BEENOS代表取締役執行役員社長兼グループCEOの直井聖太氏。
撮影:今村拓馬
ECサイトの海外での販売を支援する越境ECサービスを展開するBEENOSが好調だ。2022年度のグループ流通総額は807億円に到達。2023年度までの目標として掲げてきた1000億円の達成も見えてきた。
2022年度の経常利益は新規事業の投資と投資育成事業の減損で大きく下振れし2.1億円(前期比87.1%減)と落ち込んだが、来期は前期比20倍の42億円と急拡大を見込む。
同社が手がける事業分野の中でも、流通総額が前期比25%増と大きく成長しているのが、日本企業の越境ECサイトを支援する「グローバルコマース」事業だ。
2022年度のグループ流通総額は807億円に到達。グローバルコマース事業の流通総額は542億円(前期比25%増)、売上高は100億円(前期比21.5%増)と好調だった。
出典:BEENOS 2022年9月期 通期決算説明会資料
円安による需要の拡大が後押しとなっているのは間違いないが、「それだけではない」と代表取締役執行役員社長兼グループCEOの直井聖太氏は強調する。2022年度は3期ぶりに過去最高益を見通す成長の背景には何があるのか。直井氏に聞いた。
越境ECをやるべき理由は、この数年で明らかに強くなった
グローバルコマースの主力である「Buyee」は、日本企業の越境ECを支援するサービスだ。
出典:buyee.jp
「一つは提携パートナーとの関係構築を強化してきたこと。長年取り組んできたことが、今、ようやく花が開いています」(直井氏)
グローバルコマースの主力である「Buyee」は、日本企業の越境ECを支援するサービスだ。118の国・地域に向けて、日本国内のECサイトで購入をサポートした商品を顧客に届けることができる。
ヤフオク!やメルカリ、楽天、ZOZOTOWNなど、大手国内ECが出店するモール型のサイトとも提携。個別の企業が運営しているECサイトにも海外向けの機能を追加できる「BuyeeConnect」も展開。海外への発送代行を手がける「転送コム」と合わせて、国内企業の支援実績は3000件を越えた。
2022年6月には「BuyeeConnect」の無償提供を開始。申し込み数は8倍に膨れ上がった。Eコマースを自社展開するメーカーなどのほか、地元中小企業を支援する自治体にも導入事例があるという。
「コロナ禍でECに注力していたところに円安がきている。国内マーケットが縮小する中、海外に関心を持っていた企業が越境ECをやるべき理由が、この2~3年の間に明らかに強くなりました。特色のあるさまざまな商材を持って海外のマーケットで勝負する企業が増えて嬉しいです」(直井氏)
提携パートナーが広がり、取り扱う商材も広がった。その結果、「さまざまなプロモーション活動がしやすくなった」と直井氏。その成功事例と言えるのが米国と台湾で、「この2つの地域が、今非常に強くなっている」という。
「台湾のユーザーは、ドラマやアニメを通じて日本に親しみを持っている30代〜40代が中心。一方、米国では20代がメイン。いわゆるクールジャパンやオタク文化が確実に広がってきている。彼らの中には偏見を持たずにアジアの文化を積極的に取り入れていこうという感覚を持っている人が多いと感じます」(直井氏)
「日本の企業ならではの課題」とは。
撮影:今村拓馬
流通を伸ばしていくためには、それぞれの国・地域ごとのユーザー層や商習慣に合わせたアプローチが重要だ。だが、そこには日本の企業ならではの課題があるという。
1つ目は、現地ユーザーに受け入れられる物流ソリューションの構築。まさにBEENOSが担っている領域だ。
「日本は島国なので『海外』という言葉の通り、どこへ行くにも海を越えないといけない。その分だけ物流にもコストがかかります。コストを抑えつつ物流網を作っていくには、ある程度の規模がないと難しい。そこは我々が引き続き努力をして、超えていかなければならない部分だと認識しています。
例えば台湾ではコンビニで荷物を受け取るのが一般的なので、それができる物流網を作りました。海外から送ってコンビニで受け取りができるのは日本の企業としては初めて。台湾のケースのように、コストを抑えつつそれを可能にする物流ソリューションを、現地の企業と一緒に構築しています」(直井氏)
2つ目は、マーケティングやプロモーションを海外でどう展開するか、だ。
「自社のサービスについては、ある程度やり方が見えてきた。今後はパートナー企業が売り上げを拡大できるよう、どう支援していくかが課題」と、直井氏は言う。
「台湾では日本では”二重価格”と言われかねないような値引き表現も当たり前です。それを知らずに現地で国内のルールに則っていると、競争力のある価格設定をしているつもりなのに現地の人からは高く見られてしまうミスマッチが起こります」(直井氏)
他にも米国ではインフルエンサーを起用したマーケティングや、ユーザーと積極的にコミュニケーションを交わすマーケティングやプロモーションの手法に効果があるという。
こうした感覚は国や地域によっても全く違うと直井氏は説明する。
「“感覚”のような曖昧なものは、なかなか日本企業には受け入れられないことが多い。でも、実はとても大切なもの。例えば、良いインフルエンサーは、フォロワーが何を求めているかを考えて情報を発信しますが、彼らの感覚を理解せずに企業側が口を出すと、せっかくのプロモーションも効果が半減してしまうことがあります」(直井氏)
“感覚”は国や地域だけではなく、その時々の状況でも変わる。
「この3年あまり、そうしたアップデートをし続けてきたことが、(事業の成長にとって)実は一番大きなことなのかなと思っています」(直井氏)
バリューサイクル事業は高額品にシフト、海外販売にも注力
2022年4Qにおける「ブランディア」の海外販売比率は45.8% (前年同期は18.7%)に伸長した。
出典:BEENOS 2022年9月期 通期決算説明会資料
状況に合わせた柔軟な変化は、国内外のリユース品などを扱うバリューサイクル事業でも見ることができる。
ブランド品の宅配買い取りを展開する主力サービスの「ブランディア」では、取り扱い商材をアパレルから時計、バッグといった高額品にシフト。得意とする海外販売の比率を高めている。
「ブランディア」が発表した「BEENOSグローバルリコマースヒットランキング2022」によると、海外の2次流通市場で人気のジャンルはヨーロッパ、北米、東南アジア、東アジアのいずれの地域でも1位はバッグ、2位が腕時計だった。
ほかに指輪、ネックレス、ブレスレットといったアクセサリー類も円安や物価高の影響で人気が高まっているという。
出典:BEENOSグローバルリコマースヒットランキング2022
北米、欧州、東南アジア、東アジアの4エリアの購入金額は昨対比で4.65倍に伸長。ルイ・ヴィトン、シャネル、エルメスなどのブランドが購入金額・購入数でも上位に。
出典:BEENOSグローバルリコマースヒットランキング2022
「リユース業界は“いかに安く買って高く売るか”です。ただ、中には“高く売ろうとする努力をせず安く仕入れる”ばかりに注力しているケースもあり、それが消費者の不信感につながってしまっています。
我々はそうではなく、できる限り高く売る努力をし、高く買い取れるようにしたい。そのためには海外で特にニーズの高い高額な商材の取引を伸ばす方向に事業構造の転換を図ってきました」(直井氏)
直井氏は「日本では中古買取業への新規参入は少ないですが、海外ではこの5年くらいの間に新しいリユース系のビジネスがどんどん立ち上がっています。マーケットの広がりを日々実感しています」と語る。
今後は「ホビー」「エンタメ」商材の流通にも注力
アニメ制作会社「タツノコプロ」もオフィシャルECの運用を委託している。
出典:タツノコプロ OFFICIAL MALL
グローバルコマース、バリューサイクルがいずれも過去最高を更新する一方、BEENOSが流通総額1000億円の達成に向けて最注力分野の一つに挙げているのがエンターテインメント事業だ。
アニメーションや声優関連の番組を提供するラジオ局や出版社などのEC販売をサポートし、利用者数は20万人を突破した。
BEENOSでは、エンタメ領域を越境EC展開も可能な「Groobee」というプラットフォームに集約。⼤型ライブイベントの再開という追い風を受けて好調だ。
エンターテインメント事業に注力するのは、「グローバルコマースの中でも、ホビーが1番強い。日本のアニメやエンタメ商材に高いニーズがある」「日本国内でエンタメ商材を支援しつつ、それを海外へとつなげていく流れを強化したい」と直井氏は説明する。
「Groobee」はもともと同社の新規事業枠としてスタート。現在はBEENOSの事業の柱の一つとなった。
流通総額1000億円のその先へ。円安でも円高でも「共存共栄」目指す
撮影:今村拓馬
2022年度の連結決算は、新規事業や投資育成事業の減損で経常利益は2.1億円の赤字だったが、Eコマース事業が好調だったことで売上高は前期比19.3%増加の298億円をマークした。
直井氏は減損について「コロナ禍でスタートアップの調達が難しい環境となり、ダウンラウンドとなった企業が複数あった」と語る。ただ、今後も物流関連など既存事業を強化するために必要な企業には投資・育成活動を続けていく考えだ。
「我々の事業は『円高がきたら終わり』と言われることもありますが、円高が来るということは市況が回復する見込みがつくということ。(各ECサイトでも)単純に円安で安いからではなく、顧客にとって“本当に価値があるもの”“どうしても欲しいもの”が買われています。円高が進めば一時的に下がることもあるでしょうが、逆に送料も下がるなどプラス要素も多い。
(為替相場に)一喜一憂しなくてもいい経営体制が構築できてきたので、これから本当の意味でのチャレンジができると思っています」(直井氏)
中期目標として掲げていた流通総額1000億円も目前だ。ただ、直井氏は「1000億円という数字自体にはあまり意味がない」「“流通総額1000億円”は、我々が世界に本格的に出ていくための1つの通過点」と話す。
「今は“日本から世界へ向けて”が中心ですが、その先さらに進化していくためには、プラットフォームのグローバル化が不可欠です。日本だけではなく世界中の商品を買いたいというニーズは当然あるし、双方向に商材をやり取りできれば、物流面も強化できます」(直井氏)
グローバル化に向けた種まきもすでに始まっている。2021年には「Buyee」と世界最大級のマーケットプレイス「eBay」が連携。香港やタイ、マレーシアなどのアジア圏から「eBayUS」の出品商品を購入できるようになった。「日本から世界へ」だけでなく「世界から世界へ」を実現するプラットフォームの構築に向けて、越境EC支援の横展開にも着手している。
「BEENOSという社名には“ミツバチの巣”という意味があります。ミツバチがいろんな植物の受粉を担っているように世界中と繋がりながらマーケットを広げていきたい。事業規模を広げていくことや、収益を上げていくことも当然やるんですが、ミツバチのように共存共栄で多くのパートナーとともにこのマーケットをどう広げていけるか。これからが我々の本当の意味でのチャレンジだと思っています」(直井氏)