スラック(Slack)の最高経営責任者(CEO)に就任したリディアニ・ジョーンズ氏。
Salesforce
スラック(Slack)のスチュワート・バターフィールド最高経営責任者(CEO)の退任に伴い、親会社セールスフォース(Salesforce)の経営幹部、リディアニ・ジョーンズ氏が後任に就くことが分かった。
現最高技術責任者(CTO)のカル・ヘンダーソン氏とともにスラックを創業し、セールスフォースとの277億ドル(約2兆9000億円、当時のレート)巨額買収交渉をまとめたバターフィールドCEOは12月5日、社内向けのスラックチャンネルで年明け早々の退社を発表していた。
「スラックには新たなCEOが誕生します。リディアニ・ジョーンズです。素敵な人物で、まさに適任と言えるでしょう」
同日、ジョーンズ氏は早くもリンクトイン(LinkedIn)のプロフィールを更新し、肩書きをスラックCEOにアップデートした。
ジョーンズ氏の前職は、親会社セールスフォースのエグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー(エクスペリエンスクラウド・マーケティングクラウド・コマースクラウド担当)。2019年7月の入社時はシニアバイスプレジデント(プロダクト・コマースクラウド担当)だった。
それ以前は、ワイヤレススピーカーのソノス(Sonos)でソフトウェアプロダクトマネジメント担当のバイスプレジデントを4年弱、マイクロソフト(Microsoft)でアジュール(Azure)機械学習担当やオフィス(Office)コラボレーション担当のグループプロダクトマネージャーを12年以上務めた。
バターフィールド氏は先述のリンクトイン投稿で、ジョーンズ氏の人物評をこう記している。
「皆さんの誰もが彼女を気に入るでしょうね。実利的で問題解決能力が高く、洞察力に優れ、情熱的で創造的、親切で好奇心旺盛」
セールスフォースの広報担当はInsiderの取材に対し、後継CEOにジョーンズ氏を選ぶにあたって、バターフィールド氏の「多大なる尽力があった」ことを明かした。
バターフィールド氏は続けて、ジョーンズ氏が志を同じくする仲間であることを強調する。
「彼女は私たちと同じように、スラックのプロダクトに対するアプローチ、顧客に対するこだわり、独特のカルチャーに深い敬意を抱いています」
同氏はさらに、彼女がセールスフォース社内で「絶大な信頼を得て」いることに触れ、こう断言した。
「スラックのビジネス、顧客、従業員の擁護者として動いてくれると思います」
ジョーンズ氏はツイッターでもスラックCEO就任を報告している。
「将来にわたって、私たちはスラックが掲げるミッションから逸脱することはありません。人々が働く環境をよりシンプルに、より楽しく快適に、より生産的に変えていきます。
セールスフォースが抱える既存のお客さま、さらにこれから出会う多くのお客さまに対し、スラックの提唱する「デジタル本社(会社を動かすデジタル中枢)」を提供し、ともに成長し続けるチャンスが目の前に広がっているのです」
「奇妙なほどに合致した」退任発表のタイミング
バターフィールド氏は13年半前にスラックを共同創業。パンデミックの発生で突如訪れた急成長期を経て、2020年末にセールスフォースとの買収交渉に合意し、翌21年の買収手続き完了後もCEOとして「デジタルファーストの世界への歴史的な移行を主導」してきた。
ただし、その突然の退任発表は、親会社セールスフォースの経営幹部や主要子会社のトップが相次いで社を離れる判断を明らかにする中で行われ、従業員のより深い動揺を誘う形になった。
同社は11月30日に第3四半期(7〜9月)決算を発表した際、ブレット・テイラー共同CEOが就任からわずか1年で退任することを発表していた。創業者で共同CEOのマーク・ベニオフ氏の後継者と目されていただけに、社内外に大きな衝撃が走った。
フェイスブック(Facebook)元CTO、生産性ツールのクイップ(Quip)創業CEOという輝かしい経歴を持つテイラー氏は、セールスフォースに2017年から6年半在籍。スラック買収時には最高執行責任者(COO)として経営判断の中枢にいた。
在任中はツイッターの取締役および取締役会会長も兼務するなど、テック業界の凄腕経営者として名を馳せた。
バターフィールド氏は先述のリンクトイン投稿で、自らの退任とテイラー氏の退任は関係なく、発表時期が重なったのは「タイミングが奇妙なほどに合致」しただけと説明している。
しかし、バターフィールド氏は同じ投稿の中で、最高製品責任者(CPO)のタマル・イェホシュア氏とシニアバイスプレジデント(マーケティング・ブランド・広報担当)のジョナサン・プリンス氏も同時に退任することを明かしており、それも偶然という説明はにわかには信じがたい。
また、セールスフォースのテイラー共同CEO退任が発表された翌日(12月1日)には、傘下のデータ分析プラットフォーム、タブロー・ソフトウェア(Tableau Software)のマーク・ネルソンCEOの退任が判明。同日、セールスフォースのスティーブン・タムCTOまで社を離れることがツイッター投稿から明らかになっている。
こうした経営幹部の集中離脱が起きる以前から、セールスフォースは収益性改善の必要に迫られていた。
年初来、テック業界全体で株価低迷が続く中、セールスフォースの株価も50%近い下落を記録。とりわけ、決算発表に伴うテイラー共同CEOの退任発表後には1日で8%下落(11月30日と12月1日の終値ベースの比較)、バターフィールド氏の退任判明後にはさらに7%下落した(12月2日と12月5日の終値ベースの比較)。