ディズニーのボブ・アイガーCEO。
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2022年11月20日、ウォルト・ディズニー・カンパニー(Walt Disney Co.)は、2020年に退任したボブ・アイガー(Bob Iger)が、コロナ禍にCEOを務めたボブ・チャペック(Bob Chapek)に代わってCEOに復帰すると発表し、世界を驚かせた。多くの社内関係者は、同社で15年間CEOを務めたアイガーの復帰を歓迎している。
アイガーに期待される一番の変革は、2020年にディズニーで行われた再編の多くを元に戻すことだ。この時の再編では、スタジオやネットワークのクリエイティブ部門幹部から配信や損益に関わる権限が取り上げられ、それらの機能はディズニー・メディア&エンターテイメント・ディストリビューション(DMED)という部門のもとに集約された。
アイガーは11月9日付の社員への通知で次のように記している。
「ダナ・ウォールデン、アラン・バーグマン、ジミー・ピタロ、クリスティン・マッカーシーに、新しい組織作りに協力してくれるよう頼みました。我々がクリエイティブチームの手に意思決定権を戻し、コストを合理化するためにです」
名前が挙げられている4人は、それぞれテレビ、映画、ESPN、財務を担当する主要幹部である。
チャペックの組織再編
チャペックによる2020年の再編では、ストリーミングサービスのディズニープラス(Disney+)、フールー(Hulu)、ESPNプラス(ESPN+)の加入者数増を目指し、会社の力を販売促進に集中させた。しかしこの再編で、ディズニー・ジェネラル・エンターテイメント(DGE)部門にいるスタジオやネットワーク担当の幹部がプロジェクトを行うには、余計な承認プロセスが必要となってしまったのである。
映画やテレビシリーズにゴーサインを出す権限は建前上DGEにあったが、クリエイティブ部門の幹部たちが新企画を進めるかどうかの判断をする際にはDMEDから予算の許可を得なければならず、クリエイティブ部門の権限と独立性は大きく低下してしまっていた。
ディズニーの元幹部の一人はInsiderに対し、「損益をコントロールできなければ作品をコントロールできません」と語る。
つまり、ディズニープラスから20世紀スタジオ(20th Century Studios)やフールーに至るまで、ディズニーのスタジオやネットワークは自由がきかない状態になってしまっていたということだ。
ネットワークやスタジオ担当の幹部は、以前はさまざまなコンテンツの予算のバランスを取ったり、ショーランナー(制作総指揮者)に撮影日数を余分に与えることが自身の裁量でできていたが、それらの決定はディズニー組織内の余計な承認プロセスを経なければならなくなってしまったのである。
「予算については本当に難しくなりました」と語るのは、フールーのある元幹部だ。DMEDはストリーミングサービス担当の幹部らに対し、「加入者一人当たりのコンテンツにかけられる費用は限られている」と伝えたという。
一般的には理に適った判断かもしれないが、これにはネットワークやスタジオとタレントの間のさまざまな交渉や、クリエイティブな仕事の主観的な性質が考慮に入れられていないと、この幹部は語る。ハリウッドでは、最終的に新規加入者の獲得につながるかどうか分からなかったとしても、そのプロジェクトに一か八か賭けなくてはならない時もあるからだ。
「ひどい状態でしたよ。まるで戦場みたいでした。会社が過剰に複雑で非効率になってしまったのです」
ディズニーの現役幹部の一人も同様に、承認を得るためのお役所仕事的なプロセスは「正気の沙汰ではなかった」と口にする。「特に競争の激しい入札に参加していた時などは、本当にイライラさせられました」
遅れる意思決定プロセス
また、二人のハリウッドエージェントは、ディズニーと逆の立場から見ても同じような気持ちだったと明かす。
そのうちの一人は「このチーム(DMED)の承認を待つのは不愉快でした」と漏らし、そういったお役所仕事のせいでディズニーが他社に契約を取られてしまったこともあったと言う。
ディズニーのDMEDチームは、ある契約をファーストルック契約(スタジオやネットワークがプロジェクトを行う際、クリエイターの作品を優先的に最初に見ることができる契約)ではなく誤ってオーバーオール契約(スタジオやネットワークがクリエイターの仕事を独占する契約)として承認してしまったことがあった。比較的小さなミスだったにもかかわらず、ディズニーはこれを修正するのに長時間費やし、結局エージェントはそのプロジェクトを他社に持ち込むことにしたという。
「彼らは契約を逃したのです。これは間違いなく、彼らにとって良い結果ではなかったですね」(エージェント)
作品とビジネスニーズとのバランスを取ることでキャリアを築いてきたクリエイティブ部門の幹部らにとって、ビジネスに必要なことをコントロールできないというのは苛立たしいことだった。
予算と配信の決定権を引き継いだDMED幹部たち(その多くは広告販売、コンシューマープロダクツ、テーマパークといった無関係あるいは関連性の薄い部門から来ていた)の中には、新たな役割にあまり精通していなさそうな人もいたと、このエージェントは指摘する。もう一人のエージェントも同様の考えだ。
クリエイティブ部門の幹部たちをさらに苛立たせるような情報もある。マッキンゼー(McKinsey)のコンサルタントの提案に基づき、クリエイティブ部門から映画やテレビシリーズのマーケティングと宣伝に関する決定権を取り上げる検討がなされているとウォール・ストリート・ジャーナルが報じたのだ。
現在、ディズニー社内の関係者の多くは次の新たな再編に期待している。クリエイティブ・チームが予算や配信をコントロールできるようになること、またそのプロセスにおいてお役所仕事的な組織構造が一掃されることを望んでいるのだ。
ディズニーは昔から硬直した組織構造で知られており、マーベル(Marvel)、ルーカスフィルム(Lucasfilm)、ピクサー(Pixar)といったブランドや、ディズニーの歴史の中で培われてきた豊富な知的財産権を慎重に管理しようとする中で、時に意思決定が遅いとも言われていた。
数万人の社員を抱えるディズニーの今回の再編がどれほど迅速に行われるかはまだ未知数だ。前出の元幹部はそれをこう表現した。
「タイタニックの舵を取っているようなものですよ」