中国・北京のアップルストアに並ぶiPhone14。2022年9月16日。
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- アップルは中国におけるスマートフォンの売上で最大のライバルだったファーウェイを上回り、さらなるシェアを獲得しようとしている。
- しかし、サプライチェーンの問題を受けて、製造拠点は中国から移すことを計画している。
- アップルは中国でiPhoneの販売を続ける必要があるため、これからも中国政府の圧力に譲歩していくことになるだろう。
アップル(Apple)と中国との関係には2つの側面がある。
まず、アップルはサプライチェーンの混乱から身を守るために、中国の生産拠点の他国への移転を検討しているようだ。実際、2022年11月には工場を一時閉鎖している。だが、この取り組みには何十年もかかるかもしれない。
その一方で、中国は今やアップルにとって最大級の消費市場であり、比較的安く市場シェアを拡大できる残り少ない国でもある。
調査会社のIDCのデータによると、アップルは2022年第1四半期から第3四半期にかけて3300万台のiPhoneを販売した。これは2019年同期比の50%増となる。そして現在生産されているiPhoneの5台に1台は、中国に出荷されている。
しかしIDCによると、2021年には中国で3億3000万台近くのスマートフォンが販売されている。アメリカをはじめ多くの国で約50%のシェアを誇るアップルは、中国でもさらにシェアを伸ばす余地があるということだ。2022年の3四半期で、中国では2億1200万台のスマートフォンが販売され、アップルは15%のシェアを獲得している。第3四半期だけで、アップルは1080万台のiPhoneを販売し、中国内で4番目に売れているブランドになった。
アップルは中国政府との駆け引きに前向き
中国の消費者を獲得するために、アップルは中国政府にも譲歩してきた。11月、中国で「ゼロコロナ」政策をめぐる抗議が広がる中、アップルはAirDrop機能の使用を制限したのだ。
2021年の報道によると、アップルのティム・クック(Tim Cook)CEOは、2016年に中国当局と2750億ドル規模の取引を行い、中国企業からの資材調達を増やし、中国のソフトウェア産業の発展を支援することを約束したという。
アップルは、アメリカで論争になっていたセキュリティ対策を強化するためにiCloudのエンドツーエンド暗号化といった機能の提供を開始した。しかしFBIはこれによって事件の捜査に支障をきたす可能性があると懸念を示している。一方中国では、当局の規制に従うためにiCloudのサーバーを中国の国有企業に移転している。
ただし、アップルは中国にばかり譲歩しているわけではなく、アメリカ政府からの圧力にも対応している。Nikkei Asiaによると、同社は中国政府が支援する長江メモリー・テクノロジーズ製のNANDフラッシュメモリをiPhoneに採用する計画を、アメリカ政府の圧力により断念した。
ハイエンドブランドとして中国での地位を確立
IDCのワールドワイド・トラッカー・チームでリサーチディレクターを務めるナビラ・ポパル(Nabila Popal)は、iPhone12から14までの成功を受けて、中国でのアップルの成長はすさまじいものがあると指摘する。それでも、一部の人のためだけのブランドであることに変わりはない。
「アップルはハイエンドのブランドであり、他のブランドよりも高い価格帯でしか事業を展開していない」とポパルは言う。
高級スマートフォン市場でアップル最大のライバルは、かつて携帯電話の販売台数で世界一を誇ったファーウェイ(Huawei)だった。トランプ政権が同社のスパイ行為を非難したことを受け、アメリカ政府は制裁のために同社がアメリカ製チップを入手することを制限した。その結果、2021年第4四半期における同社のスマートフォン出荷台数は40%減少した。
ファーウェイの衰退により、1000ドルクラスの高級スマートフォンを求める消費者は、iPhone以外の選択肢がなくなってしまった。
中国の他のブランドは、プレミアム市場への参入に手こずっている。ファーウェイは中国の携帯電話は安いという認識を払拭した最初の中国ブランドだとポパルは言う。また、Oppoやシャオミ(Xiaomi)などのブランドは、より中間層の市場に対応することで成功を収めたと指摘している。IDCによると、アップルは現在、中国での市場規模がVivo、Oppo、Honorに次いで、4位にランクされているという。
中国市場獲得のために
中国の消費市場がアップルをどれだけ評価しているかは分からない。中国の消費者の強力な購買力は、海外の多くのトップブランドを中国に引き寄せてきた。しかし中国の市場は、ナショナリズムが高揚する時期には、国内企業や政府寄りの企業を盛り立てるために、海外の競争相手を締め出すことで知られている。
ナイキ(Nike)とアディダス(Adidas)にはまさにそれが起きた。両社は新疆ウイグル自治区から綿花やその他の製品を調達しないと発表した。そこでは中国政府がイスラム系民族であるウイグル人の強制労働収容所を設置していると訴えられているからだ。そのことに関して欧米各国から制裁を加えられた中国は、2021年から報復制裁を開始した。それを背景に中国市民も、中国の内政に否定的なコメントをした海外ブランドの不買を呼びかけていた。するとナイキとアディダスの売上も低迷し、代わりに中国国内のブランドが新たな顧客を獲得した。
アップルはそのような運命を避けたいと考えているようだ。ティム・クックは、メタやグーグルなどの企業がユーザーの情報を収集していることを批判し、「これは監視だ」と、ブリュッセルで開かれたプライバシー・カンファレンスで述べている。
「これは、我々を極めて不快にするものだ。我々を動揺させるはずだ」
しかしクックとアップルは、中国における監視政策については、今後も沈黙を守り続けるだろう。「中国の法律や規制を厳格に遵守する」と繰り返し約束し、中国政府の意に沿わないアプリを繰り返し削除してきたのだから。
ティム・クックは、中国共産党中央宣伝部が発行するチャイナ・デイリーの取材に応じ、中国には「世界有数の活気ある開発者コミュニティ」があると賞賛した。
アメリカのメディアや政治家は、アップルが偽善的だと度々批判している。しかしアップルは、中国で何億人もの潜在的な顧客をiPhoneユーザーに変えることを考えれば、この程度の打撃はものともしないだろう。
アップルは、もはや中国の工場労働者を必要とはしていないかもしれないが、中国の消費者は欠かせないと計算しているようだ。