「アスエネ」の事業について語るCo-Founder 代表取締役 CEOの西和田浩平さん。
撮影:小林優多郎
エジプトで11月6日〜20日(現地時間)に開催された第27回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP27)。
気候変動によって生じた損失と損害への対応への議論が進んだ一方で、COP26で示された「1.5℃の約束」の取り組みが加速していないなど課題の残る結果となりました。
今回は、そんなCOP27に現地参加した気候テックベンチャー「アスエネ」Co-Founder 代表取締役 CEOの西和田浩平さんに、実際の会場の様子、今後の企業に求められていることを伺いました。
当日の様子は、YouTubeでご視聴いただけます。
撮影:Business Insider Japan
──世界では気候変動対策を続けているものの、残念ながらCO2の排出量は減っていません。アスエネは「気候テック企業」ということですが、こういった気候変動に関する課題の解決を目指している企業ということですか?
西和田浩平さん(以下、西和田):はい。解決するきっかけをつくり、長期的に解決するためのアクションを企業を巻き込んで行うスタートアップです。
──どのような事業を展開していますか?
西和田:2つのビジネスモデルがあります。
1つは、CO2排出量の見える化や削減ができるクラウドサービス「アスゼロ」です。クラウドシステムやコンサルとしてサポート等も提供します。
脱炭素を目指す中で、自社がどれだけCO2排出しているかを算出し、課題解決のきっかけをつくります。
「アスエネ」の2つのビジネスモデル。
出典:アスエネ
──もう1つの「ECR(ESG Cloud Rating)」はどのようなサービスですか?
西和田:ECRは、11月23日にリリースしたばかりで、持続的なサプライチェーン調達のための評価サービスです。
今はサプライヤーに対して価格や品質だけではなく、ESGのアクションを求める企業が増えています。
しかし、ESGについて、どの企業がどの程度取り組んでいるのか、評価が分からないという課題がありました。そこでECRは、正しくスコアリングして評価し、改善計画の提案までクラウド上で実行できるサービスです。
「アスエネ」の強みとなる、脱炭素ワンストップソリューション。
出典:アスエネ
西和田:会社としての強みは見える化をして、削減策の提案をすること。
さらに、実際にCO2を削減する・オフセットを実行するといったワンストップソリューションを提供します。これは他社にはない1番の特徴だと思っています。
日本、資源大国、ウクライナ…さまざまな国が参加
──そもそもなぜCOP27を見に行こうと思ったのですか?
西和田:世界の気候変動についてどのように議論され、関係者がどのような考えを本当は持っているのか、最前線の現場で見たい、議論したいと考えたからです。
JCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)という視察団の一員として参加しました。
──会場には何が展示されているのでしょうか。
西和田:さまざまな国の脱炭素技術や取り組みが展示されていました。
日本の展示ブース(ジャパンパビリオン)の様子。
出典:アスエネ
ジャパンパビリオンでのセッションの様子。
出典:アスエネ
日本は、脱炭素技術として、「CCUS」(二酸化炭素を貯留し活用する技術)と呼ばれるカーボンを回収する技術が公表されました。
1時間〜1時間半程度のセッションもあり、欧米企業の有名な方や日本企業で先進的に取り組まれている方などの話を聞けました。
他には次回のCOP開催地、アラブ首長国連邦(UAE)の展示もありました。
エジプトパビリオン、UAEパビリオンの様子。
出典:アスエネ
──UAEは石油大国でもあるので、どう気候変動対策に挑もうとしているのかは気になりますね。
西和田:そうですね。資源大国も再生エネルギーは重要と考え、技術やソリューションを拡大させていますが、一方で自国の資材も使いながらとなるため難しい問題ですね。
ウクライナパビリオンの様子。
出典:アスエネ
西和田:他にはウクライナの展示もありましたが、脱炭素よりも自国の状況を発信する側面が強かったです。
Net Zeroはパートナシップ・アライアンスの存在が不可欠
COP27の所感。
出典:アスエネ
──印象深かった出来事を3つ挙げていただきました。1つ目の「脱炭素の世界のメインストリームの産業の日本の遅れと制作のズレに対する危機感」とは、どのようなことでしょうか。
西和田:脱酸素のメインストリームには、再生可能エネルギー、EV化等が言われ、各国はいかにスピードを上げて取り組むかという議論をしています。
一方で、日本も2050年までにカーボンニュートラルにする目標を掲げていますが、施策としては、再生可能エネルギーに加えて水素を活用したソリューションも多数入っています。
この水素について、他国から懐疑的な意見が多かったのです。水素は比較的何にでも使える資源ですが、効率が悪くコストやスケールの観点からは不便な面もあると言われています。
世界と日本でズレを感じたという西和田さん。
撮影:小林優多郎
──その辺りにズレを感じたわけですね。
西和田:はい。日本のみで実施するなら良いのかもしれないですが、日本は少子高齢化でこれから市場も小さくなっていくでしょう。
世界でメインストリームとなる産業にいち早く取り組むことが、日本の産業力を強めることにつながると考えています。
──2つ目の「Net Zeroは1社で達成できない、パートナーシップ&アライアンス」は、どういうことですか?
西和田:Net Zero(温室効果ガスの排出と植林などによる吸収量で差し引きゼロにすること)は1社で達成するだけでは、地球全体にとって何の意味もありません。
本当に変革を起こすなら、競合を意識するのではなく、パートナシップやアライアンスによって周りを巻き込んで取り組まないと意味がないという意見が多かったです。
3つ目の「変革はリーディングプレイヤーが実行するのが一番、影響力の増加」については、やはり影響力をもつプレイヤーが舵を切ることが、一番変革が進むと感じました。
改めて我々も影響力を上げていかないといけないと思います。
企業やメディアも巻き込んで変革を目指す
日本の課題と取るべきアクション。
出典:アスエネ
──今後、日本はどのようなアクションを取るべきでしょうか。これも4つ重要なポイントを挙げていただいていますね。
西和田:1つ目は「短期思考 vs 長期思考」としていますが、長期思考を持つことが重要だと思っています。
日本は役員や社長が短期で変わっていくことも多く、短期的思考になりがちです。
例えばEVと(既存の内燃機関のある)車の関係も、短期的に見れば日本の場合EVを使ってもCO2はでます。ただ、ネットゼロを達成することを考えると、電化してその電気を再生可能エネルギーに変える方が長期的なコストも安くなると言われています。
こういったコミットメントは企業ができることですが、まだできていない部分が多いと思っています。
──短期的にしか評価されにくいことも背景にありそうですね。長期的にみるとどうなるかを見極めることが重要ですね。
西和田:はい。これは3つ目の「グリーンメジャーの不在」にも関わってきます。長期思考の良い事例として、欧州のグリーンメジャーと呼ばれるある発電会社があります。
2008年頃は、自社のポートフォリオの85%が火力発電、再生可能エネルギーは10〜15%程度でしたが、長期目標として30年ほどでこの割合を逆転させると宣言しました。
実際10年後には、再生エネルギーが90%を達して利益も当時の2倍以上になったといいます。
利益というビジネスの観点でも合理性のある話なので、そういったことを推進するプレイヤーが必要だと思います。
──2つ目の「Moon Shotで目標を掲げて実行するリーダー」は、どういうことですか?
西和田:Moon Shotで目標を掲げて、それを実行するために何をすればいいのか、どのようなテクノロジーで技術革新を起こさないといけないのか。こういったことを考えるリーダーは多くないので、増やす必要があると思います。
海外の企業では、Moon Shotで目標達成の施策を考える中で、イノベーションを加味することでコスト削減や普及が一気に加速して、到達すると話しています。
日本はイノベーションを加味せず「積み上げ式」の考えが多いように感じています。
報道の工夫についても話す西和田さん(左)と三ツ村(右、Business Insider Japan副編集長)。
撮影:小林優多郎
──4つ目「メディアの連携、異常気象&気候変動 科学的根拠」は、どのようなアクションですか?
西和田:海外では異常気象が起きた時、科学的な根拠に基づいて気候変動との関連性を指摘する報道が多いんです。一方で日本ではこういった報道のやり方はなされていません。
そのため、メディアの気候変動のリテラシーを改善する施策をやっていく必要があると思っています。
──メディアの人間として耳が痛いなと思いながら聞きました。判断が難しいところもありますが、報道サイドでも工夫すべきだと思いました。
西和田:そうですね。脱炭素は日本を含めた地球全体の話なので、企業がアクションするだけではなく、メディアとも連携して進めていけるとよいと考えています。
──最後に読者へメッセージをお願いします。
西和田:脱炭素の業界を変革していきたいと本気で思っているので、Net Zero達成へ向けて、1社だけでなく、パートナーシップ、アライアンスを持ち、色々巻き込んでいきたいです。
「BEYOND」とは
毎週水曜日19時から配信予定。ビジネス、テクノロジー、SDGs、働き方……それぞれのテーマで、既成概念にとらわれず新しい未来を作ろうとチャレンジする人にBusiness Insider Japanの記者/編集者がインタビュー。記者との対話を通して、チャレンジの原点、現在の取り組みやつくりたい未来を深堀りします。
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