会見には、モビリティーテクノロジーズの中島宏社長(中央)のほか、元環境大臣で衆議院議員の丸川珠代氏(中央左)、同じく元環境大臣で衆議院議員の小泉進次郎氏(中央右)らも登壇した。
撮影:伊藤有
タクシーアプリ「GO」を運営するMobility Technologies(モビリティーテクノロジーズ)が、全国のタクシー事業者らと連携し、2031年までにEVタクシー2500台をリースで供給、また充電器最大2900台を設置し、タクシー業界の脱炭素の大規模な実証を進める業界横断プロジェクトを発表した。
モビリティーテクノロジーズによると、既にこの取り組みのEV車両として、九州地域でEVタクシーが走り始めているという。
東京都内では来月(2023年1月)から、まずタクシー会社・荏原交通の車両として、日産アリアのEVタクシーが都内を走り始める。
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撮影:山﨑拓実、編集:渡慶次法子
充電インフラは「タクシー会社負担なし」で構築できる理由
日本のタクシー業界におけるEV普及率は現時点でわずか0.1%。ほぼ使われていないのが現状。
撮影:伊藤有
「タクシー産業GXプロジェクト」と名付けられたこの取り組みは、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金事業/スマートモビリティー社会の構築」(以下、GI基金助成金)採択による支援を活用し、最大280億円規模の取り組みになる予定だ。
背景には、中小の事業者が少なくないタクシー業界の産業構造ゆえに進まない、脱炭素化の取り組みを加速させたい業界の思惑がある。
モビリティーテクノロジーズが同GXプロジェクトで供給するEVタクシーと充電器は次のとおり。
・EV車両(リース):トヨタ「bZ4X」、日産「リーフ」「アリア」など。
→ 2031 年までに最大2500台を供給(GI基金交付により1車両あたり最大3分の2が助成)
・充電器(提供):50kW級の急速充電器400台、6kW級の普通充電器2500台を各営業所へ提供、設置
→GI基金助成金等を活用することにより事業者の実質負担なし
EVタクシーのラッピングがされた日産のアリア。都内ではまず、この車両が2023年1月から走り始める。日産の車両としてはこのほかリーフもEVタクシー車両として使われる。
撮影:伊藤有
日産アリアのEVタクシーの運転席。追加の端末(液晶ディスプレイ)などは、まだ最終版の装備ではないとのこと。
撮影:伊藤有
タクシーのEV化にあたっては、高価になりがちなEV車両の導入コストや、マイカーの7倍とも言われる「過走行」(2年間で14万キロ想定)にバッテリーが耐えられるかといった耐久性の課題が思い浮かぶ。
一方、忘れがちなのが、現状でも不足が指摘される「充電インフラ」をどう確保していくかという点も大きな問題だ。
トヨタはEV車「bZ4X」が同GXプロジェクトの車両として選定されている。全国の一番早い地域で23年4月、都内で走り始めるのは23年度中になる見通し。
撮影:伊藤有
モビリティーテクノロジーズはBusiness Insider Japanの質問に対し、充電器については6kW級の普通充電器は「タクシー2両に対して1基」、50kW級の急速充電器は「タクシー10両に対して1基」を目安に供給すると説明している。
急速充電器のなかでも、一般的な50kW級の機材は、今後のEV普及を見据えると平凡な印象がある。
ただ、タクシー営業所1箇所あたりのEV供給台数がそこまで多くないケースもあるため、より充電速度が速い90kW級やそれ以上の超急速充電器は、現時点では不要と判断した。
CO2削減量の「見える化」の実装も進める。左のGO BUSINESSのダッシュボードでは、すでにCO2削減量表示を提供中。右のアプリは今後アップデートを予定している。
撮影:伊藤有
同GXプロジェクトを通して2031年までにEVタクシーを2500台リースで供給する一方、タクシー配車アプリGOをアップデートし、法人向け「GO BUSINESS」の機能として、利用者のCO2削減量の見える化も今後実装するという。
EVタクシーは「LPG燃料車に比べてトータルコストは安い」との試算
あいおいニッセイ同和損保と組み、GXプロジェクト向けの保険「GX保険」も共同開発。EVタクシーの導入事業者のリスク低減をサポートしていく。
撮影:伊藤有
モビリティーテクノロジーズ関係者によると、GXプロジェクトは、2500台のEVタクシーを全国で使い、実際に事業者が使った際に不都合が生じないのか、実地のデータをとり検証していく意味あいがあると話す。
GXプロジェクトの協力パートナーの一覧。
撮影:伊藤有
そのため前出の囲みのように、とにかく導入コストを低くして、まずはタクシー業界にEVタクシーを使ってもらう設計にした。
同社はシミュレーションながら、トータルのコストとしてLPG(LPガス)車両に比べて、EVタクシーは収益上のメリットは十分出ると算出している。
ただ、具体的にLPG車の何割安くなるかについては、「LPG、電気料金ともに変動が大きいのでなんとも(一概には)言えない」(中島社長)と、明言は避けた。
一般論としては、LPGより電力のほうがエネルギーコストが安価になるため、「走行距離が長いエリアの方がメリットが出やすい」(同)という。
EVタクシーにおける「GO」のビジネスモデル
囲み取材に応じるモビリティーテクノロジーズの次世代事業本部GX部の佐々木将洋部長と中島社長(右)。
撮影:伊藤有
一方、モビリティーテクノロジーズとしてのビジネスモデルは、EV車両のリース料金のほか、深夜帯の電力などをうまくつかうピークシフトも含めた「エネルギーマネージメント」が肝になる。
エネルギーマネージメントのシステム提供を通して、タクシー事業者がLPG車両に比べてコストを低く抑えた分から、マージンを得ることがビジネスの柱になると見られる。
同社では、今回の取り組みにあたって、すでに「何百営業所」(中島社長)レベルの電気料金プラン策定を進めるなかで、電力のプランニング次第で充電コストが大きく変わることがわかっている、と話す。
「エネマネの価格寄与度が極めて大きく、下手をすると(電気料金が)本当にとんでもないコストになるという実態もある。
最適なもの(電力プラン)を選ぶ、エネマネを入れて安くするということが、事業者様にとってかなりコストメリットが出る」(中島社長)
こういった手応えがすでにあることから、自社のマージンを載せた上でも、タクシー事業者単体で電力を契約するより安くなる、と見ている。
タクシーのEV化推進にあたっては、電力が不足するのではないか?という懸念もある。特に、エネルギー高騰が世界的に注目される今はなおさらだ。
これについては、電力会社側からまったく問題ない、むしろ取り組んでほしいとの声があったと、意外なコメントもしている。
一番の理由は、EVタクシーの「充電時間帯」がピークからずれることだ。EVタクシーの充電は必然的に深夜〜早朝になるため、電力の余った時間帯をうまく使える。
また一般家庭のマイカーと違い、法人利用では業界で統制をとった電力消費ができる。例えばひっ迫する時間は充電を避けるようなオペレーションがとれる。このため、電力会社の視点では、ある種の電力の調整弁になるという見方だ。
モビリティーテクノロジーズでは、全国の事業者の地域特性を「都市部」「中間都市」「地方部」、運行形態を「都市型」「駅待ち」「流し主体」といった形で、9つ程度のマトリックスに分類し、検証を進める。
全国各地で2500台という大規模な実証を通じて、日本特有のEVタクシー運行の実地データを集めて分析し、タクシー業界におけるEVプラットフォームを目指す計画を描いている。