日本外国特派員協会で会見する王丹氏(2022年12月1日)
撮影:吉川慧
1989年6月4日、中国・北京で民主化を求める学生らが武力鎮圧された天安門事件。当時、学生リーダーの一人だった王丹氏が12月1日、日本外国特派員協会で会見した。
江沢民氏死去の報から一夜、中国国内では習近平体制のゼロコロナ政策への抗議運動「白紙革命」が各地に広がる最中だ。
王氏は会見の中で、中国国内の抗議運動に言及。政治体制の変革(レジーム・チェンジ)に力を注いでいると評価した。
「抗議運動をする(中国の若者たちの)行動が、他の中国の人々の次の世代を勇気づけることができると願っている。私は、人々が路上に出れば出るほど、人々がより安全になると思う」
今回の抗議運動の特性についても触れ、「若い世代は香港で起こったことから教訓を得たと思う。だから、『水になれ』という戦略をとった。組織もリーダーもいない」と説明。テレグラムやWeChat(微信)などのSNSでのグループ投稿が役割を果たしていると指摘した。
「次に何が起こるか予測するのは難しい。今すぐに(抗議運動は)止まらないようだが、どうなるかわからない」
「ただ一つわかることは、中国はまったく新しい時代に向かっているということ」「状況はもはや過去30年と同じではない」
一方で「警察は多くのデモ参加者を逮捕している。中央政府は今のところ大規模な抗議活動について沈黙を守っている。デモが続けば、2019年に香港で見られたような警察と若い世代のデモ隊の衝突が増えるかもしれない」と指摘。
「中国の都市の警察はデモ隊に対してより残忍な弾圧を行うだろう。香港の警察と同様、33年前の天安門広場のような軍事作戦の可能性も排除できない」と懸念を示した。
「今の若い世代は江沢民のことを何も知らない」
建国70周年を記念する軍事パレード。天安門の楼閣に並ぶ習近平国家主席、江沢民元主席、李克強首相。(2019年10月1日)
REUTERS/Jason Lee
11月30日に死去が伝えられた江沢民氏は文化大革命後に復権し、最高指導者となった鄧小平氏の「改革・開放」政策を継承。いまの中国がGDP世界2位の経済大国となる基礎を築いた人物だ。
その江氏が鄧氏によって中国共産党の総書記に抜擢されたのは1989年のこと。鄧氏ら党指導部が民主化を求める学生らを武力鎮圧した「天安門事件」で趙紫陽総書記が失脚した直後だった。
そもそも北京・天安門広場に人々が集まったのは、民主化要求に寛容な姿勢を示して解任された胡耀邦元総書記の追悼式がきっかけだった。集まった学生たちのリーダーの一人、それが王丹氏だった。
天安門広場での民主化運動(1989年5月)
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江沢民氏の死去によって、現在の抗議運動が1989年のような大規模な運動につながる可能性はあるのだろうか。Business Insider Japanが質問したところ、王氏はこう答えた。
「そうは思わない。胡耀邦は中国国民から愛されている、本当に愛されている。個人的な愛が政治的な愛となり、胡耀邦は若い世代から支持されるようになった。当時は、彼の死が本当に悲しかった」
「しかし、今の若い世代は江沢民のことを何も知らない、江沢民のことを本当に愛しているとは思えない。 なぜなら彼らは江沢民のことを何も知らないからだ。彼らは習近平のことを見ているだけだ」
王氏は、江氏の追悼だけでは「人々が街頭に出ることはない」と指摘した。
江氏の死去を受けて、中国では「江沢民時代」を懐かしむ人がいるようだ。
王氏も会見の中で「若い世代にとっては、少なくとも習近平と比べれば(江氏が)良いリーダーだと思う」とし、Twitterでも「江沢民がよかったと言う人のことは理解できる。習近平に比べれば、確かにずっとましだった」と投稿した。
一方で、王氏は「本当は1980年代が一番(中国の政治状況が)良かったが中国共産党は当時ことを語らないので、30歳以下の人は(胡耀邦や趙紫陽の時代と江沢民の時代を)比較することができない」と指摘している。