アマゾンは日本で11月30日から「Kindle Scribe(第1世代)」の出荷を開始した。
撮影:小林優多郎
アマゾンが11月末に出荷開始した「Kindle史上最大」の画面サイズで「史上初の読み書き一体型」となる「Kindle Scribe(第1世代)」(キンドルスクライブ)は、本というよりノートだった。
最新のKindleはどこが“買い”の製品なのか、プレミアムペン付き・16GB版のファーストインプレッションをお送りする。
なお、価格は以下の通り(いずれも税込)。11月30日から出荷を開始している。
- Kindle Scribe(スタンダードペン付き、16GB)……4万7980円
- Kindle Scribe(プレミアムペン付き、16GB)……5万1980円
- Kindle Scribe(プレミアムペン付き、32GB)……5万4980円
- Kindle Scribe(プレミアムペン付き、64GB)……5万9980円
大画面10.2インチ電子ペーパー搭載「史上最大のKindle」
Kindle Scribeには本体の他、スタートガイド、充電ケーブル、ペン、交換用ペン先が用意されている。
撮影:小林優多郎
10.2インチという一般的な画面サイズのタブレットに近い大きさだ。紙のサイズでいうとA5に最も近い。そのほかのKindleシリーズと同じく、Kindle Scribeもモノクロの電子ペーパーを採用している。
電子ペーパー自体、は画面の書き換え時にのみ電力を消費する特徴がある。そのため、有機ELや液晶の製品と比べて表現力は劣るが省電力だ。
Kindle Scribeの場合は、Kindle OasisやPaperwhiteのようにフロントライトを搭載しているため、ただオンにしているだけでもバッテリーは消耗する。ただし、駆動時間は公称値で最大3週間あり非常に余裕がある。
写真左からiPad mini(第6世代)、Kindle Scribe(第1世代)、A4のコピー用紙。
撮影:小林優多郎
解像感についても申し分ない。スペック的には前述の最新型のOasisやPaperwhiteと同じく、画面密度は300ppi。小説やビジネス書などの明朝体の表現、細かいルビも滑らかに表示される。Paperwhiteのあの精細な表示の電子ペーパーが、そのままの細かさで大きくなっている。
コミックの場合は、縦持ち・1ページ表示時では「一般的な単行本(B6判・128✕182mmや四六判・128✕188mm)より大きな表示」になる。一方、横持ち・見開き表示時は1ページあたりの表示は小さくなる。
明朝体もしっかりと表示。ルビもきちんと読める(青空文庫、夏目漱石著「坊っちゃん」より)。
撮影:小林優多郎
読書時のソフトウェア的な機能・使い勝手は、他のKindleシリーズと変わらない。
前述の通り、フロントライトを搭載しておりパネルの色調(色温度)や明るさは調整可能。ただし、ハードウェアに依存する機能、防水や物理ボタンによるページ送り、ワイヤレス充電には対応しない。
ペン機能の「書き心地」を試す
Kindle Scribe(第1世代)には、ペンを使った手書き機能がある。
撮影:小林優多郎
単に大きいだけではない。Kindle Scribeは「読み書き一体型」……つまり、ペンによる手書き機能に対応している。
ペンは「プレミアムペン」と「スタンダードペン」の2種類存在するが、どちらもペアリング、充電は不要。筆圧検知や天冠(キャップトップ部)での消しゴム機能が利用できる。
「プレミアムペン」はやや細身(実測値で直径8mmほど)で充電不要。
撮影:小林優多郎
スペック的な差は手に持った時にちょうど指に当たるところにあるボタンの有無だ。
このボタンはいわゆるショートカットボタンで、本への付せん追加、ハイライトなどの切り替えに割り当てられる。
プレミアムペンにはショートカットボタンがついている。
撮影:小林優多郎
Kindle Scribeで手書き機能を使うシーンは大きく3つある。
- 雑誌やコミックなどを除く電子書籍で好きな位置に付せんを残すとき
- 新規にノートを書きたいとき
- 既存のPDFなどに書き込みたいとき
1つ目の「電子書籍への付せん貼り付け」は、既存のKindleの「メモとハイライト」機能の拡張版だ。既存のKindleではテキストベースだったものが、手書きメモを残せるようになる。
2つ目の用途「新規ノートを作成」するには、Kindle Scribeに新設されている「ノートブック」機能を使う。その名の通り、複数のページから連なるノートブックを作成し、そこにペンやマーカー、消しゴムといったツールで作成していく。
無地を含め18種類のテンプレートが用意されているため、好みの罫線やレイアウトを選べば、すぐ使い始められる。ただし、テンプレートのインポート機能は現状ない。
ノートブック機能で使えるテンプレート。
撮影:小林優多郎
ノートブック機能はシンプルで、「ペン」「マーカー」(それぞれ太さは5段階)「消しゴム」などの機能が備わっている。
撮影:小林優多郎
書き心地はかなり良い。
筆者は普段「12.9インチiPad Pro(第5世代)」や「iPad mini(第6世代)」と「Apple Pencil(第2世代)」の組み合わせで手書き機能を日常的に使っている。iPad+Apple Pencilの組み合わせでは、固いガラスに対してカチカチと書き込んでいく感覚だ。
一方で、Kindle Scribeはディスプレイ表面がさらっとした肌触りになっていることとペン先がやや柔らかいため、よりソフトな印象。抵抗感はiPad+Apple Pencilより紙に近いかもしれない。
アマゾンはペンが検知可能な筆圧レベルについて公開していないが、少し強めに押し込めば線が太くなる感覚だった。簡単な絵なら書けそうなが、あくまでも文字を図形を書く用途と思った方がよさそうだ。
ペンのヘッド部分を押しつければ書いた部分を消せる。電子ペーパーの特性もあって「消した跡がちょっと残る」のがおもしろかった(書き出したデータ上からは消えており、読み込み直せばちゃんと消えている)。
撮影:小林優多郎
3つ目の用途「PDFへの書き込み」は、ノートブックではなく「Send to Kindle」機能を使ってライブラリに転送したPDFやWord文章などに対し、メモや注釈を書き込めるといったものだ。
筆者は最初ノートブック機能からPDFをインポートするオプションがあるのか思っていたが、Send to Kindleでライブラリにファイルを送信後、Kindle Scribeのライブラリからファイルを選択するだけでいい(逆にメモを書き込んだPDFはそのままライブラリに残り続ける)。
PDFやWordなどのファイルに書き込みができる。
撮影:小林優多郎
書いたノートや書き込んだファイルは、PDFとして書き出しできる。
撮影:小林優多郎
書き込み機能自体は前出のノートブックと変わらない。
作成したノートブック同様、書き込み済みのPDFはKindle内のオプションで自分のメールアドレス宛に送信できる。
「手書き機能付き電子書籍リーダー」ゆえの拡張性と重さが悩ましい
Kindle Scribe(第1世代)の箱は、他のKindleシリーズと同じく「青色」だ。
撮影:小林優多郎
市場にある電子ペーパー端末全体を見てみると、ペンが使える大型端末自体は珍しくはない。ONYXやファーウェイ、富士通などが12月5日時点でも発売している。
ただ、BOOX NoteとMatePadは「電子ペーパー搭載タブレット」なのに対し、Kindle Scribeは「手書き機能付き電子書籍リーダー」と、コンセプトが少々異なる。
わかりやすい例が拡張性だ。BOOXの場合はAndroid 11を搭載しGoogle Playにも対応しているため、Android向けKindleはもちろん、その他の電子書籍ストアのアプリも対応できる。
MatePad PaperはGoogle Playほどの掲載数はないが「HUAWEI AppGallery」から、いくつかのサードパーティー製電子書籍ストアアプリがインストールできる(Kindleは配信されていない)。
Kindle Scribeはあくまでも電子書籍リーダー「Kindle」ファミリーの一部だ。
撮影:小林優多郎
一方で、Kindle Scribeはあくまで「Kindle」のため、他の電子書籍ストアには対応していない。タブレットの「Fire」シリーズでもないため、アプリで機能を追加する、といったこともできない。
ただし価格だけを並べると、それらのメーカーの同サイズ・同容量の製品と比べて優位性は多少ある。
- ONYX BOOX Note Air2(ペン付き、64GB)……6万7800円(税込)
- Huawei MatePad Paper(ペン付き、64GB)……6万4800円(税込)
- Amazon Kindle Scribe(プレミアムペン付き、64GB)……5万9980円(税込)
ただ、個人的にはノートブック機能はブラシの種類やテンプレートを追加できない点、書いた内容を範囲選択して動かすこともできないなど、「ノート」と呼ぶには機能不足感が否めない。
それに、メモした内容をいちいちメールで送信して、ダウンロードしたPDFをEvernoteやOneNoteなどといった各種クラウドメモアプリに送るのにも、面倒さがともなう。
作成したデータはアマゾンに登録済みのメールアドレス宛に送れる。ただ、メールアドレスに添付ファイルがついているわけではなく、メールに書かれたURLから専用サイトにジャンプして、ダウンロードする必要がある。
撮影:小林優多郎
さらに言えば、電子書籍リーダーとして注意したいのは重さだ。
本体のみの公称値は約433g。プレミアムペンをつけた状態での実測値は約445g。
これが持ってみると意外と重く感じる。Kindle Scribeは厚さ5.8mmというスリムな形状をしているが、10.3インチというサイズ感からも想像できるように、片手で持ち続けるとなかなか疲れる。
また、Kindle Scribeを開けてみて初めに驚いた点でもあるが、背面に4つのゴム足をついている。これによって机に置いてメモを取るときに端末がすべりにくくなっているが、「置いて使うもの」という前提があるようにも思える。
Kindle Scribe(第1世代)の背面。小さいゴム足が4つついている。
撮影:小林優多郎
Kindleが人気を集めている要因は、ストアに直結した端末ということだけではなく、サイズ感、重量感、そして充電の手間も少なく手軽に読める点にあると思う。
しかし、Kindle Scribeは中身はシンプルなKindleのまま、ペン機能を追加し、サイズ・重量がアップしたような製品だ。サイズと重さの違いによって、「通常のKindleとは別カテゴリーの製品」のような印象もある。購入を検討している人は、この違いを念頭に選ぶと良さそうだ。
注:この記事では、Business Insider Japan編集部がお勧めの製品を紹介しています。リンクを経由してアマゾンで製品を購入すると、編集部とアマゾンとのアフィリエイト契約により、編集部が一定割合の利益を得ます。