「知る人ぞ知る腕時計ブランド」が30代から人気を集めている理由。デザイナーに聞く、ものづくりの裏側

時計の短針が1周すると12時間で、2週すると24時間=1日となることは誰もが知っている。それでは一体どのように人類は、時の経過を表す単位として時間を定めたのだろう──? 

スマホの通知に気を取られながら慌ただしく1日を過ごしている現代人は、日常の中で流れる“時”への意識がなくなりがちだ。

2000年に誕生し「時を愉しむ」ための腕時計として独創的な世界観を追求してきたアナログ時計「CAMPANOLA(カンパノラ)」。2022年12月8日に、グランドコンプリケーションモデルの発売20周年を記念した、2つの限定モデルが発売された。

カンパノラは現代を生きるビジネスパーソンにむけて、どのような価値を提供しようとしているのか。単なる時刻を知るためのツールではなく、身につけた人の新たな「体験」をもたらす腕時計として、どんな思いや機能を詰め込んでいるのか。開発・デザイン時のエピソードとともに紐解いていく。

「自分らしく、長く大切に使う」ための腕時計

カンパノラ

「カンパノラ」グランドコンプリケーション 発売20 周年記念限定モデルの蒼波(そうは)税込506,000 円<左>と皨雨(ほしのあめ)税込517,000 円<右> 。

※特定店限定モデル(限定各120本)

カンパノラは、光発電エコ・ドライブやチタン独自の加工技術と表面硬化技術を有するシチズン時計が生み出したブランド。長年に渡ってカンパノラの商品づくりやデザインを手掛けてきた榎本信一氏は、誕生の経緯をこう語る。

「2000年のミレニアムのタイミングで、今後の消費動向について考え、新しい腕時計を発表しようと社内で話し合いを行いました。⼈と同じモノ持っていれば安⼼という考え方から、これからは自分らしいものを選び、長く大切に使っていく世界になる、と。そういうものづくりをしようと生まれたのがカンパノラです。

ある程度時計に対する知識をお持ちですでに機械式時計を何本か所有している方に向けて、腕時計本来の愉しみ方を提案するブランドとしてスタートしました」(榎本氏)

メインユーザーは、自分の価値観を持った30代

榎本氏

シチズン時計 デザイン部 チーフデザインマネージャーの榎本信一さん。

カンパノラの製品ラインナップは、時間を計測する機能であるクロノグラフや、パーペチュアル(永久)カレンダーといった、いわゆる複雑機構を備えた高価格帯モデルがほとんど。実用的なベーシックモデルやスポーツウォッチとは異なる、装飾性の高いデザインも特徴だ。それゆえ、機械式時計に慣れ親しんだ往年のファンが多いかと思いきや、近年の購入層は30代が中心なのだそう。

「私自身も店舗に立つことがあり、お客様の生の声を聞く機会があります。カンパノラを選んでいただいたお客様の多くは、他人と被らないこと、他にはない独自性を持ったブランドであることを重視していることが分かりました。

カンパノラは、“知る人ぞ知るウォッチブランド”というイメージがあるようですね。初回購入後に何本も続けて購入してくださるオーナーもいて、決して安い買い物ではないのですがコレクターも多いブランドです」(榎本氏)

人は昔、太陽や月の動きで時を知った

GettyImages-97547095

ブランド名は、まだ時計がなかった時代、南イタリア カンパニア地方の“ノラ”という小さな村で人類史上初めて時を告げたという教会の鐘“カンパノラベル”に由来している。

Getty Images

カンパノラの真骨頂は、4本のネジで固定された五徳に似たリング状のパーツを起点とした多層構造の文字板が、球面のガラス内に収められた立体的なデザイン。プラネタリウムを想起させるコスモサイン・コレクションや、月の満ち欠けを知らせるムーンフェイズ・コレクションなど、宇宙とのつながりを感じさせるモデルも展開している。

「古くは昔、時計がない時代は、人は太陽の動きや月の満ち欠けで時間や月日の流れを感じ取っていました。

そして、“時”という形のない概念を具現化した道具が時計です。カンパノラではこうした時計本来の目的に立ち返り、直径4センチほどのガラスに遮られたわずかな空間の中に、小宇宙を閉じ込めたようなデザインにすることで地球や宇宙とのつながりを表現した時計です。トレンドに左右されることのない、永久的なデザインを意識しています」(榎本氏)

カンパノラ

カンパノラが提案する、アナログ時計の本質的な価値とは?

正確な時刻を知るだけならばもはやスマートフォンで十分だし、今やスマートウォッチで血中酸素濃度や消費カロリーまで測定できる。こうしたデジタルテクノロジーがもたらす利便性とは異なる方向で、所有する楽しみがあり情緒に訴えかける高級機械式時計が世界的にも再評価されている。カンパノラが目指すアナログ時計の本質的な価値とは何なのだろうか?

「スマートウォッチにも、利便性や機能面で優れた部分はたくさんあります。しかし、スマートウォッチは結局のところ、多機能を競い合い、価格競争に巻き込まれて差別化が難しくなっていった家電と同じような道を辿るのではないかと個人的には考えています。

また、行き着くところまで進化し続けると、人間がスマートウォッチに管理されているような感覚を受けてしまうことにも、時計本来の目的からは少し違和感があります」(榎本氏)

インタビュー中

一方で、アナログ時計が持つ価値をこのように語る。

アナログ時計は、人が主体的に関わることではじめて動き出す道具です。たくさんのデータを管理するスマートウォッチとは違い、アナログ時計と人との間には双方向で良好なコミュニケーションがあると思うのです」(榎本氏)

複雑な機構を実現しつつ「日常使い」ができる時計へ

腕時計にはさまざまな種類が存在するが、その最高峰とされているのが「グランドコンプリケーション」だ。グランドコンプリケーションとは、ミニッツリピーター(音で時刻を知らせる)、パーペチュアルカレンダー(カレンダー修正を自動で行う)、クロノグラフ(ストップウォッチ機能)、トゥールビヨン(時計補正機能)という4大複雑機構のいずれか、もしくはそれらすべてを搭載した時計を指す。

ヨーロッパでもごく僅かな超高級メーカーでしか発売していない、希少で高額な腕時計である。そして世界的にも類を見ない、クオーツ式(電池式)でグランドコンプリケーションを実現したのがカンパノラだ。発売してから20周年を迎える2022年12月、数量限定で発売されたのが『皨雨(ほしのあめ)』と『蒼波(そうは)』の2モデルだ。

「皨雨と蒼波は、ミニッツリピーター、パーペチュアルカレンダー、クロノグラフに加え、月の満ち欠けを表示するムーンフェイズも備えたモデルです。これらの複雑機構を機械式で実現するとなると、最低でも数千万円はくだらないでしょう」(榎本氏)

腕時計

多くの人が手の届く価格帯でグランドコンプリケーションを商品化することは、シチズン時計の使命でもあると考え、試行錯誤の上で実現させた。中でも注目はミニッツリピーター。本物の鐘の音に限りなく近づけたカンパノラ独自の機構を搭載している。

「時計の2時位置にあるボタンを押すと、高低2種の音が鳴ります。その回数で、文字板を見ることなく時刻を知ることができるという通好みな機構です。昔、電気がなかった時代に暗闇の中でも音で時刻が分かるようにと作られました。

誇れるのは、世にあるミニッツリピーターが搭載された時計のほとんどは機械式ですが、カンパノラはそれをクオーツ式で実現していること。実現のための時計内の仕組みを話すときりがないのですが、カンパノラ独自の美しい音を出すことには相当こだわっています。

1本数千万円の腕時計を着けて気軽に外出するのは現実的に難しいと思いますが、『皨雨(ほしのあめ)と『蒼波(そうは)』は“日常使いができるグランドコンプリケーション”なのです」(榎本氏)

▼再生ボタンをクリックすると実際の音が流れます

最初に鳴る高い音が「時」、次になる高低の連続音が「15分」、最後の低音が「分」を表す。上記の音は、3時34分(高音3回+連続音2回+低音4回)を示している。

「世の中には、こんなにおもしろい時計がある」

カンパノラには、一つひとつのモデルに難読漢字を用いた和名が付けられていることもユニークだ。さらに、日本の伝統工芸である漆によって仕上げられた文字板は、多層構造と相まってさらなる奥行きと神秘性をもたらしている。皨雨の文字板は黒い漆に金色粉をまくことで夜空に浮かぶ星を、蒼波の文字板は青い漆に微細な金属粉を混ぜることで波間が光る海を想起させる。

「文字板に漆を採用するきっかけは、2002年に開催された腕時計の世界的な見本市であるバーゼルワールドへの出展でした。

バーゼルワールドは毎年2月〜3月に開催されていたのですが、直前の11月に取り組んでいた文字板の加工が暗礁に乗り上げてしまったのです。時間的な制約が差し迫っている中で関係者が集まりブレストをしたところ、文字板に漆を使うアイデアが出てきました。そうしてすぐに、漆加工をやっている工房と繋がりがある技術者経由で、熟練の漆職人の方を紹介していただくことに。仕上がった文字板が素晴らしい出来栄えだったので、この技法を採用してバーゼルワールドに出展することができました」(榎本氏)

偶然のきっかけから、カンパノラでしかできない独自の表現として漆の文字板が定着し、多くのモデルに採用されることになった。

「自然界の事象を切り取って文字板として表現し、モデル名とともにユーザーのイマジネーションを掻き立てることができればと考えながらデザインしています」(榎本氏)

時計

カンパノラのグランドコンプリケーションは、扱う楽しみや奥深さがあり、他社に真似できない独自のプロダクトだ。理屈抜きで引き込まれる見た目のユニークさはもちろん、操作する楽しみも存分に味わうことができる皨雨と蒼波は、アナログ時計本来の魅力を凝縮したアートピースでもある。

世の中にはこんなに面白い時計があるということを、もっと多くの人に知って欲しい。通電させることで極小の板を共振させて音を奏でるミニッツリピーターはシチズン時計だけの技術ですし、そこには電気回路の専門技術者の苦労と矜持があります。

数百以上にも及ぶ極小のパーツを、わずか直径4センチ程度のケースの中に組み合わせることも、高度な設計技術が求められます。

腕時計の世界に長年携わっていますが、その奥深さは計り知れません。アナログ時計には興味がなかった人にも、ぜひ一度その目でみて体感し、価値や楽しさを知ってもらいたいですね」(榎本氏)


カンパノラ

「カンパノラ」について詳しくはこちら。


Popular

Popular

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み