ドイツ銀行(Deutsche Bank)チーフストラテジストのビンキー・チャダ氏。
Deutsche Bank
アメリカが2023年にかけて景気後退を迎えるのだとすれば、株式市場がどう動くかを正確に予測するのはかなり難しくなる。
そんな中でも、ドイツ銀行(Deutsche Bank)はかなり詳細な見通しを立てている。
同行チーフストラテジスト(米国株およびグローバル株担当)のビンキー・チャダ氏によれば、足元で見られるベアマーケットラリー(弱気相場での上昇局面)は2023年第1四半期(1〜3月)まで続き、S&P500種株価指数は現在の水準(12月7日終値ベースで3933)より6~7%上昇する可能性がある。
続く第2四半期(4〜6月)までに、S&P500種指数の推移は横ばいになり、景気後退入りが近づくにつれ、多少の下落が見られるという。
チャダ氏含めドイツ銀行の株式担当チームは、2023年下半期の景気後退入りを想定しており、第3四半期(7〜9月)にはパフォーマンスの急落が確認されると予測する。
「年初のバリュエーションおよび業績予想に下方圧力がかかり(平均マイナス15%の予想に対してさらにマイナス12%)、全体としては33%(S&P500種指数は3250)の下落が予想されます」
これは10月中旬に記録した年初来安値(10月14日終値ベースで3583)をさらに下回る数字だ。
ただし、チャダ氏はその先の展開について、景気後退が長続きすることはなく、相場は急速に回復すると予測する。
株式市場の投資家は得てして、過去の経済データを援用するより、これからこうなるという将来への予想(あるいは期待)を基に判断を行うため、第3・第4四半期は株価が上昇し、S&P500種指数は2022年4月初旬の水準まで戻って4500前後になるとチャダ氏は予測する。
ただし、もし景気後退入りが予想より後ろ倒しになった場合、相場が横ばいを続ける期間は長くなり、したがって株価回復の始まりも遅れるという。
景気後退入りのタイミングはともかくとして、2023年に取るべき以下のような戦略を投資家向けに紹介している。
景気後退入りを控えた2023年の投資法
専門家の多くが、今日のハイテク株の投資判断をネガティブとしており、2010年代の高パフォーマンスを生み出した低金利はもはや過去のものだと言う。
しかし、チャダ氏はそうした見方に与(くみ)しない。
投資家がポートフォリオを組み替える中で、ハイテク株とりわけ時価総額の大きい巨大ハイテク銘柄は高いパフォーマンスを発揮する可能性が高いという。
「巨大ハイテクおよびハイテク株のパフォーマンスは、S&P500種指数の中期上昇トレンドチャネルのボトムすら大きく下回っています。
しかし、金利の低下とポジションの増加を受けて第1四半期(1〜3月)にスクイーズ(損切りのための買い戻しによる相場上昇)が想定されるため、ハイテク株は戦術的に反発する可能性があります」
チャダ氏によれば、金融および一般消費財セクターの銘柄も、ベアマーケットラリーが続く間は高パフォーマンスを期待できるという。
「金融セクターには利上げサイクルの影響が全く及ばず、経済成長の減速も直接的に織り込み済みです」とチャダ氏は指摘する。これは注目すべきことだ。と言うのも、金利は2022年に急上昇し、10年物米国債の利回りは直近の11月こそ低下したものの、過去十数年で見ても最高水準にあるからだ。
「もし景気後退の懸念が後退し、金利は高止まりしたまま、もしくは金利の低下が若干程度にとどまるなら、金融株はアウトパフォームする可能性があります」
また、一般消費財セクターの銘柄も足元では売られ過ぎていると、チャダ氏は指摘する。
景気後退による劇的な株価下落を予測する投資家たちは、軒並み一般消費財株の手じまい売りを進めてきたが、チャダ氏はいまを比較的良い買いのチャンスとみる。
「一般消費財セクターは2022年の株価暴落で最も打撃を受けた銘柄が集中し、近頃の回復を経てもなお、3分の2をゆうに超える確率で景気後退を織り込んでいます」(チャダ氏)
それに対してS&P500種指数は、景気後退入りした場合のボトムと(景気後退を回避して)ソフトランディングした場合のピークのほぼ正確な中間の水準にあるという。
チャダ氏はさらに、戦争、弱い経済、高インフレという極めて厳しい環境の下でも素晴らしいパフォーマンスを発揮している欧州株に、重点的な資産配分を推奨する。
「欧州株は、ロシア・ウクライナ戦争、天然ガスの供給危機、欧州の景気後退という極度のネガティブインパクトにさらされているにもかかわらず、一定範囲内のパフォーマンスに踏みとどまっており、注目すべき存在です」(チャダ氏)
ところが、投資家はトータルで見ると欧州株をアンダーウェイト(ベンチマークに対して資産配分を少なく)している現実があり、今後は買いが増えると思われる。
なお、チャダ氏はヘルスケア、不動産、通信、公益事業といったディフェンシブセクターについて、アンダーウェイトを推奨する。
その理由として、2022年のディフェンシブセクターは全体としてアウトパフォームしているものの、高金利の際にはリターンが低下する傾向にあり、それゆえ他のセクターに比べてアップサイド(上振れ余地)が少ない、とチャダ氏は説明する。