VTuber業界の大手2社がタッグを組むことで、所属ライバー・タレントが安心して活動できる環境を断固守っていく姿勢を改めて示したかたちだ。
出典:ANYCOLOR、カバーの公式サイトより。
2Dや3Dのキャラクターをアバターとして用いて活動するVTuber(バーチャルライバー、バーチャルYouTuber等とも呼称)プロジェクト「にじさんじ」などを運営するANYCOLORと「ホロライブプロダクション」などを運営するカバーは12月5日、所属するVTuberに対する誹謗中傷行為などの根絶に向けた対策で連携すると発表した。
業界の大手2社が協力体制を組むことで、所属VTuberたちが安心して活動できる環境を断固守っていく姿勢を改めて示したかたちだ。
誹謗中傷行為が「心を傷つけ、人生をも狂わせてしまう」
ANYCOLORとカバーの共同声明
出典:ANYCOLOR
両社が連名で5日に発表した共同声明文(ANYCOLOR、カバー)によると、「一部の方々による、所属バーチャルライバー/所属タレントの名誉又は信用を徒に貶め、VTuber活動を不当に妨害する意図をもった誹謗中傷行為等が存在する」と指摘。
その上で、誹謗中傷行為などが「インターネット掲示板やSNS等において、匿名のもと気軽に行われている」「所属バーチャルライバー/所属タレントの心を傷つけ、その活動が困難な状態に陥らせ、ひいては彼ら/彼女らの人生をも狂わせてしまう」ことがあると懸念を示した。
これまでもANYCOLOR、カバーのそれぞれが対策を講じてきたが、今後は「状況や事案に応じて両社で手を取り合い、誹謗中傷行為等の根絶に向けて邁進していく」とした。
具体的には以下の内容での連携を検討しているという。
・所属バーチャルライバー/所属タレントに対する名誉毀損行為、プライバシー権の侵害行為、『荒らし』行為等の営業権の侵害行為、殺害予告・ストーカー行為等の攻撃的行為に対して、その対策の実行にあたってのノウハウの共有
・(両社の所属バーチャルライバー/所属タレントを被害者とする事案に関する)法的措置を含めた各種対策の連携、警察諸機関と両社との連携体制の構築等
(ANYCOLOR・カバーの共同声明文より)
声明文によると、両社は2022年10月から同年11月にかけて所属VTuberの「名誉又は信用を貶める情報を掲載していると判断した一部のいわゆる『まとめサイト』運営者」に対し、「連携して交渉」に当たったという。
サイト運営者に対しては、今後は両社と両社所属のバーチャルライバー・タレントへの権利侵害や誹謗中傷などの助長行為を「一切行ってはならない」といった趣旨の一定条件を付け、示談書を締結したという。
誹謗中傷で実際に被害、各社が対策。業界全体の課題に
「VTuber」という文化が勃興して以来、運営企業やVTuberたちは、自由かつ安心・安全に個性や才能を発揮し活動できる環境の構築・保持のために対策をとってきた。実際、誹謗中傷など攻撃的な行為による被害が生じているからだ。
なかにはVTuber活動自体を休止せざるを得なくなってしまった事例もあった。
カバーの取り組み
カバーは2020年5月、所属タレントに対して「犯罪を示唆するような脅迫行為」や「プライバシーを侵すような悪質な発言」があるとして、「法的措置」も視野にいれると表明した。
同年9月には所属タレントへの誹謗中傷に対し、「匿名掲示板」に対するIPアドレスの開示請求をしたと発表した。誹謗中傷に対して、警察への被害届の提出やプロバイダー等に対する発信者情報の開示請求などの対策をとることも表明。誹謗中傷専用の通報窓口も設置した。
カバーによると誹謗中傷による被害は日本にのみにとどまらず「世界規模」となっているとし、「世界各国における所属タレントに対する誹謗中傷についても、必要な取り組み」をとる方針を明示している。
2021年9月には所属タレントに対する「誹謗中傷」と「権利侵害を伴う悪質画像の投稿」について、和解金の支払いで合意したと報告した。
ANYCOLORの取り組み
ANYCOLORでは前身の「いちから」時代の2020年9月に「攻撃的行為及び誹謗中傷行為対策チーム」を設置。所属するバーチャルライバーや従業員に対する「攻撃的行為」や「誹謗中傷行為」が発生した場合の対応を明確化し、通報窓口も設けた。
直近では同じく「にじさんじ」所属のアクシア・クローネさんが8月に配信活動を休止。ANYCOLORによると、SNS等において「誹謗中傷、悪意に基づく虚偽の情報の流布、アクシア・クローネに関わった他の弊社所属ライバーに対する誹謗中傷や危害予告がなされ、これが悪化・継続」していたという。
加えて、アクシアさん以外の所属ライバーの配信でも「(アクシアさんの)名前が含まれたスパムコメントが大量に投稿され、弊社の配信事業に対する著しい業務妨害行為」があったという。
ANYCOLORは「今回のような誹謗中傷行為等及び業務妨害行為によって、弊社所属ライバーが活動休止に追い込まれた事実を極めて重大な問題として捉えており、こういった卑劣な言動を決して許容いたしません」と表明。
アクシアさんも「無期限活動休止」について説明した自身の配信で一部ファンの行動に苦言を呈し、理解を求めていた。
しかし、アクシアさんは11月30日をもって「にじさんじ」を卒業。ANYCOLORによると「本人の強い意向」だったという。
「誹謗中傷」投稿の個人情報の開示、裁判所が命じた例も。
ネット上で「誹謗中傷」「名誉毀損」に相当する内容を投稿した人物の個人情報を開示するよう、裁判所がプロバイダーに命じた例もある。
2022年3月には「にじさんじ」所属ライバーの女性が、自身が演じるキャラクターに対する誹謗中傷を受けて投稿者情報の開示を求めていた裁判で、東京地裁が「(キャラへの中傷は)女性への名誉毀損といえる」と女性の主張を認定。プロバイダー側に対し投稿者の個人情報を開示するよう命じた。(2022年3月29日・朝日新聞デジタル)。
同様の判断は今夏にもあった。2022年8月、VTuberの女性がアバターへの中傷で自身の名誉を傷つけられたとして、プロバイダーに投稿者の個人情報の開示を求めていた訴訟について、大阪地裁は「本人への名誉毀損にあたる」と判断。プロバイダー側に投稿者の個人情報の開示を命じた。(2022年8月31日・朝日新聞デジタル)
「全VTuberに恩恵があると嬉しい」
ANYCOLOR、カバー以外のVTuberプロジェクト運営企業も誹謗中傷対策をとっている。
2021年10月には「ぶいすぽっ!」運営が「誹謗中傷行為、ストーカー行為、その他の攻撃的行為に対する対策委員会」を設置。「攻撃的行為に関する相談・通報窓口」を設けた。
VTuberプロジェクトを運営する企業側はライバーのデビューには数百人〜数千人規模のオーディションや2D・3Dモデルの作成など、時間的にも金銭的にも多大なコストをかけている。
待望のデビューを果たし、多くのファンから愛されるライバーとして育っても、度重なる誹謗中傷行為などでライバーが活動できなくなったり、引退したりすれば、経済的にも文化的にもその損失は計り知れない。
そしてなによりも、アバターの姿やロールプレイとはいえライバーとして活動しているのは心を持つリアルの人間だ。
今回の大手2社のタッグは、両社所属のVTuberの活動を守ることはもちろん、企業所属や個人勢の別を問わず、全てのVTuberが憂いなく活動に邁進できる環境づくりの萌芽としても期待されているようだ。
「にじさんじ」所属のベルモンド・バンデラスさんは、こうツイートしている。
「今回の件はにじさんじ、ホロライブだけでなく、まずは全Vtuberに恩恵があると嬉しいね」
ANYCOLORとカバーの共同声明文(ANYCOLOR、カバー)の全文は以下の通り。
共同声明文
いつもカバー株式会社、ANYCOLOR株式会社(ANYCOLOR株式会社、カバー株式会社)及び両社に所属するバーチャルライバー/タレントに多大なるご声援を賜り、誠にありがとうございます。
私たちは、VTuber事業を開始して以降、多くのファンの皆様に私たちの各種コンテンツをお楽しみいただき、皆様から大変温かいご声援をいただいておりますことに、日々大きな喜びを感じております。
しかし、その一方で、一部の方々による、所属バーチャルライバー/所属タレントの名誉又は信用を徒に貶め、VTuber活動を不当に妨害する意図をもった誹謗中傷行為等が存在することも事実であり、誠に遺憾です。
これらの誹謗中傷行為等は、インターネット掲示板やSNS等において、匿名のもと気軽に行われている現状がある中で、所属バーチャルライバー/所属タレントの心を傷つけ、その活動が困難な状態に陥らせ、ひいては彼ら/彼女らの人生をも狂わせてしまうことがございます。
そこで、私たちは、所属バーチャルライバー/所属タレントをこういった心無い誹謗中傷行為等から護り、ファンの皆様が安心して私たちの各種コンテンツをお楽しみいただけるよう、これまでに啓蒙活動や各種対策を毅然として講じてまいりました。今後はさらに進んで、同対策の実行に際して、状況や事案に応じて両社で手を取り合い、誹謗中傷行為等の根絶に向けて邁進していく所存でございます。
具体的には、所属バーチャルライバー/所属タレントに対する名誉毀損行為、プライバシー権の侵害行為、「荒らし」行為等の営業権の侵害行為、殺害予告・ストーカー行為等の攻撃的行為に対して、その対策の実行にあたってのノウハウの共有、(両社の所属バーチャルライバー/所属タレントを被害者とする事案に関する)法的措置を含めた各種対策の連携、警察諸機関と両社との連携体制の構築等を行ってまいります。
※2022年10月から同年11月にかけて、私たちは、所属バーチャルライバー/所属タレントの名誉又は信用を貶める情報を掲載していると判断した一部のいわゆる「まとめサイト」運営者に対して連携して交渉を行い、同サイト運営に対して、今後両社及び所属バーチャルライバー/所属タレントへの権利侵害及び誹謗中傷等の助長行為を一切行ってはならない旨の一定の条件を付す形で、示談書の締結に至っております。
私たちは、この度の両社の連携及び今後私たちが実行する各種対策の実行を通じ、所属バーチャルライバー/所属タレントが安心して活動できる環境づくりに向けた大きな一歩とすべく、引き続き体制強化に努め各種対策に取り組んでまいります。
これからもご声援のほど何卒よろしくお願い申し上げます。
以上