもありますが、「見守り電気」であれば、生活の様子をカメラ越しで見張られるわけでもなく、プライバシーに配慮したものになっています。
──他の独自性は何でしょう?
山本:金額です。保険を含めて月額980円という安価な価格で提供しています。
これが例えば、3000〜5000円かかるとすれば、顧客はもっと良いところに住めると考えてしまうと思います。
現在の形ならば、電力会社のデータを使わせていただき、モノを新しく開発することもなかったため、この価格が実現しました。
そして最後は、電力会社の切り替えだけで済むため、工事がいらないことです。
──「見守り電気」の開発のためにパートナーの電力会社を見つけたそうですが、リサーチ含めて見守り機器を開発する企業など200社にヒアリングしたのですよね。なぜ200社もの企業にお話を聞いたのでしょうか。
山本:より良いものがあれば、どんどんつくり変えようと考えているからです。今もヒアリングは続けています。
ちなみに、190社は賃貸住宅で使うには金額やプライバシーなども面から懸念がありました。200社のうち半分は趣味のヒアリングかもしれないです。新しいもので良いものは使いたいという気持ちでヒアリングをしています。
──今のパートナーを選んだ決め手は何でしたか?
山本:当時は電力を使った見守りサービスをどこもやってなかったため、挑戦しようと思ったからです。
──それが他のサービスとの差別化につながったということですね。
山本:はい。今も伸びていて、2021年から2022年にかけて2倍程に増えましたし、年の途中で2倍のため、これからも増えていくと思います。
──R65に物件を掲載していない不動産オーナーから「見守り電気」を使いたいという声はあるのでしょうか。
山本:あります。「見守り電気」が一人歩きして、みなさんに使っていただいてますね。
──そうなると、システムのデベロッパーのようにR65もBtoB向け企業の側面も出てきていますよね。
山本:そうですね。「見守り電気」を使うこと不動産オーナーが気にする孤独死を解決でき、オーナー側から「高齢者でもいいね」と言っていただけることも増えてます。
また、うれしいことに「見守り電気」の解約がほぼありません。賃貸者契約を解約することは何件かありますが、「見守り電気」だけ解約しますということはまだありません。
人格を磨くことが大切。山本さんの源流
ツクリテ・山本さんの源流「菜根譚(さいこんたん)」。
画像:番組よりキャプチャー
──山本さんの源流となった本を教えてください。
山本:「菜根譚(さいこんたん)」です。不動産会社時代のたしか内定式で、社長に「最近読んでおもしろかった本はありますか?」と聞いたときにすすめられた本でした。
──どのような内容の本ですか?
山本:人の生き方や逆境の時の心構えなど、How toというよりは、考え方が書いてある哲学書のような本です。
最近は「短い時間で結果を出す」ことを求められがちですが、この本は長期に渡って人格をどう形成していくかについて書かれている部分がおもしろいと思います。昨今で言われていることと真逆のため、自分の中で大きな衝撃を受けました。
──「能力だけでなく、人格を磨け」とも書いてありますよね。
山本:そうですね。私自身も仕事をする上で人格は大事だと思っています。
結果を出すだけであれば、ノウハウに沿って行えばある程度できる部分もあると思いますが、本当に良い仕事ができたかどうかは、人格に関わる部分が大きいと考えます。
例えば、顧客やチームを大事にすることや、自分の人格をもって良い提案ができたかどうかを考えることが大事だと思っていて、良い本に出合えたと感じています。
「逆境を楽しむ」
これからのツクリテたちへ林さんからのメッセージ。
撮影:小林優多郎
── 最後に、これからの未来をつくっていく方へ向けて、メッセージをお願いします。
山本:「逆境を楽しむ」です。
僕は32歳ですが、生まれたときから日本は少子高齢社会で逆境と言われていました。
「菜根譚」にも書かれていますが、人格を磨けば逆境も楽しいものになります。つまり、逆境こそがチャンスで、そこからが始まりです。
R65も「儲からない」と7年間言われ続けながらでもやってこれたのは、チーム全体で逆境を楽しめたからだと感じています。これから何かやりたいという方は、ぜひ逆境を楽しんでほしいと思います。
2022年11月30日(水)19時からは、アスエネ Co-Founder 代表取締役 CEOの西和田浩平さんをゲストに迎え「COP27現地レポート。気候テック「アスエネ」代表語る脱炭素の今」をお送りします。
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毎週水曜日19時から配信予定。ビジネス、テクノロジー、SDGs、働き方……それぞれのテーマで、既成概念にとらわれず新しい未来を作ろうとチャレンジする人にBusiness Insider Japanの記者/編集者がインタビュー。記者との対話を通して、チャレンジの原点、現在の取り組みやつくりたい未来を深堀りします。
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