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「今は全身に病巣が広がっている状況」日本の科学を元気にするための道のりとは。日本科学振興協会(JAAS)代表理事が語る

北原秀治さん

「日本科学振興協会(JAAS)」について語る代表理事の北原秀治さん。

画像:番組よりキャプチャ

ここ数年の間、日本の科学力の低下は根深い問題として指摘され続けています。2022年に文科省が発表した科学技術指標を見ると、注目度の高い論文ランキングにおいては、2000年の4位から2022年には12位にまでその地位が低下するなど、その変化は顕著です。

日本人研究者がノーベル賞の受賞に輝いたとしても、その華々しい功績を称える会見の中で日本の研究現場の将来を憂う発言が出てくる光景は、もはや定番です。

日本の科学力を再興するために、何かできないか……。

実は2022年の2月、「日本の科学を、もっと元気に。」を合言葉に、大学に務める科学者や企業の研究者、フリーランスなど、科学に携わるさまざまなステークホルダーたちが、「日本科学振興協会(Japanese Association for the Advancement of Science、以下JAAS)」というNPO法人を立ち上げました。

JAASはどんな活動をする団体なのか。日本の科学・研究現場の現状と再生への道のりについて、JAAS代表理事の北原秀治さんに話を聞きました。

当日の様子は、YouTubeでご視聴いただけます。

撮影:Business Insider Japan

──JAASとはどんな団体なのでしょうか?

北原秀治さん(以下、北原):数年間任意団体として活動をした後に、2022年2月22日に設立したNPO法人です。

「日本の科学を、もっと元気に。」を合言葉に、日本の科学を盛り上てげていく活動をしています。

JAASのビジョン

JAASのビジョン。

出典:JAAS

──科学に関する団体と聞くと「日本学術会議」という団体もあったと思います。違いは何ですか?

北原:学術会議は大学関係者や研究者からなる組織です。ただ、JAASは、大学関係者や研究者に限らず、企業勤務の人やフリーランスの人など「科学を振興したい」「盛り上げたい」という方が幅広く集まっている点が大きな違いです。

また、日本学術会議は政府と関係している組織ですがJAASは中立的な立場である点も異なります。

JAAS 正会員 職業分類内訳

JAAS 正会員 職業分類内訳。

出典:JAAS

──全く異なる立場の方が同じ場で議論するとなると、かなり合意形成が難しそうですが…?

北原:確かに多様性があると合意形成は難しくなります。

だからこそ合言葉を掲げることで、どのような背景の方でもその「合言葉」に向かって一緒に進んでいけると考えています。

予算、論文……少しずつ衰退する日本の科学

──JAASの合言葉は「日本の科学を、もっと元気に。」ということですが、日本の科学は「元気がない」ということでしょうか?

北原:メディアでも日本の科学力が衰えているという話を聞く機会も増えましたが、元気がないと思います。

──何をもって「元気がない」と考えられるのですか?

北原:いくつか考え方はありますが、一つとして論文の数に成長が見られないことがあります。日本でノーベル賞を取られた先生方が若かった頃は、論文数自体はあまり変わらなくても世界的に見れば上の方だったので、現状を「衰えている」と感じるのかもしれません。

他には、論文の引用数も下がっています。

主要国の論文数の推移

主要国の論文数の推移。

画像:番組よりキャプチャ

主要国の論文数

主要国の論文数。

出典:JAAS

北原:論文の引用数というのは、つまり「参考になるアイディア」を出しているかどうかという部分に関係しています。昔は日本の論文も参考にされていたのですが、今はその数がだいぶ少なくなってきています。

そこも元気がないと考える要因です。

その原因はいくつかあると思っています。例えば、中国の論文が増えたため、相対的に中国の論文のほうが引用されている可能性もありますし、論文の質の問題もあると思います。

──博士号の取得者数も減っていますね。

北原:はい。研究者になるための出発点が博士号を取ることなのですが、これも減っています。

人口減少や高齢化社会も背景にあると思いますが、それにしては減りすぎだと感じています。

これは、学生が研究者になりたいかどうかだけでなく社会の構造的な問題だと思います。

主要国の博士号取得者数の推移

主要国の博士号取得者数の推移。

画像:番組よりキャプチャ

──若手研究者のポストがあまりないという話も聞きますね。

北原:そうですね。

加えて、日本の国家が成熟したことで国内である程度何でもできるようになり、海外へ留学する研究者が減ったとか、最近だと海外に出る場合でも、円安過ぎてビザが取れないなど、本当に各論でいろいろな要因があると思っています。

──なぜ日本の研究現場はここまで衰退してしまったのでしょうか?よく予算が不足しているという話も聞きます。ただ、ここ10年の予算はあまり変わっていないようにも見えます。

北原:国内を見ると私もそう思いますが、他国の予算が増えすぎたため、相対的に減ってきているように見えているのも確かです。

このように、予算、論文、人材など、さまざまなことが世界的に置いていかれている、「全身に病巣が広がって元気がない状況」になっているのではないかと思っています。

国立大学法人運営費交付金予算額の推移

国立大学法人運営費交付金予算額の推移。20年前から減少していたが、ここ10年では停滞。

画像:番組よりキャプチャ

主要国政府の科学技術予算の推移

主要国政府の科学技術予算の推移。

画像:番組よりキャプチャ

「医工連携」が元気になる鍵のひとつに

──どうすれば、日本の科学は元気になると思いますか?

北原:予算を増やす、博士号取得を推進するなど対処療法としては良いと思います。

メディアで「科学が衰退した」と取り上げると、翌年の子どもたちのなりたい職業からは遠ざかると思います。

そうすると科学者になる人が減り、お金もいかなくなるという負の循環に陥ることもあると思います。負の循環から抜け出せるような元気になる話を放り込みたいですよね。

──何か鍵になりそうな事例はありますか?

北原:一つは医工連携だと思います。

医学と工学が融合して医療機器をつくることで、研究者としてもゴールが可視化される。更に、その技術が日本から世界へ飛び出していくこともできる。連携しやすくなります。

──先日発表された東京工業大学と東京医科歯科大学の合併も、医工連携を加速させる意図があると言われていますね。

北原:はい。合併することで、日本の中でも世界に打って出ていける強い組織になっていけるのではないかと考えています。

プレスリリース

東京工業大学と東京医科歯科大学が合併についてのリリース。

出典:東京工業大学

──単純に別々の大学の研究者同士が共同研究をするような形式ではだめなのでしょうか?

北原:研究費も分かれた状況になりますし、仲良くしようとしてもなかなか難しいところはあります。大学では事務手続きがめちゃくちゃ重要なので、そういうところもやりやすくなると思います。私は非常に注目する取り組みだと思います。

──ちなみに、医工連携がうまく進んだとして、理系の基礎研究や人文系の研究を含めた科学全体を元気にすることにどうつながるのでしょうか。

北原:うまくいっている部分をまず大きく伸ばすことで、世間にも取り上げられて、科学が元気になるという視点で見ています。

──医療ドラマが流行ると医者になりたい方が増えるようなイメージですかね。

北原:そうですね。そういった雰囲気が生まれることで、科学の裾野も広がっていくと思っています。だからこそ私は先にうまくいきそうなところを推した方が良いと思っています。

──裾野が広がれば、それに紐づく基礎研究が進んだり、予算が増えたりすることもありそうですね。

北原:そうですね。例えばロボットを作ろうとなったときも、今なら「ロボットの皮膚を作ろう」みたいな話が出てくるわけです。そういうときに、細胞の基礎研究とかの話に広がっていくようなこともあるわけです。

盛り上がれば盛り上がるほど、世界から人材が入ってくることもあると思います。

──科学が元気になるために必要なことは分かってきたのですが、その実現のために、JAASはどのような活動を進めていくのでしょうか?

北原:よく聞かれますが、具体的なアクションやKPIは大事と思う一方で、重要視はしていません。

会員の間で連日のように交流会を行っているのですが、その中では研究内容を話したり、異なる業界の方と相談したり、学生にプレゼンを教えたりとさまざまな活動をしています。

今はこのような小さな活動を通して種を撒いている状態です。今後、その種が至るところで育っていくと思っています。

──ただ、そういう活動自体はこれまでにも全国であったような気がします。JAASでやる意味はあるのでしょうか?

北原:そういう活動はあるのですが、やっぱり一人の力には限界があると思っています。コミュニティになって大きな力でやらないとだめなんです。そうすることで科学を元気にするという雰囲気ができると思います。

ヨーロッパにも「EuroScience」と言う科学の普及団体がありますが、この名前を使って至るところでイベントをやっています。

私個人の思いもありますが、JAASも将来的にはそのようになっていければと思っています。

(聞き手・三ツ村崇志、構成・紅野一鶴

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編集部より:一部表現を改めました。2022年11月29日15:55

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