写真左から、「by b8ta」の記者向け説明会に登壇したb8ta Japanの代表の北川卓司氏、by b8taを導入するN2i代表取締役社長の篭橋裕紀氏、 兼松コミュニケーションズのエンターテイメント事業部 部長の神田洋一郎氏、福島日産自動車 代表取締役の金子與志幸氏。
撮影:小林優多郎
「売らない小売店」こと体験特化型店舗のb8ta(ベータ)は12月8日、同社の技術やノウハウを外販する「by b8ta(バイベータ)」を発表した。
すでに、N2i(名古屋)や兼松コミュニケーションズ(東京)、福島日産自動車の3社が導入を決定。今後、2023年度中には30拠点への導入を目指す。
自社運営の拠点だけではなく「体験型店舗」の仕組みを外販することの狙いについて、b8ta Japan代表の北川卓司氏に話を聞いた。
アメリカ全店閉店、by b8taは新たな収益の柱に
b8ta Japan代表の北川卓司氏。
撮影:小林優多郎
b8taは2015年にアメリカ・サンフランシスコで生まれたが、2022年2月18日にアメリカの全店舗が閉店した。
そして2022年2月24日、b8ta Japanは「b8ta」の商標権やソフトウェアのライセンスを取得。アメリカのb8taから独立するという異例の対応をとった。
北川氏はBusiness Insider Japanの取材に対し、アメリカの閉店について「コロナが原因」だとする。
日本と違い、車社会で公共交通機関の移動が少ないことや、地域によってはロックダウンが起きたこと、いくつかの店舗はレベニューシェアで収益を得ていたことなどを挙げた。
2017年9月に撮影したアメリカ・カリフォルニア州パロアルトのb8ta。
撮影:小林優多郎
しかし、北川氏はコロナ禍前、b8taに入社した2019年11月当初から「結構きつい(ビジネス)モデルなんじゃないか」と感じていたという。
北川氏はパンデミックを予見していたわけではないが、「(家電量販店の多い)日本では、家電だけで絞っていくのは難しい」と、ガジェット中心に展開するb8taのレパートリーに課題意識を持っていた。
2020年日本上陸当初のb8ta 有楽町の店内。
撮影:小林優多郎
また、b8taのビジネスモデルにも限界を感じていた。
b8taは「ショールームの一画」を企業に一定期間貸し出し、その一画に訪れた客の人数や反応などのデータをレポートする。出展する企業はその利用料をb8taに支払う、というサブスク型のモデルを展開している。
つまり、b8taの売り上げは「店舗の数と売り場の広さ」と「スペースの稼働率」、そして支出は「賃料や人件費など固定費」がキーになる。
北川氏としては「(日本では)最大10店舗ぐらいが限界」「別に売り上げを伸ばしていく(ビジネス)モデルが必要」と2020年の参入当時から考えていた。
その新しい収益の柱として、ベールを脱いだのが今回発表になった「by b8ta」というわけだ。
「by b8ta」は自社実店舗の「データ利活用」のニーズを狙う
「by b8ta」が提供する8つの項目。
撮影:小林優多郎
by b8taは「b8taのような体験型店舗を自社で運営したい」と考える企業向けのソリューションだ。
by b8taは、来客・行動データを管理・分析するソフトウェアはもちろん、店舗に置くタブレットや什器などのハードウェア、デザイン、接客トレーニング、PR・ブランディング支援など、全8つの項目を用意。
b8taに置かれた商品とタブレット(2020年7月撮影)
撮影:小林優多郎
導入企業は実現したい店舗の規模感や企画内容に応じて、導入する項目を取捨選択できる。
また、北川氏によると店舗だけではなく量販店の体験コーナーのような小規模なスペースでも導入できるという。
福島日産自動車は2023年春頃、同社の郡山のショールームにby b8taの「売らないトレーニング」「ソフトウェア」「ハードウェア(タブレット など)」「什器のデザイン・製作支援・店舗レイアウト」を導入する。
画像提供:b8ta Japan
なお、アメリカでは、大手百貨店のMacy's(メイシーズ)の一部店舗で、b8taの仕組みを導入した例があったが、その際の店舗運営はb8taが担当していた。今回のようなシステムの完全な外販は初の試みとなる。
北川氏は「(ECサイトなどの)オンラインでの売り上げも伸びている中で、OMO(ECと実店舗を掛け合わせること)の観点からも、(実店舗で得られるデータの可視化の)ニーズは少なくなっていくということは、あまり考えられない」と自信を見せる。
特に期限は明確にしていないが、将来的には「(売り上げの)8割がby b8taになっていく」(北川氏)としている。
知名度アップを狙い、2025年度までに8店舗目の開店を計画
2023年度のb8taの計画。
撮影:小林優多郎
とはいえ、課題もある。それは「b8ta」自体のブランドの知名度だ。
b8taの稼働中の4店舗は、東京・有楽町、新宿、渋谷、埼玉・越谷と関東圏に限られている。
2023年春には大阪に「b8ta Osaka – Hankyu Umeda」をオープンするが、いずれにせよ都市部での展開であることは変わらない。
b8taの直営店は、出展企業の商品のショーケースであると同時に、by b8taそのもののショーケースにもなり得る。
日本でb8taを定着させるために、持続可能なレベルの数の店舗をオープンしていくことは必要だ。
この点について、b8ta Japanは2025年度中に8店舗目までのオープンを計画。また、比較的短期間のポップアップショップの実施も検討している。