ソニーはメタバース向けセンサー「mocopi」を11月29日に発表。2023年1月下旬に発売予定。直販価格は4万9500円。
撮影:小林優多郎
VRやVTuber、メタバース業界をざわつかせたソニーの新型センサーデバイス「mocopi」(モコピ)に、注目が集まっている。
ソニーとしては新規事業として位置付けられるmocopiは、いわゆる「フルトラッキング」ツールで、装着することで全身の動き(モーション)をデータ化できる。
なぜ、同商品がメタバース界隈に驚きを持って迎えいられているのか。また、それ以外の業界にも活用の幅があるのか解説する。
500円硬貨大のセンサーでフルトラッキング
mocopiは6つのセンサーでできている。
撮影:小林優多郎
mocopiは、6つのセンサー……頭、腰、両腕、両足とスマートフォンアプリで構成されている。
それぞれのセンサーは、直径約3.2cm、8g。500円硬貨より一回り大きく碁石のような形状をしている。
写真左からアップルの落とし物発見タグ「AirTag」とmocopi。
撮影:小林優多郎
センサーの中央を押して電源を入れ、装着する各位置に対応するバンドに取り付ければ準備完了。
あとは、アプリの入ったスマホに接続し(Bluetooth LE Ver.5.2)、「1歩前に出る」という簡単なキャリブレーション作業をすれば、すぐにモーションデータを取得できる(スマホに表示されたアバターが動き出す)。
センサーの装着例。両足両手のセンサーは表面が体の外側に向くように装着する。
撮影:小林優多郎
mocopiのポイントは3点。「かんたん」「小さい」「(比較的)安価」となる。
本格的なフルトラッキングをするとなると、広く設備の整ったスタジオ(と高級な機材)が必要になる。それが6つのセンサーとスマホアプリだけで、できるとなると、場所の自由度もあがり、機材的なコストはかなり圧縮される。
mocopiのアプリには2種類のアバターがプリインストールされている。写真はそのうちの1つの「レイノス」。
撮影:小林優多郎
ただし、本格的なスタジオ機材とmocopiでは求められている精度が違う。
3D映画のメイキング映像などをイメージするとわかりやすいが、前者は関節などさまざまな位置にセンサーを取り付けて非常に正確かつ精細にデータを取るのに対し、mocopiのセンサーは6つだけ。関節などセンサーのない場所は、ソニー独自の機械学習エンジンによって「推定」されている。
寝転んだ際のアバター。地面に膝が食い込んでいるなど、やや破綻しているのがわかる。
撮影:小林優多郎
そのため、mocopiの苦手なシチュエーションというものがある。
前述の機械学習モデルが基本的に地に足がついた状態を想定しているため、ユーザーが寝転んだ状態や自転車など足が長時間中に浮いた状態のポーズには向かない(ジャンプや椅子に腰掛ける程度であれば対応可能)。
mocopiを使っている実際の様子と特徴。
撮影:小林優多郎、山﨑拓実
とはいえ、筆者も開発前のデバイスを実際に試してみたが、寝転ぶポーズを抜かせば、ほぼ正確に自分の動きとアバターの動きがピタリとあった。
その正確性で印象的だったのが、試用中にソニー担当者が筆者のモーションデータを反映しているアバターを見て「やや足の部分でバグが起きている」と指摘してくれたときだ。
確認してみるとそれはバグではなく、筆者の極端なX脚がかなり正確に反映されていたからだった。
なお、遅延については、試した会場ではほぼゼロ、体感値としては違和感がないくらいリアルタイムに反映されていた。
ただし、スマホの画面を別ディスプレイに写したり、後述するようなモーションデータを別のデバイス・サービスにブロードキャストするなどの処理が重くなる時、部屋の環境や周辺の電波環境によっては遅延が起き始める。
mocopiは単なるセンサー、活用できる幅は広い
mocopiの連続駆動時間は最大約10時間。充電は専用ケースに入れて行う(ケース側の充電端子はUSB Type-C)。
撮影:小林優多郎
mocopi自体はシンプルなデバイスだ。それぞれに加速度センサーがあり、その情報をスマホが受け取って処理し、モーションデータにしている。
スマホアプリでは、既存の2種類のアバターもしくは外部から読み込んだVRM形式のアバターを読み込ませて、動画を撮影できる。
また、アプリ内だけではなく、BVH形式のモーションデータだけを出力したり、「Unity」「MotionBuidler」「Virtual Motion Capture」といった3D・ゲーム・VR関連のソフトウェアにブロードキャストできる。
Quest版VRChatとmocopiを使っている様子。
撮影:小林優多郎
加えて、世界最大級のVR SNSの1つ「VRChat」も正式にサポート。Meta Quest版VRChatと連携させることも可能なので、QuestのHMDからとれる頭部、コントローラーからとれる腕のデータに、mocopiで取得した下半身のデータを「被せる」ことができ、よりリアルなコミュニケーションが可能になる。
これだけでも実用性は高そうに見えるが、ソニーは2023年1月下旬の発売前である12月15日にmocopiのSDK(Software Developer Kit)を公開予定としている。開発者であれば誰でもmocopiのデータを活用した連携機能を開発できる。
12月15日ごろにはSDKが公開される見込み。
撮影:小林優多郎
実際、11月30日に開かれた記者説明会で、mocopiを担当するソニーの新規ビジネス・技術開発本部 通信技術開発部門 モーション事業推進室室長の相見猛氏は「SDKを通してオープンに、協業の外でも自由に広がっていって欲しい」と話している。
価格に見合った価値をアーリーアダプター以外にも提案できるか
ソニー 新規ビジネス・技術開発本部 通信技術開発部門 モーション事業推進室室長の相見猛氏。
撮影:小林優多郎
やや気になる点があるといえば、まずは価格だろう。
発売当初の販路はソニー直販サイトに限定され、価格は4万9500円(税込)。
それこそフルトラッキングなどにピンとくるアーリーアダプターなユーザーにとっては「安い」と感じる人もいるだろう。
だが、VR HMDの「Meta Quest 2(128GB)」が直販価格5万9400円であることを考えると、「約1万円足せばもう1台VR HMDが買えてしまう」価格であることも事実だ。
他のメタバース関連サービスや製品と同じく、mocopiもどれだけ広い人の「日常」になれるかが鍵だ。
撮影:小林優多郎
販路が直販サイトに限定されており、新規事業の製品であることも考えると、1つあたりのコストが下がりにくいことは想像に難くない。実際の数値は非公開だが、ソニーの「PlayStaiton」「α」「BRAVIA」「Walkman」 などの王道の製品と比べれば製造数が少ないことが予想されるからだ。
現時点の狙いは、「モーションキャプチャーがあると便利」と、アーリーアダプターだけではなく、より幅広い人に広めることこそが、mocopiの生きる道だと言える。
発表時点でのメインターゲットは、機能的にもVRユーザーや3Dや動画制作者といった層になるが、リリースではSDKの提供により「フィットネスなどの領域での新たなサービス開発に貢献」と記載している。
想像の域は出ないが、コントローラーのセンサーをうまく活用して発売から約2年で1487万本(2022年9月末時点)を売り上げたNintendo Switch向け『リングフィット アドベンチャー』のようなフィットネスゲームにもmocopiが一役買える可能性はある。
SDKの公開により個人から企業まで、さまざまな開発者が自由にアイデアを出し合い偶発的なものが生まれることにも期待したいが、長期的にソニー自身が外部との協業やグループ・シナジーを活かして「便利で欲しい」と一般消費者に近い思ってもらえるmocopiの使い方が提案できるか、注目したい。