荷物を満載したカートを引くアマゾンの配達員。
Brendan McDermid/Reuters
- 2022年10月のアメリカ人の貯蓄率は過去17年間で最低だった。
- インフレのせいだけではない。我々はどんどん買っているのだ。
- 2023年には景気後退が迫っているが、アメリカ人の中には、もっと経済的な余裕を作っておけばよかったと思う人がいるかもしれない。
アメリカ人は徐々に金が底を突きつつある。2023年には景気後退がやってくると言われており、間違いなくこれ以上悪いタイミングはないだろう。インフレ率の上昇が原因とされるが、個人消費が引き続き好調であることもその要因の一つだ。
2022年11月1日のアメリカ商務省経済分析局の発表によると、2022年10月の個人貯蓄率(アメリカ人の収入に占める貯蓄額の割合)は2.3%に低下したという。これは2005年以降で最も低い水準で、1959年以降では過去2番目に低い水準だった。景気刺激策や失業手当の拡充などによって、家計はパンデミックの間に約2兆5000億ドル(約341兆2762億円)の貯蓄超過となったが、インフレは消費者の支出を増やして貯蓄を減らす原因となっており、経済学者は1年以内に貯蓄はすべてなくなると見積もっている。
しかし、アメリカ人の貯蓄が減少している理由は物価の高騰だけではない。2022年10月のインフレ調整後の個人消費は0.5%増と、2022年1月以降で最大の伸びになっているのだ。
「経済の回復力を示すものだ」と、RSMのチーフ・エコノミスト、ジョセフ・ブラスエラス(Joseph Brusuelas)はこの好調な消費動向についてウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に語っている。ブラスエラスは2023年にアメリカは緩やかな景気後退に入ると予想しているが、「雇用は確保しやすく、人々は自信を持っており、消費を続けるだろう」と話している。
消費者信頼感調査によるとアメリカ人はアメリカの経済状況についてかなり悲観的であることが示唆されているにもかかわらず、2022年第3四半期の決算説明会で多くの企業が、新型コロナウイルスの規制緩和以降、消費者の支出は急増し、好調であることをアピールした。1000万人以上の求人があり、失業率は50年ぶりの低水準に近いことから、万一失業した場合に頼りになる経済的な余裕(貯蓄)の必要性を感じないアメリカ人もいるかもしれない。
しかし、現在の景気は長続きしないかもしれない。アメリカは2023年景気後退に入り、それに伴い求人数は減少し、失業率は上昇すると専門家は予想している。インフレはすぐには収束しないとも予想されており、アメリカ人の賃金の上昇はインフレに遅れを取り続ける可能性がある。すでに多くの人がクレジットカードによる負債を抱えており、直近の四半期では20年以上振りの大きな増加を記録している。
もし2023年に景気後退に入ったとすれば、嵐を乗り切るためにもっと貯蓄しておけばよかったと後悔するアメリカ人も出てくるだろう。
しかし、経済、特に雇用の安定に対するアメリカ人の信頼は正しい可能性もある。アメリカ連邦準備制度理事会は、失業率は2022年の3.7%から2023年は4.4%まで上昇すると予測している。仮にこの予測を超えたとしても、大多数のアメリカ人が解雇の犠牲になることはない。
もし失業したとしても、依然として人手不足に悩んでいる企業があるため、2023年のさらに数年先まで労働者の需要は大きいと考えるのが妥当だろう。
「高齢化と近年の移民増加の鈍化によって、アメリカは長期的な雇用難に直面する可能性が高まっている」とグラスドア(Glassdoor)のチーフエコノミスト、アーロン・テラザス(Aaron Terrazas)は以前Insiderに語っている。
しかし、解雇を回避し、短期的には今と同レベルの消費を続られるアメリカ人でも、貯蓄を増やさないことで将来的に金銭的に影響が及んでしまう可能性がある。
「ベビーブーマー世代(1946年から1964年頃生まれ)の少なくとも60%は、十分な蓄えがない状態で退職生活に入るだろう」とボストン大学の経済学者、ローレンス・コトリコフ(Laurence Kotlikoff)は以前Insiderに語っている。そしてその後に続く世代についても、「状況がさらに悪化すると考えるに足る理由が数多くある」と述べている。