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高まる経済的な逆風が、企業の財務状況に不安を投げかけている。
このような環境下で、レイオフやリストラといった言葉は残念なことによく聞かれるものになっている。第3四半期にじわじわと発生し始めた人員削減の波は、年末が近づくにあたって大きな津波に変わりつつある。
今回のレイオフは、ビッグテックと呼ばれる業界の有名企業が、かなりの人数を解雇している点で注目に値する。人によっては、解雇数は前例にない規模だというかもしれない。このことは、今後の景気後退の痛みが広範囲に感じられる可能性が高いことを示している、と考える業界人たちがいる。
大手ハイテク企業群、数週間で2万人以上解雇とのデータも
業界ウォッチャーたちは、以前の景気低迷期に売上高が逆に伸びたようなメタ(Meta)やグーグル(Google)などの企業の報告に慣れてきた。彼らは依然として市場の大多数を占めているものの、第3四半期決算の最終ラウンドでは、広告業界におけるこれらの企業による複占の支配がいかに弱りつつあるかを示した。
人事関連サービスを提供するスタートアップ企業コンペンセートがまとめたデータによると、市場が厳しい状況に備えるなか、大手ハイテク企業はここ数週間で2万5000人近くの従業員を解雇したことが示されている。
これらの人員削減の直接的な理由はケースバイケースである。たとえば、メタとスナップ(Snap)の最近のレイオフは、アップルのプライバシー保護対策の更新により、広告主がiOSデバイスのユーザーをターゲットにして追跡することが困難になったことが影響していると考えられる。一方、ツイッター(Twitter)の場合、混沌とした事態はいうに及ばず、より全社的な問題に対処している。そんななかで、広告主は(たとえ一時的なものであっても)同プラットフォームから離れつつある。
情報筋がDigidayに語ったところによると、アマゾン(Amazon)では1万人の人員削減が報じられたが、急成長している同社の広告部門にはほとんど影響していないという。最近人員削減がそれほど厳しくなかったマイクロソフト(Microsoft)も、広告部門の拡大を計画していると見られている。一方で、グーグルの親会社であるアルファベット(Alphabet)は人員削減に乗り出すのではないかとの噂が絶えない。
これらの措置は、COVID-19のパンデミックが世界中の経済の「デジタル化」を加速させ、メディア部門の雇用需要が旺盛であった2020年末から2021年初頭とは対照的である。
膨れ上がった人材プール
そして今、2万5000人を超える元ビッグテック従業員の流入が人材市場にどのような影響を与えるのか、多くの人が思索している。シリコンバレーの有名企業での勤務経験が履歴書に書かれていれば、採用者の目にとまることは間違いない。しかし、それらの候補者が業界の最大手企業以外でどのように活躍できるのか疑問視する者もいる。
結局のところ、アモビー(Amobee)、インフォサム(Infosum)、ライブランプ(LiveRamp)、ネクストロール(NextRoll)、パーミュティブ(Permutive)、クアントキャスト(Quantcast)、タブーラ(Taboola)、ビデオアンプ(VideoAmp)などの企業が最近同様の削減を行ったように、「企業の効率化」の犠牲となって小規模企業で解雇された元従業員によっても、利用可能な人材のプールは膨れ上がっている。
もちろん、ビッグテックの人員削減はエンジニアリング、製品管理、営業チーム、と多くの人材分野にまたがっている。このような業界ではエンジニア人材は常に求められているが、別の情報筋がDigidayに語ったところによると、大手テック企業で開発されたスキルセットは、リソースの少ない組織では必ずしも生かせない可能性があるという。
エンジニアは常に人気だが、マーケターは市場の回復待ちか
2020年後半から2021年にかけて人材獲得競争が熾烈になる前ですら、人材市場ではメタ、グーグル、ツイッターなどの大手テック企業が、営業職に業界最高水準の給与を支払ってきた。
最近の一連のレイオフを考えると、これは市場の「調整」と捉える人もいるかもしれない。ある新興企業のCEOは「メタやツイッターのようなサービスが給与のインフレを招いた。2023年に大きなリセットがあるだろう」と述べる。
デジタルメディア業界のベテラン幹部で、大企業からスタートアップまで勤務経験を持つジェイ・スティーブンス氏はDigidayに対し、現在の市場の状況は2000年のドットコムバブル崩壊と金融危機の余波に匹敵すると述べた。
スティーブンス氏によれば「エンジニア人材は常に人気がある」ものの、マーケティング人材は、市場が回復して求人が出るまでしばらくかかるかもしれないと言う。
元ビッグテック社員の給与もデフレ懸念
複数の情報筋によると、2010年初頭の時点ですでに、グーグルなどと人材獲得競争を繰り広げることは、とくに意欲的な企業にとっては高くついていたという。
この時期にルビコン・プロジェクト(Rubicon Project:現マグナイト〔Magnite〕)の国際マネージング・ディレクターを務めていたスティーブンズ氏は、グーグルなどから人材を引き抜くのは「(これらの人材が)非常に高い報酬を得ていたため難しかった」と言うが、デジタル広告の成長が頭打ちになりつつある現在、市場の力学は一変したという。
「(レイオフの一環として)フェイスブック(メタ)を辞めた人たちの多くは、おそらく給料を減らさざるを得なくなる。(給与における)ある程度のデフレは確実に起こるだろう」 (スティーブンス氏)
一方、3ピラーズ・リクルーティング(3 Pillars Recruiting)のマネージング・ディレクターであるダン・ゴールドスミス氏は、「業界における力関係の構図がこんなことになるのは見たことがない」と語った。
ゴールドスミス氏は人材獲得競争で採用候補者の給与期待が急上昇した1年前の市場の状況と比較した。「(ビッグテック出身の)多くの人がキャリアの逆境という、今まで経験したことのないことを経験しようとしている」と彼は結論付けた。