提供:楽天
2022年11月19日(土)、楽天のテクノロジーの祭典「Rakuten Technology Conference」が開催された。
新型コロナウイルス感染症の影響を受け、3年ぶりの開催となった本イベント。二子玉川にある楽天本社「楽天クリムゾンハウス」はテクノロジーに興味がある人たちで賑わった。
今年で14年目となる「Rakuten Technology Conference」のメインテーマは、楽天グループが今年のテーマとして掲げている「Tech & Green」。Slack Technologies社チーフ・プロダクト・オフィサーのTamar Yehoshua(タマル・イェホシュア)氏やGoogle社チーフ・デシジョン・サイエンティストのCassie Kozyrkov(キャシー・コジルコフ)氏、そしてRed Hat社のチーフ・テクノロジー・オフィサーのChris Wright(クリス・ライト)氏も、特別ゲストとして登壇した。
当日の様子をダイジェストでお伝えする。
開会挨拶を担当した楽天グループのテクノロジー部門を統括する平井康文副社長兼CIO&CISOは、3年ぶりに対面で開催できたことへの喜びを語った。
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スピーチでは、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックがDXの起爆剤となったが、楽天としてはどのテクノロジーのどこに注力すべきなのかを見極めることを重要視している、と語った。
厳しい状況がDXを加速させる
平井氏に続いて代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏が登壇。新型コロナウイルス感染症のパンデミックをきっかけにこれまでの常識が再構築されたことや、ビジネスだけでなく社会においてもDXが急速に進んだと話した。
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その例の一つとして、ウクライナ政府が2年前にローンチした「DIIA」というアプリを紹介した。日本におけるマイナンバーを進化させたようなアプリで、出生証明書や結婚証明書、パスポート、ワクチン接種証明書といった行政の書類を全てデジタル化し、アプリ上での管理・運用を可能にした。
行政における活用だけにとどまらず、例えば、自動車の車両登録情報を第三者に送ることができるという。危険地帯に車が取り残されてしまったときに、車両の近くにいる人に情報を送ると、受け取った人が合法的に安全な場所まで車を動かすことも可能だ。デジタル化された各種書類の管理だけでなく、メニューには、住民投票や、戦災申請、難民向けの情報、カーシェア、テレビといった様々なサービスの利用も可能だそうだ。
三木谷氏は、このアプリを称賛するとともに「ご覧のように全ての情報が連携されている。今や人々はデジタルネットワークへのアクセスなしには生活がままならなくなっている」と、デジタルネットワークが生活の基盤を支えていることを強調した。
チャレンジとイノベーション
続いて、「曲がり角のその先を見据えて行動すること」の大切さを、自身の経験を元に語った三木谷氏。インターネットに出会った1995年、三木谷氏は音声や映像がフォーマットされて伝達できることと、ハイパーリンクによりあらゆる情報に一瞬でアクセスできることに衝撃を受けたという。
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その2年後にあたる1997年、「インターネットで人はモノを買わない」と言われていた時代に従業員6人でインターネット・ショッピングモールの『楽天市場』を開設したと振り返る。13店舗で始まった『楽天市場』の初月の流通総額は32万円だったが、今や国内Eコマースの流通総額は5兆円を突破する規模に。インターネット通信の高速化に伴って様々なサービス同士が繋がりを持つようになり、Eコマース事業だけにとどまらない楽天エコシステム(経済圏)へと成長した。
楽天としてできること、目指すべき未来
楽天の強みはその独自性にあるという。それは、海外のビッグテックのモデルを真似するのではなく、楽天らしさを追求してきたことにあると三木谷氏は話した。
「楽天としてどんなサービスを提供するべきなのか、どんなテクノロジーをどう発展させるべきか、どんなビジネスモデルを追求していくべきかを常に模索してきました」(三木谷氏)
Eコマースだけにとどまらず、フィンテックを始めたのもその一つ。反対意見もあったが、世界で最も成功しているフィンテックカンパニーの一つになれたのは「一般的な考えや業界のスタンダードに従うのではなく自分たちがすべきものを構築したから」と語った。
今後は楽天エコシステムを構築してきた技術をプラットフォーム化し、楽天グループ内に限定せず様々な企業に対しても、さらにオープンにしていきたいと意気込んだ。
「楽天モバイル」で培った技術を世界へ
携帯キャリア事業は楽天グループが最も注力する事業の一つだ。
それまでの携帯電話ネットワークは、特定の会社による専用の機器とソフトウェアで構成されていたが、楽天モバイルは機器をクラウドベースへ置き換え、つまりハードウェアからソフトウェアへトランスフォームすることに挑んだ。厳しい道のりも予想したが、三木谷氏は「『楽天市場』を成功させた経験から不可能ではないと確信があった」と言う。そして、世界に先駆けてエンドツーエンドで仮想化したクラウドベースのネットワークを実現し、商用サービスの提供を開始させた。現在は、自社で通信インフラ用のソフトウェアを開発し、プラットフォームとしての販売も行っている。
社内公用語英語化によりグローバル化が進む楽天
楽天といえば、2012年より社内公用語が英語となったことが思い出される。Rakuten Technology Conferenceは世界のエンジニアコミュニティに向けたイベントのため英語が公用語となっており、平井氏、三木谷氏も英語でスピーチを行っていた。
三木谷氏は社内公用語英語化を振り返り、「変化の加速度を上げるためには必要な判断だった」と断言した。
現在、楽天には世界100カ国以上から優秀な人材が集まっており、従業員の外国籍比率は20%にのぼる。社内公用語が英語になったことで社内コミュニケーションがスムーズになったと言う。
三木谷氏は、「テクノロジーでよりよい社会を作っていきたい」と話し、そのためには「会社のために働いてくれる人材ではなく、会社のビジョンやミッションに共感して一緒に未来を良くしようという人材が集まる組織であることが必要」と会場に呼びかけた。
未来のテックファンを育てる「Kids Park」
Rakuten Technology Conferenceには、子どもたちに最新のテクノロジーに触れてもらう「Kids Park」というコーナーも用意されていた。
多くの子どもたちがドローンやロボット、ペダルを漕ぐことで発電できる装置などを楽しんでいた。
「お父さんが楽天ではたらいている」という10歳の少年はドローンに挑戦。「ドローンを触るのは初めて」と言いつつも、係員に操作方法を習うとすぐにマスターし、華麗なフリップなどを披露していた。
カフェテリアはコミュニケーションの場
社員の交流の場でもあるカフェテリア(社員食堂)では、参加者に無料で食事が提供された。その日に提供されたメニューは日本食のプレートと、ハラルやインド由来の方に対応したビリヤニ、そしてサラダボウルだった。ハラルフードは常時ふるまわれているという。
開放的な空間で会話も弾み、カフェテリアでは多言語が飛び交っていた。
カフェテリアの壁に貼られた、Rakuten Technology Conference 2022のセッション内容をイラストや図で表現した「グラフィックレコーディング」
大盛況に終わったRakuten Technology Conference。3年ぶりに開催された本イベントにどのようなことを期待していたのか、平井氏に伺った。
「今回のイベントでは、Eコマース、フィンテック、モバイルなど、楽天の幅広いテクノロジーをお伝えするセッションに加え、楽天グループ外からも、世界でテック業界をリードする素晴らしいゲストスピーカーにお話いただくことができました。
さらに、リアル会場での開催ということで、参加者同士の対話、「セレンディピティ」(素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見したりすること)が生まれました。新たなビジネスインサイトの発見や、テクノロジーの発展のきっかけになれば、これ以上嬉しいことはありません」(平井氏)
また、実際に開催してみた感想を、次のように語ってくれた。
「今回のカンファレンスには、社内外から、1,300名を超える来場者の皆様にお越しいただくことができました。私自身も、多くのセッションへの参加や、来場者の皆さんとお話をすることが叶いました。
また、Kids Parkを通じて、技術開発の未来を担う子どもたちに、テクノロジーの楽しさを体感してもらうことも、このイベントの重要な役割の一つだと思っています。結果的には、Kids Parkには180名以上が来てくださり、大盛況でした。
当日、会場を包み込んだエネルギーから、テクノロジーが日本、そして世界をより豊かに、便利に、そしてよりGreenにエンパワーしていくことができると、強く感じることができました」(平井氏)
平井氏の言葉にあるように、リアル開催で様々な対話が生まれたに違いない。楽天の競争力や社員の活力の源泉が伺えるイベントだった。