現在、学生時代にインターンしていた企業に出戻り入社した2人。なぜ、出戻りを選んだのか?
撮影:横山耕太郎
就職活動の一部となりつつあるインターシップ制度。特にスタートアップ企業では学生を長期インターンとして採用するケースが増えている。
ただスタートアップでインターンをした学生であっても、就職活動の段階になると知名度の高い大企業などを志望するケースは珍しくない。
しかし、新卒では別の企業に入社したものの、その後、学生時代にインターンシップをしていたスタートアップ企業に「出戻り入社」する若手社員たちもいる。
彼らはなぜ、大学時代に働いた企業で再び働く道を選んだのか?学生時代のインターン企業へ「出戻り就職」した3人に話を聞いた。
記事の前編では、2人のケースを紹介する。
内々定後に複数のインターンを経験
Another worksで働く呉世鈴(お・せりょん)さん。呉さんは韓国籍だが、日本で生まれ育った。
撮影:横山耕太郎
「出戻り入社して今働いている会社は、学生時代に『就職までの準備』だと思ってインターンを始めたうちの一社です。人生わからないものですね」
複業マッチングサービス・Another works(アナザーワークス)で、カスタマーサクセス(顧客支援)を担当する呉世鈴さん(お・せりょん、26歳)はそう話す。
呉さんは津田塾大学の3年生だった夏から就活を本格化させた。秋頃には人材系企業の複数社から内々定をもらい、人材業やメディア事業などを手掛けるレバレジーズへの就職を決め就活を終えた。
入社までの期間、呉さんは住宅販売の企業や、香水の販売、大型小売店などさまざまな企業でインターンやアルバイトを経験。その中の1社が、アナザーワークスだった。
だんだんと会社への愛着を感じたが…
アナザーワークスとの出会いは大学4年の春のこと。
呉さんは1年前の大学3年の時、人材大手・パソナの約1週間のインターンに参加していた。その参加者が集まる同窓会の席で、アナザーワークス社長の大林尚朝氏に出会った。
大林氏はパソナの社員だった時代にインターン制度の設計に携わり、その後、2019年5月にアナザーワークスを起業。学生インターンを募集していた。
呉さんは軽い気持ちでインターンへの参加を決めたが、当時の社員は社長を含めて数人だけ。大林社長らと、当時まだベータ版だった複業マッチングサービスの営業に走り回った。
学生インターンも毎月のように増え、組織の拡大を肌で感じる日々だったという。
「名刺の渡し方も大林さんから教わりました。就活準備と思っていたのが、だんだん会社への愛着も感じるようになりました」
アナザーワークスから新卒入社のオファーもあったが、すでに内定していた企業への入社を決めた。
「安定した環境で働くことで、家族に安心してもらいたいという思いが強くありました。スタートアップよりも、ある程度は基盤のある企業を選びました」
背中を押してくれた社長の言葉
呉さんは、学生インターンをしていた企業の社長の言葉に救われたと話す(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
呉さんは2020年4月にレバレジーズに入社。当時は同期だけで150人を超えていたという。
法人営業を任され、人材マッチングの仕事にやりがいを感じたものの、思うように成果を出せないことに焦りを感じ、少しずつ体調を崩すことが増えた。
このまま仕事を続けられるだろうか…。学生インターン時代の同期で、そのままアナザーワークスに就職した友人に相談すると、社長の大林氏と1年ぶりに会う場を設けてくれた。
「大林さんからは『人は環境の生き物。環境が合えば成果が出るし、合わなければ本来出るはずの成果も出ない』と言われました。
当時は自信を失い、八方塞がりでどん底にいるような状態でしたが、前向きに働けていないのは環境が合わないだけなのかもしれないと思えるようになりました」
呉さんは1年4カ月勤めたレバレジーズを辞め、2021年8月にアナザーワークスへと「出戻り入社」した。創業当初の会社を知っていた呉さんにとって、ミスマッチの心配はなかったという。
ほぼ未経験だったがカスタマーサクセス職の第1号社員となり、これまでに100社以上を担当した。
「副業のマッチングと言っても、企業側のニーズはいろいろ。継続的にサービスを使ってもらうための支援にやりがいを感じています」
現在4期目のアナザーワークスは1期目から毎年長期インターン生から新卒採用をしており、2022年の新卒社員のうち5人は長期インターン生からの採用だった。
「インターン生にとっては、新卒で『この企業なら大丈夫』と思ってもらえている。私もこの会社と共に成長していきたいと思っています」
インターン「学生にこんなに任せてくれるとは」
キュービックで、人事を担当する初野美咲さん(31)。富士通から出戻り入社した。
撮影:横山耕太郎
「長期インターンからの新卒入社は断っていたので、まさか出戻り入社を誘ってくれるとは思ってもいませんでした」
デジタルマーケティング企業のキュービックで、人事を担当する初野美咲さん(31)も、新卒では富士通に入社し、その後、学生インターン先に出戻り入社した経験をもつ。
初野さんは早稲田大学2年の夏、当時まだ社員が5人のキュービックでインターンを始めた。
当時は「友人から勧められたアルバイトの感覚」だったが、働き始めてみると「ガラケー」向けのサイトの作成や、新たな事業としてECの立ち上げを担当。
「まだ会社も小さく、上司と2人でEC事業をゼロから始めました。大学生に『こんなに仕事を任せてくれるのか』と驚きの連続でした」
ただそのまま就職するか、と言われるとその気持ちはなく、就活では大手企業を中心に応募していたという。
「そのまま残る選択肢もあったのですが、これまでとは『あえて真逆に行きたい』と思っていました。EC事業の経験から、やっぱりネームバリューも大事という気づきもありましたし、あとは親の目を考え、大手の方が安心してもらえるという思いもありました」
女性としてのキャリアに不安
新卒採用では大企業を志望する学生も多い(写真はイメージです)。
Getty/Yongyuan Dai
初野さんは2014年、第1志望だった富士通にSE職で入社。同期入社は500人を超える、文字通りの大企業だ。
仕事では国や自治体などに係る事業を担当。やりがいを感じる一方で、女性としてのキャリアには疑問もあった。
「早い段階で裁量を持ちたいと思っていて、PM(プロダクトマネージャー)になりたいと伝えていたのですが、10年くらいかかるのが普通でした。入社後10年の間にはもしかしたら、結婚や出産もあるかもしれない。当時は女性のPMが少なく将来が描きにくいと感じていました」
富士通に入社してからもキュービックとのつながりは続いていた。
キュービックには数カ月に1度、社員に加え、現役の学生インターンやインターン卒業生が集まる懇談会があり、そこへ初野さんも度々参加していた。
新卒2年目を迎えてすぐのころ、西新宿に構えた新オフィスを訪ねたとき、世一英仁(よいち・ひでひと)社長から、「初野さん、うちに帰ってこない?」とオファーを受けた。
決断の理由は「価値観の近い人と働けること」
初野さんは1カ月間悩んで古巣への転職を決意。2015年に、未経験だったデジタルマーケ職として入社した。
「決断をした理由は、何ができるのかではなく、どんな経験ができるのかということと、自分と価値観の近い人たちと働けると思ったこと。
当時のキュービックはまだ社員が少なく、女性のキャリアモデルはいませんでしたが、ここでなら女性が活躍する職場にできると思えました」
デジタルマーケ職を経て、4年前からは人事を担当。「新卒で違う会社を選んだ経験も生きている」とも感じているという。
「他の職場と、創業した頃からの会社を知っていることは、中途社員を多く採用している企業の人事としては武器になっています」
初野さんは、社員はもちろん、学生インターンの育成を担当する立場でもある。
2022年11月時点で、キュービックの社員は約170人、インターン生は130人以上もいる。ここ数年は新卒を10人前後で採用しており、うち半分がインターン経験者からの採用だという。
「インターン生にも、ここで働きたいと思ってほしい。私のような出戻り社員ももっと増やしていきたいと思っています」