投資家にとってS&P500種株価指数を理解することは重要だ。
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- S&P500種株価指数は、米国の大手上場企業500社で構成される総合株価指数だ。
- その構成銘柄の多様性と企業規模により、S&P500種株価指数は、株式市場全体の代替と見られている。
- S&P500種株価指数それ自体に投資はできないが、指数の構成銘柄とパフォーマンスに連動するインデックスファンドなら購入できる。
「株式市場が上昇する」「市場が下落する」といった言葉をしばしば耳にすることがある。だが、株式市場というのは、無数の株式や数多くの取引所を内包する漠然とした概念だ。実際に上がったり下がったりしているのは特定の株価指数、つまり上場企業の集合体なのだ。
そして、それが米国株式市場であれば、S&P500種株価指数を指している可能性が高い。
構成企業の数にちなんで名づけられたS&P500種株価指数は、「情報技術、ヘルスケア、一般消費財のような各種セクターの代表企業だけでなく、金融、エネルギー、資本財、耐久消費財などの業種の主要企業も含む総合指数だ」と説明するのは、ソシエテ・ジェネラル(Société Générale)で北米株式クオンツリサーチを率いるソロモン・タデス氏だ。
「そのため、S&P500種株価指数は米国株式市場の優れた代替であり、暗に経済とその短期的な基調を表す」
投資家にとってS&P500種株価指数を理解することは重要だろう。この絶大な影響力を持つ指数について、投資家が知っておくべきことを順番に説明しよう。
S&P500種株価指数とは何か?
1957年に金融サービス会社のスタンダード・アンド・プアーズ社(現:S&Pグローバル社)が、S&P500種株価指数の算出を開始した。
だが、米国株式市場の代替としての地位を確立したのは、1968年に全米産業審議会(The Conference Board)が指標として採用したからだ。全米産業審議会は、アメリカの経済団体や労働組合などで構成される非営利の民間調査機関で、消費者信頼感指数、景気先行指数、求人広告指数などの重要な指標を発表している。
S&P500種株価指数は時価総額加重指数だ。つまり、時価総額(株式全体の価値)の大きな企業の影響が指数の計算上でも大きくなり、指数全体と市場全体との関連性が強まる。
指数の相対的な水準(指数内の株式の集合的価値)はポイントで表示される。2022年8月、S&P500種株価指数は4000ドルを超えていた。したがって、S&P500種株価指数が2022年中に10%上昇したという場合、指数全体は400ポイント上昇することを意味する。
S&P500種株価指数はどうやって算出されているのか?
S&P500種株価指数が広く引き合いに出される理由の1つがその構成銘柄にある。S&P500種株価指数には、11の産業セクターにわたる米国上場銘柄の上位500企業が含まれている。ただし、一部の企業が複数の株式クラスを発行しているため、実際には505銘柄だ。
構成銘柄は入れ替えられる。S&Pグローバルの米国指数委員会は、少なくとも四半期に1度は構成銘柄を見直し、リバランスを行う。ただし、S&Pグローバルのブログによれば「指数が米国大型株市場を継続して代表しているように」入替は常に行われる可能性がある。
指数に入るために、企業は次の条件を満たしていなければならない(2022年10月現在)。
- 米国に拠点を置く企業(ただし海外拠点を構えるのは可能)
- 時価総額は最低146億ドル(約2兆円)
- 高い流動性。発行済み株式数の最低50%が浮動株
- 直近四半期および過去4・四半期の決算が黒字
S&P500種株価指数の構成銘柄
S&P500種株価指数にはおなじみの銘柄が名を連ねており、その多くは強固な業績を積み重ねてきた優良銘柄だ。2022年10月31日現在、S&P500種株価指数の時価総額上位10社は次の通りである。
- アップル(AAPL)
- マイクロソフト(MSFT)
- アマゾン(AMZN)
- テスラ(TSLA)
- アルファベット クラスA(GOOGL)
- バークシャー・ハサウェイ クラスB(BRK.B)
- ユナイテッドヘルス・グループ(UNH)
- アルファベット クラスC(GOOG)
- エクソンモービル(XON)
S&P500種株価指数の平均リターン
過去10年間、S&P500種株価指数の平均リターンは年率11.18%だった。2021年のリターンは26%を超えた。
S&P500種株価指数は銘柄がきわめて分散されているうえ、米国株式全体の時価総額の約80%を占めているため、そのパフォーマンスは米国株式全体を概ね反映していると広く考えられている。
S&P500種株価指数の限界
広く米国株式を代表する指数とはいえ、S&P500種株価指数は完全ではない。
前述の通り、この指数は時価総額加重のため、時価総額の大きい企業のウェイトが計算上高くなる。
その結果、指数は大企業を不相応に重みづけてしまうことがある、と言うのはマディソン・ファイナンシャル・プランニング・グループ(Madison Financial Planning Group)のCFPを務めるレイラZ. モルジーロ氏だ。
「このようにウェイトをつけることで、今度は指数のパフォーマンスがひずみ、結果としてひと握りの株式が指数全体のパフォーマンスを左右することもある。S&P500種株価指数全体のパフォーマンスを見ただけでは全体像はつかめなくなり、時に誤解を招くこともある」
また、グローバル化が進む経済や株式市場で、S&P500種株価指数に含まれるのが米国に拠点を置く企業だけというのも考えものだ。
つまり、中国のアリババグループやドイツのビオンテックのような大手海外企業や、場合によっては市場全体の動きが、S&P500種株価指数のパフォーマンスに反映されず、経済動向を表す指標としての有効性が低下してしまうのだ。
その他の重要な株式指数
S&P500種株価指数の存在感は圧倒的に高いが、投資家は次のような指数もウォッチしている。
ダウ工業株30種平均(Dow Jones Industrial Average):最も古い指数のひとつで、ダウ・ジョーンズ(Dow Jones)社が算出する米国の大手30社の指数。もちろん、S&P500種株価指数より銘柄数はかなり少ない。少なすぎると言う投資のプロもいる。それにこの指数は、時価総額ではなく株価の単純平均指数のため、株式分割で株価が下がった企業が不当に低い評価を受ける。
ラッセル指数(Russell Indexes):FTSEラッセル(FTSE Russell)が算出する株式指数。ラッセル3000は、米国に拠点を置く3000社で構成されており、S&P500種株価指数よりも企業数がずっと多い。それは、ラッセル3000の派生指数であるラッセル1000大型株指数とラッセル2000中小型株指数も同様だ。そのため、多くの投資ファンドマネージャーがラッセル株価指数をベンチマークとして採用している。ただし、ラッセル1000とラッセル2000はS&P500種株価指数よりも大きく変動することがある。
ウィルシャー5000(The Wilshire 5000):名称とは裏腹にこの指数の構成銘柄数は約3800銘柄だが、実質的に米国に拠点を置く上場企業をすべて網羅した最も幅広い株式指数である。S&P500種株価指数よりも明らかに銘柄数は多く、より市場全体を代表していることに間違いないが、ウィルシャー5000にも米国以外の銘柄は含まれていない。
ナスダック100指数(The Nasdaq-100):この成長株重視の指数には、ナスダック市場に上場する金融を除く国内外企業上位100社が含まれている。この指数が魅力的なのは、いまの米国経済で恐らく最も影響力を持つ高成長業種のハイテクセクターの比重が高いからだ。しかし、銘柄数はS&P500種株価指数よりも狭く、この指数に連動するポートフォリオは、ハイテクセクターの下落時に危険に晒される可能性がある。
S&P500種株価指数の投資方法
S&P500種株価指数というのは、株式そのものではなく単なる銘柄リストにすぎないので、直接これに投資することはできない。だが、S&P500種株価指数や、指数内の特定の企業グループ、例えば高配当企業やよりグロース指向の企業などに連動するさまざまな上場投信や上場投資信託(ETF)が設定されている。
チャールズ・シュワブ(Charles Schwab)、フィデリティ(Fidelity)、バンガード(Vanguard)など、大手証券会社や金融サービス会社はみな、S&P500インデックスファンドを販売している。ロビンフッド(Robinhood)やスタッシュ(Stash)といった大半のオンライン・トレーディング・プラットフォームやアプリも同様だ。
S&P500インデックスファンドは、コンピューターアルゴリズムを利用して投資を行い投資家のポートフォリオを管理する、ウェルスフロント(Wealthfront)やベターメント(Betterment)のようなロボアドバイザー業者でも人気が高い。
結論
50年以上もの間、S&P500種株価指数は株式市場全体のパフォーマンスの目安となってきた。この指数は米国の大手上場企業を代表しているため、そのパフォーマンスは米国企業、ひいては米国企業の「いま」を切り取ったスナップショットと言えよう。