アルファベットを率いるサンダー・ピチャイCEO。
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※この記事は2022年12月19日初出です。
投資家から人員削減を求める声が上がっているにもかかわらず、アルファベット(グーグルの持株会社)はメタやアマゾンなどのテック業界の競合が人員削減を行っているなかでも抵抗を続けている。
景気後退を見越して従業員の選別を行う企業が増え、アクティビスト投資家がコスト削減を求めるなか、投資家はアルファベットが数多く抱える事業の中でも、特にどの分野の業績が良く、どこで経費削減ができるかを見極めようとしている。
そんなときに有効なのが、アルファベットの各事業の収益性分析だ。同社は全事業の利益率を公表しているわけではないが、バーンスタインのアナリスト、マーク・シュムリック(Mark Shmulik)は最近、公開情報と推計を用いたレポートをまとめ、アルファベットの事業ごとの収益性を明らかにした。
もちろん、収益性が常に目安になるとは限らない。例えば、Google Cloudのような急成長事業はまだそれほど収益性が高くはないものの、そこで大規模な人員削減を行えば自社の成長が阻まれるおそれがあるため、グーグルは人員削減をためらっているようだ。
それでも、景気後退が続くなかでグーグルの事業として何がうまくいっているのか、長期的に見て成功しそうな分野とそうでない分野がどこなのかを知る手掛かりにはなる。
以降では、バーンスタインの試算に基づき、グーグルの主要な事業を収益性が高い順に紹介する。なお、グーグルにもコメントを求めたが、回答は得られなかった。
Google Playストア(広告を除く)
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グーグルは、自社のアプリストアを通じてダウンロードされたアプリの決済に対して手数料を取っている。グーグルにとっては低コストで運営できる事業であり、Android上で動くアプリの決済の際に手数料は必須であるため、確実に収益が確保できる。
グーグルのアプリストアが反競争的であるとしてアメリカの州司法長官らが提訴した反トラスト法裁判において、グーグルはアプリストアで2019年に112億ドル(約1兆5000億円、1ドル=135円換算)の売上、85億ドル(約1兆1400億円)の利益を得たことが明らかになった。
2021年の広告収入2000億ドル(約27兆円)超と比べれば額は小さいが、効率的な事業であることは間違いない。2019年には、Google Playストアの決済事業で利益率60%という数字を打ち出していたという。
検索広告
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検索広告はグーグルの収益の柱だ。検索広告とは、Google検索結果の下に表示される広告のことで、その他にもGmail、Googleマップ、Google Playストアに表示されるその他の小さな検索広告も含まれる。
2021年、グーグルはこの事業で1490億ドル(約20兆円)の収益を上げた。バーンスタインはこの事業の利益率を約55%と見積もっている。
YouTube広告
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YouTube動画に表示される広告は、近年、グーグルの広告事業の成長を大きく牽引してきた。2021年の同部門の収益は290億ドル(約3兆9000億円)にのぼる。
しかし、YouTubeは多くの場合、その収益の半分以上を多くの動画クリエイターにも配分しなければならないことから、この事業の利益率は検索広告事業の利益率よりはるかに低い。バーンスタインは、この事業の利益率は約15%だと見ている。
グーグルのアドネットワーク(Ad Network)
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グーグルのアドネットワークとは、グーグルの広告技術を使って提供されるウェブ上やアプリ内に表示される広告のことである。グーグルは広告を掲載したウェブサイトやアプリと収益を分け合うため、検索広告に比べると利益率は低い。
それでもこの事業は堅調である。2021年、グーグルはこの事業で310億ドル(約4兆1800億円)の収益を上げた。バーンスタインによると、こうした広告でグーグルが得る利益率は10%程度である。
Google Cloud Platform(グーグルクラウドプラットフォーム)
Google Cloudをひきいるトーマス・キュリアン。
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企業向けにクラウドホスティングやコンピューティングサービスを提供するこの事業も、グーグルの成長エンジンの1つだ。収益は2020年の130億ドル(約1兆7500億円)から、2021年には190億ドル(約2兆5600億円)にまで拡大した。
しかし、グーグルにとってこの事業は長期的な投資である。現在のところ収益性は高くないが、同社のGoogle Cloud事業部門CEOのトーマス・キュリアン(Thomas Kurian)は、グーグルは収益性に対する「展望」を持っていると述べている。
また、同部門は企業向けソフトウェア事業Google Workspace(グーグル・ワークスペース)を展開し、サブスクリプションソフトウェアを販売しているため、今後収益性は高くなるだろう。
バーンスタインの予測では、2023年には損益分岐点に達し、2025年には利益率が10%に至るとしている。
YouTubeサブスクリプション
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YouTubeサブスクリプションとは、YouTubeの広告なし版の「YouTube Premium」や、デジタルケーブルのバンドル版の「YouTube TV」などの有料サブスクリプションサービスを指す。
YouTubeはメディア企業にコンテンツの対価を支払っているため、YouTubeはすべてのサブスクリプションサービスの価格を上げ続けているものの(YouTube TVは2年前の月額50ドルから65ドル)、広告よりも利益率の低い事業であることに変わりはない。
バーンスタインの予測によると、YouTubeは定額制サービスでは赤字だが、今後数年で黒字化し、7%の利益率を達成する可能性があるという。
ハードウェア
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グーグルはAndroid OS上で動作する独自のハードウェアを構築するために、何年も前から投資してきた。これにはノートパソコン「Chromebook(クロームブック)」やスマートフォン「Pixel(ピクセル)」が含まれる。
また、スマートスピーカー「Nest(ネスト)」やスマートウォッチ「Fitbit(フィットビット)」といった端末も展開している。
グーグルにとっての目標は、ハードウェア事業を成功させることよりも、Android端末、さらにはGoogle検索がもっと広範囲に普及し、アップルとマーケットシェアを争えるようになることだ。
しかし、これは金のかかる博打であり、バーンスタインは、グーグルはこの部門で赤字を出していると見ている。
その他の事業
アルファベット傘下の自動運転車「Waymo」。
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それ以外にも、自動運転車のWaymo(ウェイモ)やデータドリブン型のヘルステック企業「Verily(ベリリー)」など、アルファベットが投資する長期プロジェクトや「ムーンショット」と呼ばれる大型プロジェクトなどがある。
これらが赤字を出していることはよく知られており、一部を除きその多くは実質的な収益を生んでいない。
アルファベットは、これらのグループの運営コストの一部を外部投資家に移転してプレッシャーを軽減しているが、これらの事業の収益化には、数十年とは言わないまでもまだ時間がかかる。