2023年の中国自動車市場はEVシフトが加速しつつも市場全体は頭打ちになりそうだ。
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経済を犠牲にしても感染拡大を徹底して封じ込めようとする中国のゼロコロナ政策は、2022年の自動車市場に打撃を与えた。業界団体は足元の物価高や経済減速を背景に、2023年の乗用車市場はゼロ成長に陥るとの予測を公表し、警戒を強める。伸びしろが大きい新エネルギー車分野でも2023年は今年を大きく上回る約100車種の新車が投入され、メーカーの淘汰が進みそうだ。
11月の乗用車販売9.2%減
中国政府は12月、3年近く続けてきたゼロコロナ政策の緩和に踏み切った。10月以降広州市や重慶市、北京市など複数の大都市で感染が拡大し、世界最大のiPhone生産拠点である鄭州市では、コロナ禍の混乱を背景に鴻海精密工業(フォックスコン)の工場で働く季節労働者が大量離脱、抗議活動が頻発していた。
全国的な混乱を受け自動車市場も失速した。中国乗用車市場信息聯席会(CPCA)によると、11月の乗用車販売台数は前年同期比9.2%減の164万9000台。ゼロコロナ政策で大都市の販売店が営業制限を受け、消費者の外出も困難だったことが不振の最大の理由だという。
ゼロコロナ政策が緩和されても2023年の自動車市場は引き続き厳しさが漂う。
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1~11月の販売台数は同1.8%(31万7000台)増の1836万7000台。上海ロックダウンで経済環境が悪化したことを受け、中国政府は6月、価格が30万元(約600万円、1元=20円換算)以下、排気量が2.0リットル以下の乗用車を対象に自動車取得税を半減する政策を導入した。CPCAは同政策の効果を見込んで2022年の乗用車販売台数を1900万台から2100万台に上方修正したが、11月は再びブレーキがかかってしまった。
特に厳しいのはガソリン車だ。11月のガソリン車販売台数は同27%減少し105万台。1~11月では同14%減少した。一方、EVやハイブリッド車など新エネルギー乗用車の11月の販売台数は同58.2%増の59万8000台。1~11月が同100.1%増となったことを考えると成長は鈍化しているものの、強さを維持している。
購入促進政策打ち切りならゼロ成長
CPCAは2023年を展望し、「(今年12月で打ち切られる)自動車取得税の半減政策が延長されないなら、2023年の乗用車販売はゼロ成長となる」と厳しい予想を示した。具体的には以下の要因を挙げている。
1:世界経済の減速
米連邦準備理事会(FRB)の利上げの減速シナリオが遠のき、5%に到達するとの見方が広がっている。世界経済の低迷は避けられず、中国の自動車輸出にとって逆風となる。
2:在庫圧力の継続
2022年10月末時点でメーカーの在庫は372万台と高止まりしている。2023年は新規参入組の生産が増えるが消費が追いつかず、在庫圧力は2023年いっぱい続く。
3:政策の打ち切り
自動車取得税の半減政策が2022年12月末で終わる。6月の導入以来大きな効果があっただけに、政策終了の影響は大きい。年内で打ち切られれば2023年1月の春節商戦も冷え込む。
4:若年層需要の停滞
1台目の自動車を購入することが期待される2000年代生まれの高学歴化が進み、社会に出る年齢も上がっている。また、不景気による経済不安や住宅取得の難しさから、自動車購入に踏み切れない若年層が増えている。
2022年は上海ロックダウンの影響で3~5月の自動車市場が壊滅的な打撃を受けており、10~11月も全国的な感染拡大で失速した。通常なら2023年は反動増でプラスになるところだが、CPCAは「ゼロ成長」を強調し、自動車取得税半減政策の延長を強く訴えている。
中国汽車工業協会(CAAM)も2023年の商用車を含めた自動車販売台数が3%増にとどまるとの予測を公表し、自動車購入奨励策の継続を求めている。
ガソリン車は淘汰本格化か
乗用車市場の成長が止まった場合、2023年はメーカーの選別が進むというのが、業界関係者の共通の見方だ。
CPCAは取得税半減が打ち切られると、2023年の新エネルギー車の販売が840万台と30%増えるのに対し、ガソリン車は同10%減の1510万台に落ち込むと予測する。
感染拡大が落ち着くにつれて(ゼロコロナ政策の緩和によって感染爆発も懸念されるが、CPCAは落ち着いた前提で試算している)、中間層による「2台目需要」の伸びが期待されるが、ガソリン価格が上昇する中でその需要は低価格のEVに向かう可能性が高い。EVメーカーにとっては充電施設などのインフラやアフターサービスの整備が顧客を取り込む鍵となる。
EVシフトは自動車のスマート化でもある。スマート化によってEVに「移動ツール」以上の価値が付けば、相対的にガソリン車の魅力は減る。
「民族系」と呼ばれる中国の自主ブランドメーカーは、ブランド力で海外メーカーの後塵を拝し続けてきた。日本勢など海外メーカーのEVシフトが緩やかな点も、中国メーカーがEVに力を入れる動機付けになっている。現時点でも中国市場で売れる新車の3分の1が新エネルギー車という状況だが、2023年はガソリン車の生存空間がさらに圧迫されるかもしれない。
鴻海、バイドゥのEVも発売、淘汰加速へ
2023年は中国で新エネルギー車100車種の発売が予定されている。
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既存の自動車メーカーがEVシフトを強め、異業種参入も増える新エネ車メーカーの競争も厳しくなる。
2020~2021年に躍進した「蔚来汽車(NIO)」「理想汽車」「小鵬汽車(Xpeng)」の新興EV御三家は既に追われる立場となっており、2022年はいずれも年初の販売目標達成が厳しい。
11月の納車台数では、自主ブランドメーカー吉利汽車傘下の高級EVブランド「Zeekr」(ジーカー)が前年同期比447.3%増の1万1011台。国有大手広州汽車傘下の独自ブランド「AION」は同91%増の2万8765台で、NIO(1万4178台、同30%増)と理想汽車(1万5034台、同11.5%増)を足した水準に並んだ。Xpengに至っては11月の納車台数が同62.8%減の5811台と落ち込んだ。
EV御三家に続く新興企業も台頭しており、哪吒汽車(NETA)の11月の納車台数は前年同月比51%増の1万5072台で、7カ月連続で1万台を突破した。ファーウェイの車載OSが搭載されたセレス(賽力斯)のEV「問界」も、台風の目として注目されている。
経営危機にある中国恒大集団のEV子会社「中国恒大新能源汽車」は10月に初の量産車SUV「恒馳5」の納入を始めたが、ライバルが多く今のところ存在感を出せずにいる。
2023年は2021年にEV参入を発表した百度(バイドゥ)、鴻海が新車発売を控え、新エネルギー車分野では2022年の約70を大きく上回る100車種が投入される見込みだ。中国市場で2強を形成するテスラ、BYDもシェアを広げるため、新しいセグメントへの延伸を計画しており、はじき出される有力企業も出てくるだろう。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。