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台湾地方選で見えた「対中強硬策」の限界。中国との関係悪化に民意は「飽き始めている」

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統一地方選での与党・民進党の大敗を受け、兼務する党首辞任を表明した台湾の蔡英文総統。

REUTERS/Ann Wang

11月26日に投開票された台湾の統一地方選で、与党・民主進歩党(民進党)が惨敗し、蔡英文総統は党主席を辞任すると表明した。

蔡氏が劣勢挽回を狙って対中強硬政策を争点にしたのが裏目に出たもので、政策の見直しを迫られそうだ。

約1年後に迫る総統選に向け、権力集中や過激な政策を嫌う台湾の民意が、現在の民進党体制に「お灸をすえる」バランス感覚を発揮したとも言える。

民進党「結党36年来の惨敗」

4年ごとに行われる台湾統一地方選。今回も、県・市の首長のほか、地方議員など計約1万1000人を選出した。

このうち台北を含む21県・市の首長選では、野党・国民党が1増の13ポストとしたのに対し、民進党は1減の5ポストに減らして「結党36年来の惨敗」(台湾聯合報)を喫した。

地方選の有権者は約1900万人で、総統選のそれとほぼ重なるため、「総統選の前哨戦」とされてきた。

民進党は前回選挙(2018年)でも首長ポストを13から6に減らして大敗し、蔡氏が今回同様に党主席を辞任している。

得票率を比べると、国民党は前回の48.79%から微増して50.03%。民進党も39.16%から41.62%へと微増した。

この数字だけ見ると、約1年後に控えた総統選も野党・国民党が有利に感じられるかもしないが、そう単純ではない。

4年前の地方選で惨敗した蔡政権は、その約1年後(2020年)の総統選で、香港の反政府抗議活動を台湾に引き寄せて「今日の香港は明日の台湾」と謳(うた)い、反中国を前面に出して大勝した。

内政や地方政治が主要な争点となる地方選と、対中政策が最大争点の総統選とでは、性格が大きく異なる。地方選では、有権者は対中政策だけで票を投じるわけではない。

劣勢の蔡氏がとった行動

今回の統一地方選では、世論調査で早くから民進党の劣勢が予測されていた。

そこで、蔡氏は選挙戦が終盤に入ってから、「自由と民主の最前線に立つ台湾に世界中が注目している」と主張。対中政策を争点化し、中国の統一攻勢を跳ね返そうと、民進党への支持を訴え始めた。

さらに投票日の3日前、蔡氏は「台湾隊員なら台湾隊の候補に票を」と呼びかけた。

台湾ジャーナリストの張鈞凱氏は、蔡氏の姿勢を「非民進党候補者に票を投じる有権者を“非台湾人”と排斥するに等しい」と批判した

アメリカのバイデン政権が台湾問題を米中対立の核心テーマに据えて以来、蔡政権は、ペロシ下院議長らの高官訪台や、質・量とも史上最高レベルの武器供与など、アメリカの強力な支援のもとで中国を敵視する「抗中保台」(中国に対抗し台湾を守る)政策を取ってきた。

今回の地方選にもその政策を持ち込んで起死回生を図ろうとしたが、失敗に終わった。

「耳タコ」のスローガン

与党・民進党惨敗の理由については、台湾独立派ですら、蔡氏の独断によるトップダウン人選への反発や、ネガティブキャンペーンに嫌気の差した若者たちが選挙で動かなかったことを挙げて批判している(「台湾の声」、11月27日付)。

一方、台湾有力紙の聨合報(11月25日付)は与党の敗因について、「誤りを認めない蔡氏の独断的姿勢」を挙げながら、「抗中保台」政策は多くの有権者にとって「耳にタコができる」スローガンに過ぎないこと、「民進党に賛成しない者は中国共産党と同じ」との「二分法」が誤算だったことを指摘した。

前出の張鈞凱氏は、国際情勢の変化から「抗中保台」政策の失墜を説明する。

(1)ロシア・ウクライナ戦争の決着が長引き、アメリカと欧州連合(EU)加盟国との間に隙間風が吹き始めたこと、(2)バイデン大統領が中国の習近平国家主席との初の対面会談で、「台湾独立を支持せず、『二つの中国』『一中一台(一つの中国、一つの台湾)』を支持せず」の「新三不」を誓約したこと、の2点を「米中関係と国際情勢が新たな周期に入った象徴」とみる。

張氏は日本メディアによる調査結果(11月12日付)も取り上げ、台湾有事に際し米軍とともに自衛隊が参戦することに、日本人の「74.2%が反対」したことも挙げている。

ロシア・ウクライナ戦争で(武器供与などを通じて)代理戦争に徹するアメリカの姿を目の当たりにした台湾の世論調査では、台湾有事の際にも米軍は参戦しないのではとの懐疑論が55%を占めた。

その一方で、自衛隊の台湾防衛に期待する声が高まっただけに、日本人の7割以上が自衛隊参戦に反対との調査結果は、台湾人に意外感と風向きの変化を感じさせたはずだ。

地方選と総統選の結果は連動する

こうしてみると、次の総統選でも「抗中保台」のスローガンが有効かどうかは保証の限りではない。

台湾の選挙史を振り返ると、地方選と総統選の結果は連動してきた。

李登輝政権時代の1997年の統一地方選は、23県・市の首長選で民進党が12のポストを獲得し(国民党9、無党籍2)、その後2000年の総統選では、陳水扁氏による民進党政権が初めて誕生した。

2005年の地方選は国民党14、民進党6、無党籍その他3という結果で、民進党が大敗して国民党が圧勝。その結果、2008年の総統選では国民党の馬英九候補が当選した。

さらに、2014年の地方選では民進党が13県・市の首長ポストを獲得して再逆転、2016年総統選の蔡英文氏当選につながった。

1996年の初の住民直接投票による総統選以降、李登輝、陳水扁、馬英九、蔡英文と、台湾の政権は振り子が左右に触れるように、2期8年ごと国民・民進両党が入れ替わってきた。だから、台湾ではそれを「振り子現象」と呼んできた。

また、地方選の結果がそのまま総統選の結果に反映されてきたため、「地方を制し中央に迫る」という定式を指摘する分析もある。

「抗中」に飽き始めた民意

台湾政治は2023年から一気に総統選モードに入る。

総統職は1期4年で連続2期までだから、すでに2期目の蔡氏は立候補できない。民進党最有力の後継者は頼清徳副総統(63歳)。内科医で、これまで立法委員や台南市長、行政院長(首相)を務めた。各種世論調査では民進党の総統候補としてダントツの人気を誇る。

一方、朱立倫主席率いる国民党は、有力候補者の不在が最大の弱点だ。それでも、「振り子現象」と「地方を制し中央に迫る」の定式がなお生きていれば、政権奪還の可能性はある。

とは言え、彗星のように有力候補が表れない限り、奪還の展望は開けない。

民進党の頼副総統の弱点は、台湾独立志向が極めて強いこと。このまま「抗中保台」政策を繰り返せば、有権者の反発を買い苦戦を強いられるかもしれない。

台湾の生存は、安全保障面でアメリカや日本の「後ろ盾」に頼るだけでは保証されない。台湾の輸出額の4割は中国大陸(香港含む)向けであり、最大投資先の中国抜きに生存はできない

台湾の民意は、米中、米台、日中、日台など国際関係の複雑な方程式を「複眼思考」で解くことに慣れており、各種選挙を通じてしたたかでバランスの取れた対中政策を選択してきた。

「抗中」による中台関係の悪化に民意は飽き始めている。「抗中」だけでは「保台」できないことを民意はよく知っている。

(文・岡田充


岡田充(おかだ・たかし):1972年共同通信社に入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て、2008年から22年まで共同通信客員論説委員。著書に『中国と台湾対立と共存の両岸関係』『米中新冷戦の落とし穴』など。「21世紀中国総研」で『海峡両岸論』を連載中。

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