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「現代に8年前のソフト使いますか?」AI医療、変革期にある日本の現状と課題とは?

「最先端の医療」と聞くと、iPS細胞を利用した再生医療や、がん治療に使える新しい治療薬の開発といったことをイメージする人が多いかもしれない。

しかし最近では、デジタル機器やAIを治療に活用する“新たな医療の形”に注目が集まっている。2021年6月に政府が発表した骨太方針にも「プログラム医療機器の開発・実用化を促進する」という文言が記載されるなど、期待がかかる。

ただ、業界内では課題も見え隠れしている。

胃の内視鏡検査中に胃がんの早期発見をサポートするAIを開発しているベンチャー・AIメディカルサービス(以下、AIM)の多田智裕代表は、

「急成長することが分かっているマーケットの中で社会実装を進めていくには、多くの方にメリット・デメリットを正しく理解していただく必要があると思っています。そうでないと、業界として成長が難しくなる」

と問題意識を語る。

複数の業界ベンチャーで構成するAI医療機器協議会の会長も兼任する多田代表は、今、日本でまさに黎明期を迎えているAIを導入したプログラム医療機器の課題をどう考えているのか。AIMの現在地と、プログラム医療機器の未来への展望を聞いた。

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AIMの代表と医師としての二足のわらじをはいている多田智裕氏。

撮影:三ツ村崇志

日本のAI医療は世界で戦えるのか?

——AIMは、第1段の製品として胃がんの診断をサポートする製品を承認申請していると伺っています。なぜ、胃がん(消化器がん)だったのでしょうか?

多田智裕代表(以下、多田):がんの中でも、消化管(胃や食道、大腸)のがんは、合計すると世界で最も多くの人の死亡原因となっているがんです。 内視鏡を使った検査がその中で唯一消化器がんを確定診断できる検査なのですが、人の目で見極める必要があるため見逃すこともあります。

消化管のがんは早期に発見できれば治療できることが多い一方で、それが実現できておらず、毎年(世界では)数百万人の命が失われています。これは内視鏡医の質・量がともに不足しているからです。

私たちが開発するAI(内視鏡検査で胃がんの早期発見をサポートするAI)では、一般の医師であれば見逃してしまうような症例を見つけることができます。

もちろん、AIを上回る感度でがんを発見できる医師もいますが、多くの医師はそうではありません。だからこそ、人とAIが一緒に検査することでがんの発見精度をより高めることができるはずです。

——最終的な診断はあくまでも医師が下し、AIはその「サポート」をするというわけですね。

多田:AIを使おうとすると、「最後までAIに診断されるのでは?」と思っている方もいますが、そうではありません。AIはあくまでもアシスタントです。

画像が光っていたり、シワやひだがあると、AIは誤検出することがあります。でも、人間はそれが誤検出だと判断できます。車だって、ドライバーの考えとカーナビの提案の「総合判定」で運転しますよね?

——国内外ともに市場はかなり大きそうですが、AIを活用した製品では、結局データ量の多い中国やアメリカに勝てなくなってしまうのではないでしょうか?

多田:日本は「内視鏡発祥の地」なんです。だから、内視鏡医の裾野が広い。日本人は当たり前だと思っていますが、日本は世界最高水準の内視鏡検査が全国どこでも受けられる異常な国なんです。

日本は胃がんの人自体は多くても、それで亡くなる人はそこまで多くはありません。これは、早期発見できているからです。

確かに中国のデータ量は多いのですが、大部分が進行がんのデータなので早期胃がんのデータは質・量ともに私たち(日本)が集めているものがトップクラスです。

質の高いデータをたくさん持っているということは、差別化の要因になると思っています。

AIMが開発している胃がん診断AIの研究開発用ソフトウェアでデモを実演する多田代表。内視鏡で胃の画像を撮影する際に、無数の早期がんなどの画像データを学習したAIによってがんになるリスクの高い病変(腫瘍性)の信頼度を提示する。医師は、この数字を参考により詳しく観察し、診断を下す。

AIMが開発している胃がん診断AIの研究開発用ソフトウェアでデモを実演する多田代表。内視鏡で胃の画像を撮影する際に、無数の早期がんなどの画像データを学習したAIによってがんになるリスクの高い病変(腫瘍性)の信頼度を提示する。医師は、この数字を参考により詳しく観察し、診断を下す。

撮影:三ツ村崇志

AIブームで加速した「AI医療機器」開発

——AIMをはじめ、AI医療機器を開発する企業が増えています。ただ、AI医療機器と言っても、かなり多くの種類があるようにも思います。どういったものがメインなのでしょうか?

多田:AI医療機器は、「プログラム医療機器」(SaMD:Software as a Medical Device)と呼ばれるソフトウェアの一部です。いわゆるプログラム医療機器だと、キュア・アップ社※などが提供している「治療用アプリ」のようなものがあります。

※ニコチン依存症治療用アプリや高血圧治療用アプリを展開している。

AI医療機器の開発は、2010年代半ばにディープ・ラーニング(深層学習)の登場によって始まった第三次人工知能革命とともにスタートしました。我々AIMも2016年頃から研究に着手して、2017年に創業しています。

ディープ・ラーニングは画像認識が得意なので「画像診断支援領域」のAI医療機器が多い状況です。

—— とはいえ、患者が実際にその恩恵を感じるほど、AI医療機器の普及は進んでいないように思います。実際、医療現場ではどの程度普及しているのでしょうか?

多田:現在、日本では数十件の製品が製造販売承認されています。

日本の厚生労働省とFDA(アメリカ食品医薬品局)では承認基準や算出基準が異なるため、単純比較することはできませんが、アメリカではすでに500件ほど製品が登場しています 。

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日本で承認されている、AIの一種である機械学習を活用する医療機器。2022年3月末の段階で20件しかない。

画像:AIを活用したプログラム医療機器に関する専門部会の資料より引用

AI医療機器、日本で進まない理由

——日本ではなぜなかなか普及が進まないのでしょうか。

多田:まず、医療機器に該当する基準がはっきりしていません。

例えば「電子カルテ」は医療機器ではありませんが、ソフトウェア医療機器は「医療機器」として取り扱われます。この違いは開発手法に影響します。医療機器の場合は広告規制も厳しくなりますが、普通のソフトウェアだと広告を打てる、という違いなどもあります。

非医療機器として開発をしていたのに、あとから基準が変わって「医療機器です」と言われてしまうと開発はかなり厳しい。「入口」をはっきりして欲しいと思っています。ただ、2021年にPMDA(医療機器などについての承認審査をする厚生労働省所管の独立行政法人)が医療機器プログラム総合相談の窓口(SaMD一元的相談窓口)を一本化してくれたことで、改善は進んでいます。

——逆にまだ改善が必要な点はどういったところでしょうか?

多田:「どうすれば承認されるのか」という審査指針の部分や、「審査期間の長さ」は課題です。

従来の薬事承認では、治療薬はもちろん、内視鏡やCT、MRI、超音波診断装置などの医療機器(ハード)を対象としていました。ただ、AIを利用するプロダクトは「ソフトウェア」です。

大型の医療機器は1度購入すると8年〜10年ほど利用します。一方、プログラム医療機器で8年も同じソフトウェアを使うことはありません。今の時代に、8年前のWindowsを使うことはありませんよね?

早ければ1年、遅くとも2年に1回はアップデートするわけです。それに対して薬事承認の審査期間は、10カ月程度かかります。その間に次の次の次……ぐらいまで開発が進んでしまいます。プログラム医療機器の承認については、もっとクイックに審査のサイクルを回す仕組みにしないと開発も、社会実装もやりにくい。

現状は、iPhone14の開発がほぼ完了しているのに、iPhone8しか販売できていないようなものです。

医療用ハードウェアなどと比べて、ソフトウェアのアップデートは早い。(写真はイメージです)

医療用ハードウェアなどと比べて、ソフトウェアのアップデートは早い。(写真はイメージです)

shutterlock.com/franz12

——それではビジネスとしては少し厳しいですね。

多田:また、過去に承認された製品の中には、審査基準が曖昧にみえるものもあります。どんな基準で承認するのかをもっと明確化する必要があると思います。加えて、AI医療機器は、データ(AIを構築するために必要な学習データ)収集が進まないと開発できないのですが、データ管理方法についても課題が残っています。

——法整備などの問題ということでしょうか?

多田:現状では、データをどうやって集めたらOKなのかがはっきりとしていません。また、個人情報保護法、臨床研究法、薬機法など、今の法律はプログラム医療機器を想定していなかった時代に作られたものです。そこに無理やり当てはめて考えるしかないため、齟齬が出てきています。

例えば、医療現場では、個人を特定できないようにした個人情報、いわゆる「匿名加工情報」を取り扱うことがあります。2018年には、情報を匿名に加工する事業者を認定できる次世代医療基盤法が施行されましたが、事業者はまだ少ない状況です。

何が匿名加工情報で何がそうではないのかといった範囲に関する取り決めが曖昧なんです。

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