新宿駅南口での集会の参加者。(2022年11月30日)(2022年11月30日)
撮影:吉川慧
中国各地では厳しいロックダウンなど感染を徹底して封じ込めようとする「ゼロコロナ政策」を続ける習近平体制への抗議活動が相次いでいる。一連の抗議活動は「白紙革命」「白紙運動」などと呼ばれ、日本国内でも呼応する動きが始まっている。
貴州、北京、新疆ウイグル自治区…溜まり続けたゼロコロナ政策への怒り
これまで中国国内ではゼロコロナ政策をめぐり、政府へのいら立ちが募っていた。9月、貴州省では強制隔離の対象者(新型コロナへの感染リスクのある人)を移送していたバスが走行中に横転。乗員47人中27人が死亡する事故があり、SNS上で当局への怒りが書き込まれた。
10月には北京の高架橋に「PCR検査は不要、食事が必要。ロックダウン(都市封鎖)は不要、自由が必要」などの抗議を記した横断幕が掲げられたとロイターなどが伝えた。これは、中国共産党大会の開幕直前の出来事だった。
11月24日には新疆ウイグル自治区のウルムチの高層住宅で火災が発生し、少なくとも10人が死亡。SNSでは政府のゼロコロナ政策のせいで住民の救助が遅れたとして、当局の不手際を指摘する声が出た。
「白い紙」の運動、なぜ?
ウルムチでの火災の犠牲者を追悼し、ゼロコロナ政策に抗議する人々。白い紙を手にしている(2022年11月27日)
REUTERS/Thomas Peter
ロックダウンを強いられているにもかかわらず、中国本土では感染者が拡大。経済も停滞。政府へのいら立ちが募る中で起こったのがウルムチでの火災だった。
犠牲者への追悼、政府のゼロコロナ政策への抗議は各地に広がった。BBCによると11月26日、南京の大学で撮影されたとされる、ある動画が公開された。女性が白い紙を手にし、男性が取り上げる場面を映したしたものだった。
これに倣ってか、各地でのウルムチ火災の犠牲者追悼とゼロコロナ政策への抗議では参加者はA4サイズの白い紙を象徴として掲げている。「白紙革命」「A4革命」「白紙運動」などと呼ばれるようになった所以だ。スローガンを記さないのは中国国内の言論統制を回避するためと思われる。
ゼロコロナ政策への抗議運動、次第に習近平国家主席を批判する色を帯びてきた。
首都の北京では27日に白い紙を掲げる抗議活動があった。また、習氏の母校である清華大学でも抗議集会があった。同大の学生寮で生活している学生たちはコロナ対策で外部との接触が禁じられていたという。
当局はこうした動きを警戒。学生たちに帰省を促す措置をとった。不満の解消と抗議活動の再発防止を図ったものとみられている。
ブルームバーグによると上海では26日、ウルムチにちなんで名付けられた上海市中心部の「烏魯木斉中路」に数百人が集まり火災の犠牲者を追悼。27日にも追悼の動きがあったが治安当局が出動した。ロイターは、その様子を捉えた画像を配信している。
中国・上海で開かれたウルムチの火災犠牲者のためのキャンドルナイト会場。治安当局が出動した。(11月27日)
Video obtained by Reuters/via REUTERS
南部の広州市では11月29日未明から30日にかけてデモ隊と武装警察が衝突したとロイターなどが伝えた。
治安当局は抗議活動の封じ込めを始めており、Twitterでは上海で撮影されたものとして治安当局者が市民のスマートフォンをチェックしているような動画が投稿されている。
火災犠牲者への追悼とゼロコロナ政策への抗議、東京でも連帯はじまる
日本でも中国本土の抗議活動に連帯する動きがある。ウルムチの住宅火災を受けて、11月27日に新宿駅西口の地下通路で追悼集会が開かれた。
ロイターによると、中国からの留学生など20〜30代の若者が集まったが、「集会はやがて中国指導部や同国の新型コロナ対策への抗議に変わった」という。
新宿駅西口での集会。(11月27日)
Minetoshi Yasuda/via REUTERS
新宿駅西口での集会。(11月27日)
Minetoshi Yasuda/via REUTERS
28日には東京の中国大使館前でも中国本土での抗議行動に連携を示す集会があった。
東京の中国大使館付近での抗議活動。(11月28日)
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
30日夜には新宿駅南口前でも集会が開かれた。記者が現場に到着したのは夜8時半ごろだった。見たところ、集会は大きく分けて3〜4つのグループにわかれているように見えた。
新宿駅南口での集会。(※一部モザイク処理をしています)(2022年11月30日)
撮影:吉川慧
目立っていたのは、マイクを用いて代わる代わる中国政府や習近平体制を批判する人だかりだった。中国語だけでなく英語、日本語でスピーチする人もいた。その後ろにはいくつもの大きな旗が目を引く。
「習近平はクソだ!」
「習近平はやめろ」
「ゼロコロナ政策で人命が失われている」
「自由を!」
「各地で命がけの抗議がある。今もたくさんの仲間たちが逮捕されている」
「人類史上最悪の独裁政権に苦しむ人々を忘れないで」
新宿駅南口での集会。(※一部モザイク処理をしています)(2022年11月30日)
撮影:吉川慧
新宿駅南口での集会の参加者。(※一部モザイク処理をしています)(2022年11月30日)
撮影:吉川慧
お立ち台を取り囲むように、白い紙を持つ人、スローガンを記した紙やプラカードを持つ人、スピーチに応じて気勢を上げる人が集まっていた。
新宿駅南口での集会の参加者(2022年11月30日)
撮影:吉川慧
新宿駅南口での集会。プラカード「自由:投票だけが自由への道だ」(2022年11月30日)
撮影:吉川慧
新宿駅南口での集会の参加者(2022年11月30日)
撮影:吉川慧
新宿駅南口での集会の参加者(2022年11月30日)
撮影:吉川慧
掲げられていたのは白紙運動の「白い紙」のほか、「自由と人権」「習近平はやめろ」「自由:投票だけが自由への道だ」「民主!科学!」など。他にも「信仰の自由を」「家父長制はいらない」など、ウルムチの火災やゼロコロナ政策とは直接関係のないスローガンも見られた。
マイクを使わずに地声で習近平体制を批判するグループもあった。ビクトル・ユーゴー原作のミュージカル「レ・ミゼラブル」の劇中歌「民衆の歌」のバイオリン演奏にあわせて、鼻歌まじりに歌う人もいた。
新宿駅南口での集会の参加者(※一部モザイク処理をしています)(2022年11月30日)
撮影:吉川慧
新宿駅南口での集会の参加者(※一部モザイク処理をしています)(2022年11月30日)
撮影:吉川慧
周囲に乱立していた旗はイギリス領時代の香港旗、台湾の青天白日満地紅旗、ウイグル民族運動の象徴「東トルキスタン共和国」の旗、チベットの雪山獅子旗、香港独立運動の「光復香港・時代革命」の旗、さらには日の丸などだった。
ただ、こうした旗は様々な民族運動、独立運動のシンボルでもある。ここに集まった参加者全員がこれらの旗が象徴する運動や掲げられたスローガンに共鳴しているとは限らない。
新宿駅南口でウルムチの火災犠牲者を追悼する人々。火災が発生した「11月24日」を表している。(2022年11月30日)
撮影:吉川慧
乱立する旗やマイクでのスピーチとは一線を画すように、静かに集会に参加する小さなグループもあった。小さなキャンドルやキャンドル型ライト、献花でウルムチの火災犠牲者らを追悼する人々だった。
記者の取材中には、映画「タイタニック」の劇中に登場した讃美歌320番「主よ身許に近づかん」がバイオリンで演奏されていた。
新宿駅南口での集会(2022年11月30日)
撮影:吉川慧
目を閉じて手を合わせる人、ろうそくを捧げる人、犠牲者の写真を持つ人、中国本土の抗議活動への連帯かA4の紙を静かに掲げている人がいた。
新宿駅南口での集会の参加者。(※一部モザイク処理をしています)(2022年11月30日)
撮影:吉川慧
新宿駅南口の集会にて。(2022年11月30日)
撮影:吉川慧
江沢民氏の死去と1989年の「天安門事件」
江沢民氏の死去を伝える新華社通信(左)と人民日報。バナーなどが白黒になっている。(2022年11月30日)
出典:新華社通信、人民日報のサイトより
新宿駅南口の抗議活動が始まる数時間前、中国では元国家主席の江沢民氏が上海で死去したと新華社通信など国営メディアが伝えた。
江氏といえば、文化大革命後に復権して最高指導者となった鄧小平氏の「改革・開放」政策を継承。いまの中国がGDP世界2位の経済大国となる基礎を築いた人物だ。
その江氏が鄧氏によって中国共産党の総書記に抜擢されたのは1989年のこと。鄧氏ら党指導部が民主化を求める学生らを武力鎮圧した「天安門事件」で趙紫陽総書記が失脚した直後だった。
天安門広場(1989年5月)
REUTERS/ASW/TAN/WS
そもそも北京・天安門広場に人々が集まったのは、民主化要求に寛容な姿勢を示して解任された胡耀邦元総書記の追悼式がきっかけだった。
建国70周年を記念する軍事パレード。天安門の楼閣に並ぶ習近平国家主席、江沢民元主席、李克強首相。(2019年10月1日)
REUTERS/Jason Lee
政治思想の違いなどもあり胡氏と江氏を同視することはできない。だが、このタイミングで江氏が死去したことは、異例の3期目に入った習近平指導部にとってみれば、もしかしたら33年前の民主化運動を想起させる出来事なのかもしれない。