キー・クォーター・タワー(中央)。
Adam Mork/3XN
- キー・クォーター・タワーは、世界建築フェスティバルで2022年の最優秀建築賞に選ばれた。
- この49階建ての高層ビルは、既存のオフィスビルの構造を部分的に利用して建設された。
- キー・クォーターは、世界初の「アップサイクル高層ビル」と呼ばれている。
ポルトガルのリスボンで2022年12月2日まで開催されていた世界建築フェスティバルで、オーストラリア、シドニーの高層ビル「キー・クォーター・タワー(The Quay Quarter Tower)」が最優秀建築賞を受賞した。
キー・クォーターは世界初の「アップサイクル高層ビル」と言われ、高層ビル建設における持続可能なソリューションだとされていた。今回の受賞で、さらなる栄誉を手にしたことになる。
このビルは、1976年に建てられたAMPセンターをベースとしており、キー・クォーター・タワーへとアップサイクルされた。
1976年に完成したAMPセンターは、オペラハウスやハーバーブリッジの南側、ブリッジストリート50番地に建ち、かつてはシドニーで最も高いビルだった。
ビルが耐用年数を迎え、オーナーのAMPキャピタル(AMP Capital)は、人目を引き、エネルギー効率がよく、テナントのニーズも満たす21世紀のビルに変えたいと考えたが、これを取り壊して新たなビルを建築することによる環境への影響も懸念していた。
そこで、既存のビルを壊さずに新たな高層ビルを建てるという持続可能性を満たすことを条件とした建築コンペを開催することになった。
下から見上げたキー・クォーター・タワー。
Adam Mork/3XN
2014年に開催されたそのコンペで最優秀デザインを獲得したのが、デンマークの建築事務所3XNが設計した高さ206メートル、49階建てのビルだった。そして、シドニーを拠点とする事務所BVNと共同でプロジェクトを進めることになった。
工事は2018年初頭に始まり、2022年初めに完了した。建物の様子を見てみよう。
キー・クォーター・タワーは、5つの「ボリューム」が積み重ねられた構造になっている
Adam Mork/3XN
3XNの創設者であるキム・ハーフォース・ニールセン(Kim Herforth Nielsen)によると、チームは設計にあたって少なくとも30のスケッチを描き、それらを3Dデジタル化し、物理モデルも多数作成したという。
よく見られる均質的なカーテンウォールタイプのタワーではなく、「質感のある、重層的な」ビルを目指した。
「建物を5つのボリュームに分け、それぞれの底辺にアトリウム(吹き抜け)とテラスを配置することで、柱が目立たず親密な雰囲気が生まれ、(ビルを利用する)社員同士がつながり、交流しやすくなるようにした」とハーフォース・ニールセンは述べている。
「バーティカル(垂直)・ビレッジ」として機能することを目指した設計
Adam Mork/3XN
キー・クォーターには、オフィスと小売店が並んでいる。
AMPキャピタルは、このデザインが「未来における仕事のあり方を再定義」し、「人間同士の交流を促す」ことを期待している。
世界建築フェスティバルの審査委員会は、「バーティカル(垂直)・ビレッジ」が「コミュニティ感覚」を生み出し、アトリウムを積み重ねたことで「並外れた眺望が広がり、各フロアの奥まで光がさすようになった」と評価した。
「受賞者は、世界規模の都市で、50年前の商業タワーの大部分を保持しながら、新たな建物にすることを求められた」と、同委員会ディレクターのポール・フィンチ(Paul Finch)はnews.com.auに語っている。
「その結果、アダプティブリユース(適応型再利用)の優れた例となった」
キー・クォーター・タワーからは、シドニーの港やランドマークの圧倒的な眺望が広がる
Ethan Rohloff/3XN
いくつものルーフトップテラスから、シドニー・オペラハウスや港、ハーバーブリッジなどを見渡すことができる。
建築家カール・エレファンテ(Carl Elefante)が述べた「最も環境に優しい建物は、すでに建てられているものである」という言葉は広く知られている
Adam Mork/3XN
この「アップスケール」の建築手法によって抑えられた二酸化炭素の排出量は、1万2000トンだと考えられている。
これは、このビル全体に3年間電力を供給した場合の排出量や、シドニーとメルボルン間の3万5000回のフライトでの排出量に相当する。
既存の躯体を残すことが、空間を最大化する鍵となった
Adam Mork/3XN
この革新的な「アップスケール」手法が用いられたのは、単に持続可能性のためだけではない。
もしAMPセンターが解体されていたら、同じような規模の新しい建築物は許可されなかった可能性がある。シドニーの植物園が建物の影にならようにするための新たな高さ制限が設けられたからだ。
また、この手法により建設費を抑えることもできた
Ethan Rohloff/3XN
この手法によって1億ドルものコストが削減されたと見積もられている。