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今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
「どうしたら自分に自信を持てるのか」というお悩みを抱えていらっしゃいます。
Aさん
最近「自己肯定感」という言葉をよく聞きます。自己肯定感が高いと自分に自信が持てて、主体性を発揮し、失敗を恐れずに行動できる傾向があるのだそうです。実は私はこれと真逆で、幼少期から自分に自信がなく、周囲と比べては「自分はダメだ」と思ってきました。
世の中で活躍している人を見ていると、みなさん自己肯定感が高そうに見えます。ああいうふうになりたいと思ったのですが、先日たまたま読んだ本に「自己肯定感は子どものうちに育てるもので、大人になってからでは高められない」と書かれていてがっかりしました。
私が今からでも自己肯定感を高める方法はないものでしょうか。私自分のキャリアに自信が持てて、自分を肯定して生きられるようになりたいです。森本さんはキャリアアドバイスもよくされているので、何かヒントがあればお願いします。
(Aさん/30代前半/女性/団体職員)
自己肯定感、確かにとても大切だと思います。
自己肯定感が高まれば、あらゆるものへの見方・捉え方が変わり、仕事にも日常生活にもいい影響を与えます。
「自分には無理。やめておこう」ではなく「やってみよう」というスタンスで新たなことにもチャレンジできるでしょう。その体験によって成長を感じられれば、さらに自己肯定感が高まり、いいサイクルが生まれます。
さて、Aさんは「大人になってからでは手遅れ」と聞いてがっかりされたそうですが、そんなことはないと思います。
どれだけ年齢を重ねても、人はある体験によって自分に自信を持てるようになります。
その体験とは、「感謝される」こと。
感謝され、「自分は必要とされている」と実感することです。
ところが、職場や家庭で「感謝されることがほとんどない」という方も多いですよね。仕事であり役割であるから、「やって当たり前」と思われてしまっている。
また、実際には「おかげで助かっている」「いてくれてありがたい」と思われていたとしても、それを言葉で表してもらえないので、感謝されていることに気づくことができない。
そうすると「私は必要とされていないのでは」と、自信を失ってしまうのではないでしょうか。
ではここから、「感謝される」体験を増やすための方法をいくつかお伝えします。
「サードプレイス」で活動する
私は日頃から、職場でも家庭でもない「サードプレイス(第三の場所)」を持つことをみなさんにお勧めしています。一例をご紹介しましょう。
サークル/コミュニティ
例えば、趣味のサークルや興味があるテーマに取り組むコミュニティなどです。
ランニングのサークルに所属している私の知人(50代)は、いつも派手なカラー・デザインのウェアで参加し、元気いっぱい。メンバーの気持ちを盛り上げ、慕われています。
その方はこんなことを言っていました。
「僕は会社では窓際族だし、家に帰っても家族に相手にされない。でも、このサークルに来ると、本当に元気になるんだ」
どこまで本気か冗談か分からないのですが、その方にとってはランニングサークルが自分の存在価値を実感できる場となっているようです。
サードプレイスは、自分の強みを発揮して、他のメンバーからの評価や感謝を受けるチャンスが豊富な場所です。なぜなら、そこに参加しているメンバーの業種・職種・社会的立場などが多様だから。
「自社の職場ではできて当たり前のこと」が、サードプレイスでは「希少スキル」として重宝されるケースは多々あるものです。
例えば、司会やファシリテーション、活動費の計算や予算管理、文書作成、対外折衝、動画編集など。自分の専門知識やスキルを活用して、運営に必要な業務を買って出ると、感謝されるでしょう。
副業
専門性を活かすという点では、「副業」をしてみるのもアリだと思います。
最近は副業者を求める企業と副業希望者のマッチングサービスもありますので、報酬にはこだわらず、「自分が役に立てる」ことを意識して仕事を選んでみてはいかがでしょうか。
特に、大都市圏で働く人が地方企業の業務の一部を請け負う「ふるさと副業」などもお勧めです。
地方企業では「専門スキルを持つ人材を地元で採用するのが難しい」という課題を抱えていますが、コロナ禍以降はリモートワークが一般化し、「ふるさと副業」の事例も増えています。
大都市圏のビジネスパーソンとしては一般的なスキルでも、地方では希少価値が高く、感謝されるケースが多いようです。
ボランティア活動
サードプレイスで自己肯定感を高めるのに最も効果的なのが「ボランティア活動」です。
人材を必要としている、けれど人件費にコストをかけられないNPO法人などでは、常にボランティアスタッフの支援を求めています。
ボランティアは無償で、いわば「善意」のみで時間と労力を提供するわけですから、運営側の方々からはとても感謝されます。
私もNPO法人の理事を務めているため、イベントなどに参加することがあります。
職員の方々がボランティアのみなさんに心からの「ありがとう」を伝え、その言葉を受け取った方々も笑顔で応える……そんな光景に、いつも心が温まります。
このほか、母校や地域の学校のクラブ活動などを監督・コーチ・スタッフとして支援している方もいらっしゃいます。
後輩や地元の若者の活躍や成長に貢献し、喜ばれる。中には、試合に勝利し、涙を流すシーンも。「仕事では味わえない感動を得た」という方もいらっしゃいます。そんな体験も、自己肯定感アップにつながるのではないでしょうか。
自分の職場に「感謝し合う」カルチャーを作る
サードプレイスでは、すぐにでも「人から感謝される」「必要とされる」体験ができる可能性があります。
一方、多少時間はかかりますが、自分が身を置いている職場を「感謝し合う風土」「褒め合う風土」にしていく方法もあります。
自分が「感謝される」「褒められる」ことによって自信を持ちたいと思うなら、まず自分から率先して、一緒に働くメンバーを「褒める」「感謝を言葉に出して表現する」ことを実践してみてください。
それを習慣化すると、いずれは周囲に波及して、職場内に「褒め合う」「感謝し合う」空気が醸成されていくでしょう。
必然的に、自身も褒められたり感謝されたりする場面が増えるわけです。
褒めるためには、ボキャブラリーも必要。いつも「すごい」「さすが」だけでは、相手の心に響きません。
相手や状況に応じて褒める表現のバリエーションを学べる『ほめ言葉ハンドブック』という本もありますので、こうしたノウハウも活用しながら、まず自分から周囲の人を褒めてみてはいかがでしょうか。
組織のエンゲージメントを高める人事施策として、「褒め合う」「感謝し合う」ことを制度化・仕組み化している企業もあります。
例えば、ある企業では、特定のメンバーを決め、その他メンバーがその人の優れたところ、感謝していることを伝えるというプログラムを定期的に行っています。
「今月は○○さん」と決めたら、メンバーが順番に「○○さんの××のスキルはすごいと思う」「先日、○○さんにこんなサポートをしてもらって助かった」といったポジティブな気持ちを伝えるのです。
また別の会社では、3カ月に1回のオンライン全社会議の中で、「チームメンバーが上司に対して日頃思っていることを伝える」コーナーを設けています。
この場では、不満ではなく、ポジティブなフィードバックをするルールとなっています。
なお、こうした企業の施策を支援する「ピアボーナス」のサービスも提供されています。「Unipos(ユニポス)」「THANKS GIFT」「RECOG(レコグ)」など、さまざまな種類があります。
ピアボーナスとは、「peer(仲間)」と「bonus(報酬)」を組み合わせた言葉。つまり、会社から社員に報酬を与えるのではなく、職場の仲間同士で報酬を与え合うものです。
ここでの報酬は、「ポイント」。アプリなどを使い、褒めたい相手・感謝したい相手に対し、メッセージと同時にポイントを送ります。ポイントが貯まれば、会社からの特典やインセンティブなどを受け取れるといった仕組みです。
全社員に一定数以上のピアボーナス発行を義務づけると、みんな意識して同僚の良いところを探したり、してもらったことへの感謝を意識したりするようになります。
これが習慣化することで、褒めたり感謝したりするカルチャーが育まれるわけです。
Aさんも、「チームエンゲージメント向上のために」として、このような仕組みの導入を職場に提案してみてもいいかもしれませんね。
同僚が自身に対して抱いているポジティブな気持ちや評価に気づき、自信を持てるようになるかもしれません。
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※本連載の第93回は、12月26日(月)を予定しています。
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。