学生時代にユーザベースでインターンをしていた仲川さん(左)は、いくつかの企業を経て、ユーザベースに出戻り入社した。
撮影:横山耕太郎
「私の場合、学生時代に短期も含めて30社のインターンを経験しましたが、ほぼ記憶に残っていません。社長や働く社員がどんな世界を目指しているか、それが伝われば学生にも響くと思っています」
新卒で別の企業に就職したのち、学生時代にインターンをしていたAnother works(アナザーワークス)へ出戻り入社した呉世鈴さん(お・せりょん、26歳)はそう話す。
就職活動の早期化により、学生インターンの重要性が増している。
2025年卒の就職活動からは、採用直結型のインターンが解禁され、2026年卒の就活からは、一部の学生に限り、通年採用の実施についても議論されている。
ただ、大企業に比べ知名度が低いスタートアップや中小企業にとっては、例えインターン生を確保したとしても、その後、採用にまで結びつけるのは簡単ではない。
そんな状況にありつつも、インターン参加学生を、そのまま新卒採用できているスタートアップもある。
学生を引きつけ、将来的な採用につなげられている会社のインターンは、何が違うのか?
熱がこもったプレゼンに説得力
ユーザベースでM&Aや事業開発を担当する仲川英歩さん。
撮影:横山耕太郎
「3日間の短期インターンだったのですが、とにかくプレゼンの熱量が高かった。陳腐な言葉ですが特別なインターンでした」
ユーザベースでM&Aや事業開発を担当する仲川英歩さん(なかがわ・えいぶ、27歳)は、大学4年生のときに参加した、ユーザベースのインターンシップの印象が強烈だったと振り返る。
仲川さんは慶應義塾大学2年生の頃から、VCで2年半、長期インターンを経験。就活時期には起業も考えていたが、大学4年の時、ゼミの教授の薦めでユーザベースのインターンに参加した。
インターンは3日間。参加学生が4人1チームで「M&A戦略を提案する」という一般的な内容だったものの、3日のうち2日は、創業メンバーによるプレゼンだけ。
他企業の短期インターンは、人事による会社説明会の延長のような内容が多かったり、チームでただただ課題をこなしたりするのが普通で、プレゼン漬けは初めてだった。
「創業メンバーが事業やカルチャーについて、学生相手でも真剣に語ってくれて、妙に説得感がありました」
インターン終了後も交流続く
インターン最終日には、仲川さんのチームのM&A提案が1位に選ばれた。
仲川さんは、審査員だったユーザベース執行役員の太田智之氏から「このM&Aを実際にやろう」と声をかけられ、長期インターンとして働くことになった。
結局、仲川さんが提案したM&Aは実行にならなかったが、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などでM&A経験をもつ太田氏のもとで、資料作成から戦略立案、実際に相手先企業との面談まで関わることができたという。
その後、仲川さんは新卒で、給与即日払いサービスを手掛けるスタートアップ・ペイミーに入社。VCインターン時代の先輩が始めた会社で、「事業を作るフェーズ」に魅力を感じたのが理由だった。
ペイミーでは関西拠点長や事業責任者を経験。その後、マーケティング支援事業名などを手掛けるAnyMind Groupを経て、ちょうど転職活動を進めていた時、ユーザベースの太田氏から「出戻り」のオファーがあったという。
太田氏は2018年にユーザベースが買収した米メディア・Quartz MediaのCFOに就任して渡米していたが、その後、ユーザベースはQuartz事業から撤退。太田氏は帰国し、新たな事業開発チームを作るタイミングだったという。
表面的にミッションを伝えても響かない
仲川さんのPCにはユーザベースの7つのバリューの一つ「Thrill the user(ユーザーの理想から始める)」と書かれたステッカーが貼られていた。
撮影:横山耕太郎
仲川さんは転職活動で複数の大手企業から内定をもらっていたが、ユーザベースへの入社を決めた。
「インターン当時から、ビジョンと自分がフィットしていたと感じています。当時、ユーザベースの役員たちが語っていた夢が、形になっていく姿を外から見ていて格好よかったという気持ちもありました」
ユーザベースは、2022年11月に米カーライル・グループによる友好的TOBに賛同し、非公開化を発表するなど激しい変化が続くが、11月時点の学生インターンは91人(休学者を含む)と、多くの学生が集まる企業だといえる(社員数は約1000人)。
「学生も厳しく企業を選んでいます。ただ表面的にミッションを伝えるのではなく、学生も自分ごとになるような伝え方が大事になると思います」(仲川さん)
インターンでも「評価を徹底」
キュービックでは学生インターンの評価や目標設定の支援、オンボーディングを徹底している。写真は、自身も学生インターンの経験者でもある人事部の初野さん。
撮影:横山耕太郎
学生インターンを放置したり、ただ労働力とみなすのではなく、フォロー体制を整えている企業もある。
デジタルマーケティング企業のキュービックでは、インターン一人ひとりのスキルに合わせて3段階の等級を設け 、目標設定や評価を徹底している。
「学生は実践の場を求めており、私たち企業側も重要な戦力として考えています。彼らには、どんな点が秀でているのか、逆にどんなスキルが足りていないのか、きちんとフィードバックした上で評価するようにしています」
新卒で富士通に入社し、その後、学生インターンとして勤めていたキュービックに「出戻り入社」した初野美咲さん(31)はそう話す。
現在、キュービックの社員は約170人で、インターン生は130人以上。任せるミッションレベルによって等級が変わり、社員と同様にインターンの表彰制度も設けている。
就活などのキャリア相談では上司らはもちろん、社内のキャリアコンサルタント有資格者にも相談できるという。
スタンプラリーでオンボーディング
入社時の定着を支援するため、スタンプラリーのように「こなすべき項目」が定められている。
提供:キュービック
オンボーディング(新入社員への定着支援)にも独自の工夫がある。
会社にうまく馴染むための12項目が定められており、それをスタンプラリー形式で進めていくと「楽しみながらオンボーディングできる」という。具体的な項目は以下のように、具体的な形で示されている。
1…チーム外から依頼されたアンケートに回答して協力する
3…後輩インターンに庶務を教える
5…他チームの週次ミーティングに参加する
8…古株の社員とランチに行って、会社の歴史について聞き、周囲にシェアする
10…ボードメンバーとの入社半年ランチに参加する
ここ数年は新卒採用では10人程度を採用しているが、こうしたインターンへのサポート体制の成果か、半数は学生インターンからの採用だという。
「他のスタートアップからは『なんでこんなにインターンからの採用ができるの』と驚かれます。私たち企業にとっても、学生にとってもWin -Winの長期インターンにしていけたらと思っています」(初野さん)