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セールスフォース(Salesforce)はここ数カ月、迫り来る景気後退の影響で優位性が揺らぐリスクを抱えており、微妙な状況に立たされている。そして今、昨今記憶する中では最大級の難局に対処しなければならなくなった。共同CEOであり、創業者マーク・ベニオフの後継者と見られていたブレット・テイラーが退社を発表したのだ。
退社を発表した共同CEOのブレット・テイラー。
Salesforce
セールスフォースは11月30日に第3四半期の決算発表を行った際、テイラーが2023年初頭に退社することを明らかにした。テイラーは発表の中で「起業家としてのルーツ」に戻りたいと述べた。共同CEO(まもなく単独CEOとなるが)のベニオフも、他の人たちと同じくらいショックを受けたという。
ベニオフは決算発表で、「彼(テイラー)が2つの素晴らしい会社を作ったことは知っているし、3つ目の素晴らしい会社をつくりたいという思いも分かっている。野生の虎を檻に入れておくことはできない」と、おそらく原稿にないコメントをした。
「彼を自由にしてあげなければならないし、それは分かっている。それでも私は嫌だ。ブレット、君はこれからも私たちの兄弟だ。心から愛している。君の家はここだし、私たちも何とかして帰ってきてもらおうと頑張るつもりだ。生きて出られるなんて思うなよ、無理だから」(ベニオフ)
ベニオフだけではない。テイラーの予告なしの退社に不意を突かれた者は多かったと、匿名を条件にInsiderの取材に応じた社員や同社に近しい人たちは語る。
退社理由を知らないある社員は「ショックです。こんなことは予想していませんでした。彼は真の大物でした」と語り、別の人物も「誰も予想してなかったと思う」と言う。
セールスフォースでの最後の舞台
テイラーが退社を発表したこのタイミングはセールスフォースにとって、営業利益と収益性の改善に取り組んでいる重要な局面に当たる。発表後、同社の株価は8%近く下落した。テック企業全般の下落局面入り傾向も相まって、同社の株価はこの1年で50%以上下げている。
テイラーはセールスフォースで、COOとしては277億ドルでSlack(スラック)の買収を、共同CEOとしてはリアルタイム顧客分析ツール「Genie」のローンチを指揮した。
セールスフォースに近しい業界情報筋の一人は、若い企業を買収するという同社が得意とする戦略は、特にSlackの巨額買収以降とりにくくなったと語る。ベニオフは決算発表で、「営業利益を犠牲にするような」ディールは検討しないつもりだと述べた。
またコロナ禍以降初の対面イベントとなった同社主催のカンファレンス「Dreamforce」では、Genieが注目を集める一方で、それ以外の目玉プロダクトが発表されなかったことも内部関係者の疑念を高めた。
テイラーは2021年11月に共同CEOに任命され、数万人もの社員と長い時間をかけて根づかせたカルチャーとを持つセールスフォースのマネジメントをベニオフと二人三脚で担うこととなった。コロナ禍は企業の運営の仕方に大きな影響を与えたが、セールスフォースはすでに一部社員に職場復帰を指示し始めていた。
テイラーはセールスフォースの共同CEOを務める傍ら、イーロン・マスクによるツイッター買収騒動の際には同社の取締役会会長でもあった。
テイラーの後任は誰か
テイラーはセールスフォース以前、2つのスタートアップの創業で成功を収めていた。
最初に創業したのが今のSNSの先駆的存在として知られるフレンドフィード(FriendFeed)であり、「いいね!」ボタンを初めて実装したのもテイラーだ。フレンドフィードは5000万ドルでフェイスブック(Facebook)に買収された。その後、2012年にはクイップ(Quip)を創業。クイップが2016年に7億5000万ドルでセールスフォースに買収されたのに伴い、同社に加わった。
テイラーはベニオフから事業の大半を任されていたため、後継者と目されていた。共同CEOに昇進したのは2021年11月なので、在任期間はわずか1年余りとなる。ベニオフと並んで共同CEOを名乗るのはテイラーが2人目で、2018年後半から2020年初頭まではキース・ブロックがこの職に就いていた。
最近の組織図を見ると、業務執行役員全員が事実上テイラーの配下であり、慈善事業やその他の副次的な事業がベニオフ配下にある。
セールスフォースに近しい人物たちは現在、誰がテイラーの後任になるのかと考えをめぐらせている。最近まで同社に勤めていたある元社員は、「ベニオフが後継プランを考え終えたと思った瞬間、テイラーの退社ですからね。あれほどの力量を備えた人物を見つけるのは相当大変だと思いますよ」と語る。
セールスフォースに近しい複数の関係者の話では、同社の「控えベンチ」は層が薄いという。しかし、ベニオフは決算発表で後任候補について質問された際にテイラーのチームを激賞していた。内部関係者の中には、テイラーの配下にいるCFO兼プレジデントのエイミー・ウィーバーがテイラーの後を継ぐのではと見る者もいる。
ベニオフは決算発表の場でこんな発言をしている。
「この会社には優秀な人材がたくさんいるし、ブレットのマネジメントチームには、昔から一緒に働いてくれている素晴らしい人たちが複数いる。中には何十年も共にやってきた人も。この会社でとりわけ有能で素晴らしい人たちだ。皆さんもよく知る人物が多いと思う。
ブレットのこと、そして彼が成し遂げた全てを、この上なく誇りに思っていると言わざるをえないが、素晴らしい働きをしてくれている他のマネジャーたちやリーダーたちにも大きなスポットライトを当てないと不公平だろう」
なお、Insiderはセールスフォースにコメントを求めたが、回答は得られなかった。