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1ドル134円「円安は終わった」説への強烈な違和感。「安い日本」に変わりはないのに…

アメリカの金融政策の見通し変化を受けたドル安を背景に、ドル/円相場の調整が続いている。12月2日には8月以来、3カ月半ぶりの133円台まで円高が進み、「円安は終わった」との見方が支配的になりつつある。

しかし、下半期の米インフレ率のピークアウトとそれに応じた米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げペース減速は以前から指摘されていたストーリーで、驚くような変化ではない。

大局観として、円安をけん引してきた要因のうち「ドル全面高による円売り」の部分は、米金利の低下とともに引き続き(円買いすなわち円高方向への)巻き戻しが予想されるものの、それもどこかで「円全面安による円売り」という岩盤にぶち当たることになると筆者は考えている。

確かに、日米の金利差とドル/円相場は安定的な相関関係が続いてきたので【図表1】、米金利の低下見通しから円売りの巻き戻しを想像するのは無理もない。

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【図表1】ドル/円相場(濃紺)と日米金利差(橙が10年物、薄青が2年物)の関係。

出所:Macrobond資料より筆者作成

しかし、同様の相関関係は、貿易収支とドル/円相場のについても言えることを見落としてはならない【図表2】。

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【図表2】貿易収支(棒グラフ)とドル/円相場(折れ線グラフ)の関係。

出所:Bloomberg資料より筆者作成

今後は「米金利の低下に伴うドル売り(ひいてはドル安)」と「貿易赤字に伴う円売り(ひいては円安)」の綱引きになるだろう。

ただし、前者はFRBによる情報発信とともに目新しい材料として受け止められるため、為替相場の価格形成に影響しやすい。一方、後者は月1回の貿易統計公表時しか注目されるタイミングがない。したがって、ドル売りのほうが際立って可視化される展開は容易に想像がつく。

それでも、東京外為市場で「円を売る人のほうが多い」という需給の実態があることを軽視すべきではない。

年度内(2023年3月末まで)の価格レンジを見通すとすれば、2022年の半値戻し(年初来の下げ幅に対して半分程度の値上がり)となる130円付近が一つの目安になるかもしれない。

「安い日本」の実態は変わらない

何にせよ、(物価の変動を考慮しない)名目ベースの円安が終了したとしても、それがただちに「安い日本」、つまり日本人が世界で消費する時には高く、外国人が日本で消費する時には安く感じる状況の終わりを意味するわけではないことに留意されたい。

その点を踏まえないと、名目ベースの円高に目を奪われて、日本の抱える真の問題が闇に葬られてしまう恐れがある。

「安い日本」の実態は、名目為替相場に加えて、内外の物価格差を考慮した「実質実効為替レート(REER)」を通じて、いまも確認できる【図表3】。

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【図表3】円の実質実効為替レート(折れ線)の推移と長期平均(太線、20年平均)。

出所:国際決済銀行(BIS)資料より筆者作成

円の実質実効為替レート(直近の10月時点)は1971年8月以来の低水準で推移しており、その理由を名目ベースの円高・ドル安で説明するのは難しい。

あらゆる財・サービスに関して内外の価格差が開いた結果、実質ベースでの円安相場が形成されており、名目ベースで相場を見ても実態は見えてこないと考えるべきだろう。

そして、その状況は結局「日本だけ賃金が上がらない」といういつもの問題に帰着する。

具体例を見てみよう。

ビックマックの値段はアメリカで5.15ドル、日本では410円。ビックマック指数(ハンバーガー単価の比較により算定される購買力平価)は1ドル80円弱なので、仮に1ドル100円まで円高になっても、日本で買うビックマックのほうが安い計算だ。

ビックマック以外の身近な商品(例えばスターバックスの飲料など)についても同じことが言える。

また、日本でも話題となったアメリカの最低賃金の話を思い返してほしい。

カリフォルニア州では9月5日、州内のファストフード店(全米100店舗以上を展開するチェーン)で働く従業員を対象に、最低賃金を時給15ドルから最大22ドルまで引き上げることを可能にする法律が成立した。

22ドルは直近の1ドル134円で換算すると2948円。日本で最も高い東京都の最低賃金が時給1072円だから、カリフォルニア州のおよそ3分の1程度にすぎない。

もし劇的に円高・ドル安が進んで1ドル100円まで値上がりしても、カリフォルニア州の最低賃金は2200円だから、それでも東京都の2倍に相当する

結局、名目ベースで円高が進んだところで、世界各国との物価格差が消滅するわけではないのだ。だからこそ、円の実質実効為替レートは低空飛行を余儀なくされることになる。

ドル/円相場だけを見て「円安は終わった」との言説が支配的になるのは毎度のことだが、世界との差はそれだけで縮まるほど小さいものではなくなっている。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文・唐鎌大輔


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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