竹田ダニエルさん初の著書『世界と私のA to Z』が2022年11月22日、講談社から発売された。
撮影:高橋真紀
1990年代後半から2010年頃までに生まれた人々を指す「Z世代」という言葉。
デジタルネイティブで、社会的不平等、人種差別、ジェンダー、環境問題に対して関心が高く、変革への意識が強いとされている。しかし、世代だけでタイプや傾向を一括りにするのは少し乱暴だろう。ましてやそれをマーケティング文脈で語るのは......。
大人たちが括る「Z世代像」への違和感
1997年生まれで自身もZ世代である竹田ダニエルさんも、2022年11月に上梓した著書『世界と私のA to Z』の冒頭で、大人の求めるZ世代像への違和感を述べている。
多様な価値観が存在することこそが「Z世代らしさ」であるにもかかわらず、「Z世代を代表する意見」というものを欲しがるのは、あまりにも矛盾しすぎている。私はそもそも「Z世代」というのは生まれた年月で区切られるものではなく、「社会に対して目を向け、常に自分と向き合い、誰もがより良い社会を目指すべきだという“価値観”」で形成される「選択可能」なものなのではないかと考えている。
本書は文芸誌『群像』からの依頼でスタートした竹田さんのエッセイが連載となり、その1年分をまとめたものだ。自身の実感とZ世代の声、多くの参考文献を丁寧に拾い上げ、まるで「DJする」ように文章を書いたという。エッセイでありながら社会学的論文とも言えるような、骨太な一冊になっている。
「“若い人の声を聞いてますおじさん”に、利用されている若者もいる。大人ウケを狙ったZ世代層の意見だけがZ世代の言葉ではない」(竹田さん)
Z世代という言葉に多くの人がモヤモヤとした気持ちを抱くのは、「Z世代の若者はみんなこうだ」とまとめられてしまう雑さにあるのではないか、と竹田さんは指摘する。そういったZ世代に対する偏見に異論を唱えるためにもこの本を書いたと話す。
Z世代の「矛盾する思想」にこそ目を向けるべき
本の帯には経済思想家の斎藤幸平さんやBusiness Insider Japanで連載も持っている佐久間裕美子さんの推薦文がある。
撮影:高橋真紀
竹田さんの言う「Z世代を年代層ではなく、価値観で捉える」は、本書の中のこの一文にも表れている。
膨大な情報量と「繫がり」を駆使する力を持ち、自分たちの世代で物事を変えていこうという当事者意識を持ったことによって生まれた新たな価値観である。
「当事者意識を持ったことによって生まれた価値観」というのは、消費行動、SNSやファッションなどあらゆる分野において発揮される。
Z世代の間で起きている「セルフケア・セルフラブ」の革命もその一つだ。「セルフケア・セルフラブ」とは、自分の周りの幸せにだけ目を向ける自己愛ではない。社会を良くするために戦い続けられるよう、まずは自分をケアし、愛するというムーブメントだ。
自分のことを愛せずして、社会のために戦えるはずがないし、社会と向き合わずして自分と向き合うことはできない。
Z世代の消費行動に関しては、大量生産・大量消費を推進する社会や政府、企業を批判しながらも、矛盾をはらむ。環境問題にも関心が高い一方、「YOLO(You Only Live Once=人生は一度きり、の略)」マインドのZ世代は、どんどん自分をリブランディングしていきたいという欲求に駆られ、消費がリードされている側面もある。
環境問題など、鬱々とした社会状況を変えられないという閉塞感のある世の中においても、何か物を買えば生活が明るくなるかもしれないという刹那的な考えもあるようだ。
竹田さんはこうも述べている。
他者からのジャッジの視線を気にするというよりも、「新しい自分」を追い求める、一見「セルフラブ・セルフケア」に見えるような、実際は資本主義に強く根付いている生産至上主義によって思考が支配されているとも言える。
しかし、それは「資本主義が加速しすぎて、たくさんの服を持って毎日違う服で新しい自分を演じるようなリブランディングが求められているSNS文化も問題。大量消費文化自体に問題があるのであって、消費者はあくまでもパペットのようでしかない」と言い、個人の行動よりも社会の構造に目を向けるべきだと指摘する。
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さらにZ世代の矛盾として竹田さんが挙げるのが、自分自身へのラベリングだ。
枠にはめられたくないのに、自分にラベルを貼りたがる、その矛盾こそがZ世代の皮肉なところだ。
Z世代はブランド至上主義だった世代とは異なり、政治的スタンスや環境問題への取り組みなどに共感できるブランドから買い物をするなど、いわば消費を投票のように考えている。
一方で、「これを買えばこういう人になれる」「これを着ていればこういう主張を持っている人になれる」という意識もある。見た目だけで枠にはめられたくないと考えるZ世代だが、結果的に自らそのステレオタイプにとらわれるようになってしまっている。
「今を生きる」「今を感じる」ことを大事にしながら、「本質的な自分の幸せを追い求め続ける」ことも相反することのように思えるが、そういった矛盾すらも受け入れる考え方こそZ世代的価値観のようだ。
「まともな人たちが損する」社会にしないために
本書は全12章で構成されている。最後の第12章は、未来に向けた提言で締めくくられる。
撮影:高橋真紀
ライターとしてだけでなく、本業では理系の研究職に就き、日本と海外のアーティストを繫ぐエージェントとしても活躍するなど、その活動は多岐に渡る。忙しい中でも筆を取り続ける原動力になっているのが、「まともなことを言う人たちが損する社会が嫌だ」という一貫した考えだ。
竹田さんは以前、SNSでもアーティストに近い立場から投票を呼びかけ、アーティストからも賛同を集め連帯し、声を上げる道を開いていったアクティビスト的な顔も持つ。
「『アーティストが政治的な発言をするな』『アーティストに発言を強制するのは同調圧力だ』というような風潮もありますよね。私はそういった状況に疲弊してしまったまともに戦っている人たちを鼓舞したいし、その人たちの力になりたいと思っています」(竹田さん)
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最後に「著作をどんな人に読んでほしいか」と尋ねると、それまで流暢だった様子が一変し、一拍おいてこう返ってきた。
「以前、『マイノリティに寄り添ってくれる文章』と言ってくださった方がいて、とても嬉しかったことを覚えています。もちろん、この本が一人でも多くの方に届くことを願っていますが、特に日本社会のマイノリティの人たちのために書いたと言っても過言ではありません。
アメリカのほうが良いと礼賛するつもりもありません。ただ、日本でも2〜5年くらい後にはアメリカで今起きているようなことが起きるのではないかと思っていて、その思いを記録しておきたかったというのもあります。日本の若者に頑張ってほしいから書いたわけではありません」(竹田さん)
混沌とした先の見えない世の中において、希望を見付けようと葛藤するアメリカのZ世代と日本のZ世代は人口も環境も違い、一括りにはできない。
しかし、日本の若者たちの中にもきっと同じような違和感を持つ人がいるのではないかと竹田さんは推測する。
若者たちの連帯とアクションやオピニオンリーダーの発言を待つだけではなく、私たちメディアや企業も当事者意識を持ち、声を上げる準備をしなくてはならないだろう。
(インタビュー・高橋真紀、文・中森りほ)