2022年型GMCハマーEV「エディション1」。
Tim Levin/Insider
- 電気自動車(EV)だからといって、巨大な「ハマー」が日産「リーフ」のような小型車と同じくらい地球に優しいということはあり得ない。
- GMCのハマーEVは、他のEVよりもかなり多くの電気を使うため、資源採掘現場や発電所など、上流でより多くの公害を発生させることになる。
- ハマーEVの重量は4トン以上で、バッテリーだけでもホンダ「シビック」と同じくらいの重さがある。
GMCの「ハマーEV」は、エンジンが爆音を響かせたり、有害なガスを排出したりすることなく街を駆け抜けるが、決して軽快に走れるわけではない。
この巨大なトラックの重量は、なんと9000ポンド(約4トン。トヨタ「タコマ」2台分、ホンダ「シビック」3台分、シャキール・オニール24人分)だ。さらに、ハマーEVは多くの点で新時代の桁外れなエネルギー大量消費車だと言える。過去の巨大なSUVやトラックの欠陥の多くをそのまま引き継いでおり、すべてのゼロエミッション車が同じではないことを証明している。
EVがエネルギー大量消費車になることもある
電気自動車(EV)は、ガソリン車よりもエネルギー消費量が少ないと言われている。しかし、すべてのEVが同じように効率的というわけではない。
当然といえば当然のことだ。ハマーの巨体を動かすには、現在市場に出回っているどのEVよりも多くの電力を必要とする。アメリカ環境保護庁(EPA)は、ハマーEVの燃費を47MPGe(ガソリン換算で1ガロンあたりの走行マイル数)と評価している。ちなみにテスラ(Tesla)のセダン「モデル3」は132MPGeで、3倍近く効率がよい。フォード(Ford)のEVトラック「F-150ライトニング」は70MPGeだ。
このことは、現実的な問題と直結する。アメリカはエネルギーの61%を石油、石炭、天然ガスから得ているため、自動車が電力を必要とすればするほど、上流(探鉱・開発・生産段階)でより多くの公害を発生させることになるのだ。
憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists)はEVトラックへの懸念を次のように記している。
「電気自動車は乗用車もトラックも、ガソリン車よりずっとクリーンだが、EVトラックの方がEV乗用車よりも大きくて重いため、より多くの温室効果ガスを排出する」
2022年式GMCハマーEV「エディション1」。
Tim Levin/Insider
ハマーEVは生産段階でも大量の資源を消費する。消費者が望む300マイル(約483km)以上の航続距離を実現するには、巨大な(そして重い)バッテリーが必要だ。ハマー1台が消費するのと同じバッテリーセルで、シボレー(Chevrolet)の「ボルトEV」なら3台生産することができる。しかも、電池の原料となるリチウムなどの資源はすでに不足している。
「ハマーEVに搭載された1.3トンものバッテリーに使われている資源を、セダンやもっと手頃なサイズの電気自動車に振り向ければ、何台生産できるだろうか。ましてやeカーゴバイクであれば相当な数が生産できるだろう」とハーバード大学ケネディスクールのトーブマンセンターで客員研究員を務めるデイビッド・ジッパー(David Zipper)はInsiderに語っている。
車重4トン超えの巨体
ハマーEVは、さまざまなオプションが搭載されたフォードのガソリン車「F-150」より1.8トンも重い。さらに、ハマーの名を世に知らしめることになった軍用車両の「ハマーH1」よりも重いのだ。あまりにも巨大なため、ブルックリン橋の通行は禁止されており、窓ガラスにEPAの燃費指標を示すシールを貼ることが義務づけられていない。
クルマの重量や大きさは、単に燃費が悪くなるだけではない。タイヤやブレーキの摩耗によって排出される汚染物質の増加や、衝突リスクの高まり(死角の拡大や単なる物理的な要因によるもの)にもつながることが研究により明らかにされている。
GMの広報担当者はこのような問題点について、ハマーEVはEVの可能性を示す車であり、ブランドとしての存在感を示すための車であると述べた。また、GMのエンジニアが重量を考慮してブレーキなどのシステムを設計したことにも触れ、その安全性を訴えた。さらに、最近の歩行者の交通事故死の急増は、単に大型車のせいというより飲酒運転、スピード違反、インフラの不備などが原因となっているとする研究もあると付け加えた。
2022年式GMCハマーEV「エディション1」。
Tim Levin/Insider
確かにどのEVも、ガソリン車バージョンよりも重く、その点ではハマーも変わらない。ただ最も大きいということだ。
アメリカ人をEVに乗り換えさせるためには、さまざまなオプションを提示する必要がある。車高の高いディーゼルエンジン車に乗っていた人が、突然小さなかわいらしいハッチバック車に乗り換えることはないだろう。
ピックアップトラックの電動化は、小型車の電動化よりも温室効果ガスの排出を大幅に削減できるという調査結果もあるが、一方では巨大でエネルギー消費量の高いEVが普及しないよう対策を講じるべきだと考える輸送の専門家もいる。
トーブマンセンターのジッパーは、ワシントンD.C.やEV先進国であるノルウェーですでに導入されている重量課金制を支持している。
「人々が欲しいものを買うのは自由であるべきだが、その選択が社会へのダメージにつながるのであれば、購入者はそのコストを支払うべきだ」とジッパーは述べた。