インスタグラムのアカウントを名刺代わりに使うクリエイターもいる。
Instagram; Getty; Sydney Bradley/Insider
インスタの時代は終わったと考えるのはまだ早い。
The Atlanticのケイト・リンジーが最近記事にしていたように「インスタは終わった」と言っている人もいるが、そうではなく今はミッドライフ・クライシスのような状態に陥っているのかもしれない。
Instagram(インスタグラム)は2010年のローンチ以来、さまざまなことにチャレンジしてきた。Snapchat(スナップチャット)、YouTube、TikTok、最近ではBeRealを模倣してきた歴史がある。それぞれの時期にさまざまなアルゴリズムの変更が加えられ、ユーザーであるインフルエンサーや事業主もそれに合わせてインスタの使い方を変えてきた。
クリエイター業界関係者によると、そのなかでも、お気に入りの人を見つけフォローしたあと、DM(ダイレクトメッセージ)でコミュニケーションをとる、というのが主な使い方として特に広がりを見せているという。
LinkedInの使い方に似ていると思うかもしれない。ただ、新しく誰かを見つけたときに、その人とどのSNSでつながろうと思うだろうか? 多くの人、特にクリエイターと接点のある人にとっては、それがInstagramなのだ。
インスタは名刺代わり
「Instagramは名刺代わりに使われるようになりました。第一印象を残せて、コミュニティのハブでもあり、見に行けば『その人がどんな人か』が一発で分かる場所、それがInstagramなのです」と、Insiderの取材に応じたインフルエンサーのオースティン・トソーネ(Austen Tosone)は言う。
InstagramとTikTok両方で勤務経験があり、スタートアップを起業したクリエイターのクリステン・ニーノ・デ・グズマン(Christen Nino De Guzman)はこう言う。
「名刺ファイルのようなものですね。家族から個人的なつながりのある人、元同僚から同業者まで、人生のいろいろなカテゴリにおけるつながりが網羅されたディレクトリなんです」(グズマン)
テジャス・フラー(Tejas Hullur)のようなクリエイターにとって、InstagramはDMとしてのプラットフォームだ。フラーは他のクリエイターともInstagramのDMを介してやりとりしている。
事業主にとっては、DMも同じくらい重要な機能になるのだ。
「InstagramのDMがなければ自分のビジネスは成り立ちませんでした」というのは、インスタグラムの元社員で退職後にクリエイター・エコノミーのフィンテック会社であるカラット(Karat)を起業したエリック・ウェイ(Eric Wei)だ。
Instagramが2022年に始めた「クリエイターマーケットプレイス」。
ここ2、3年、Instagramはメッセージ機能に注力してきている。DMの受信ボックスを整理するための設定が可能になり、アプリ内のクリエイターマーケットプレイスでは企業とインフルエンサーとが提携契約を結ぶこともできる。インフルエンサーもサブスクリプションを通して課金制のグループチャットをつくることができるようになった。
このように運営元のメタはクリエイターがInstagramを名刺代わりに使えるように用途を広げた。ユーザーのエンゲージメント維持に奔走するメタにとっては、これで時間を稼げるかもしれない。名刺代わりとしてのInstagram自体が大きなビジネスに成長する可能性もある。
メタが狙うメッセージ機能の収益化
メッセージ機能で収益を挙げるのは簡単なことではない。例えば、メタは220億ドルで買収したWhatsAppの事業規模を大きくするのに苦労している。
ただ最近のメタは、Facebook、Instagram、WhatsApp全体で、メッセージ機能を収益化するための取り組みを優先している。特に、対話からビジネスが生まれる部分に注目している。
2022年、同社はこれまで毎年恒例だった「F8」という開発者向けイベントをやめ、5月に「カンバセーションズ」という法人向けのメッセージ機能に特化したイベントを開催した。投資会社ABバーンスタイン(AB Bernstein)のシニア・アナリスト、マーク・シュマリク(Mark Shmulik)はこれをメタが出すひとつのサインと捉えている。
「社外の開発者たちにどの分野に注力してほしいとメタが考えているか、メタが何を重視しているかを示唆するものでした」とシュマリクは話す。
メタの決算説明会でもメッセージ機能が大きなトピックになっていた、とシュマリクは言う。
10月に行われた第3四半期の投資家向け決算説明会で、メタのマーク・ザッカーバーグCEOは「(Facebookの短尺動画機能の)リール以外に、これから収益化の大きな可能性となるのがメッセージ機能です」と述べている。広告をクリックするとDMに誘導される「メッセージ誘導広告」が、メタにおいて一番急成長している広告プロダクトだとザッカーバーグは語っていた。
同じ業績発表でメタのデイビッド・ウェーナー(David Werhner)CFOも、「今後数年間の課金制メッセージ機能についてはかなり強気に見ています」と述べている。
メッセージ機能の拡充
2022年のInstagramの優先事項の一つが(TikTokに対抗してのリールと並んで)、メッセージ機能だった。
2021年12月末に、Instagramのトップであるアダム・モセリ(Adam Mosseri)は「Instagramは好きなことで友人とつながるのにベストな場所になれると考えています」と動画で語っている。
それ以前の2021年7月には、Instagramはもはや単なる写真共有アプリではなく、Instagram上でのコンテンツ共有の場が、フィードやストーリーからDMに移行してきているとモセリは述べている。
ザッカーバーグは2022年10月の決算発表で、こう話していた。
「SNSでのやりとりがメッセージ機能に移行しつつあるため、ディスカバリとメッセージ機能のつながりを強化することでこれらのアプリの成長を加速させたいと思っています。Instagramだけで、DMを使ったリールの共有が1日10億回行われているのです」(ザッカーバーグ)
こうした流れを考えれば、Instagram上でのメッセージ機能を充実させようというメタの動きも驚くに値しない。
サブスクリプションを使えばクリエイターは課金するファン向けにグループチャットが可能になる。
2022年、Instagramはクリエイターがコンテンツやファンとのやりとりを収益化する新しい手段としてサブスクリプションの提供を開始した。クリエイターはこの機能を使うことで、アプリ内でのグループチャットなど、課金ユーザーのみに特典を提供することができるようになった。メタは2024年までこのサブスクリプションからは手数料を取らないと話している。
PatreonやDiscordなど、コミュニティベースのコミュニケーションツールにおける課金制のコンテンツはクリエイターの間で人気が高い。メタもおそらくそうしたトレンドを注視しているのだろう。
「少し異なる機能を提供したりプロダクトの使い方を少し変えたりすることで、ユーザー時間のシェアを奪えることをメタに見せつけたのがTikTokでした。こういった機能の一部を模倣することで本当にコア・ユーザーを惹きつけられるのかを判断しようと、今回メタはいつも以上にスピーディーに動こうとしているのです」(シュマリク)
一方で、モバイル開発者のアレッサンドロ・パルッツィが共有したリバースエンジニアリングのプロトタイプによると、Instagramはメッセージ関連の新機能である「メッセージのハイライト」と「ロール・コール(点呼)」を開発しているようだ。
ハイライトはメッセージを整理するためのカテゴリ(ストーリーのハイライトと似ている)を提供し、ロール・コールのプロトタイプはBeRealとSnapchatを組み合わせたような、ある期間内にグループチャットのメンバーに写真や動画を送るよう促すようなメッセージのやりとりのようだ。
「Instagramは他の人とのつながりやすさや、メッセージを送りやすくする機能に注力すべきでしょう」(ニーノ・デ・グズマン)
この動きは、「好きな人やものにもっと近くなれる」という以前のFacebookとInstagramのスローガンの一つの再来になるかもしれない。