写真左から、13日の会見に登壇したLINE 代表取締役社長、Zホールディングス 代表取締役Co-CEO Marketing & Sales CPOの出澤剛氏、ヤフー 代表取締役社長 社長執行役員 CEOの小澤隆生氏、PayPay 代表取締役 社長執行役員CEOの中山一郎氏。
撮影:小林優多郎
Zホールディングス(以下、ZHD)傘下のLINE、ヤフー、PayPayの3社は12月13日、新しいメーカー向け販促施策を発表した。
特に消費者に関係の深いものとしては「LINE・Yahoo! JAPAN・PayPayマイレージ」(以下、LYPマイレージ)と「商品クーポン(仮)」がある。
PayPayはすでにポイントが貯まりやすくなる「PayPay ステップ」や、加盟店が発行する「PayPay クーポン」を展開。それらと何が違うのか、ZHD内の3ブランドの相乗効果はどこにあるのか解説する。
マイレージは実質「パンのシール」と同じ
「LINE・Yahoo! JAPAN・PayPayマイレージ」は2023年3月からスタートする。
撮影:小林優多郎
まず、2023年3月開始予定のLYPマイレージについて。これは、いわゆる航空会社などが発行する「マイレージ」とは性質が異なる。
航空会社などのマイレージは、渡航距離、チケットや座席のクラス、会員資格、所有カードの種類などで付与され、特典航空券や各事業者の電子クーポンなどと交換できるといった使い方をする。
一方、LYPマイレージは、いわば「購入実績」だ。例えば、清涼飲料水Aを購入するとAの購入実績が蓄積され、個別に定められた一定値に到達するとPayPayポイントがもらえる、という仕組みだ。
商品だけではなく購入場所も限定される。対象のチェーンの店舗でPayPayで購入する必要がある。同じ清涼飲料水Aであっても、PayPayの加盟店でない場所や加盟店であっても対象ではない店舗、PayPay以外で払った場合などは対象外となる。
一方、対象店舗はオンライン(EC)も含まれる。Yahoo! ショッピングの一部店舗でも、PayPayとYahoo! JAPAN IDの連携が済んでいれば、カウントの対象だ。
こうした特徴から、商品に貼ってあるシールを集めて食器と交換する特典などに近い性質のものというわけだ。
オンラインでもオフラインでも購入実績が貯まる。
撮影:小林優多郎
LINE・Yahoo! JAPAN・PayPayマイレージについて話す小澤隆生氏。
撮影:小林優多郎
記者発表に登壇したヤフー社長の小澤隆生氏は「お得を拡充していく」とし、以下のような機能の構想もあるとしている。
- 購入金額ではなく購入個数に応じてインセンティブを提供(X本購入で1本無料など)
- インセンティブをポイントではなく、オリジナルグッズとして提供
- 特定の商品の無料券を発行してサンプリングに
- 購入実績に応じて割引額を変動させ、実質的な「ダイナミップライシング」に
- 個別の商品ではなくブランドやメーカー単位の複数の商品を対象に
- オンライン/オフラインの複数の加盟店の買い回りを促す
なお、小澤氏は報道陣からの「(LINE・Yahoo! JAPAN・PayPayマイレージという)名前が長くてわかりにくい」という指摘に対して、「3月に変わる可能性はある。わかりやすい名前にしたいと思う」と回答している。
特定の「商品」「店」で還元されるクーポン
PayPayの「商品クーポン(仮)」は、2023年5月にスタート予定。
撮影:小林優多郎
もう1つの施策、2023年5月以降開始の「商品クーポン(仮)」は、現在提供されている「PayPayクーポン」の特定商品版と言える。
PayPayクーポンが「加盟店」がコストを負担して発行するのに対し、商品クーポン(仮)は「メーカー」がコストを負担し、特定の商品の購入に対して、PayPayポイントを還元する。
これもまたLYPマイレージと同じく、オンライン・オフラインの特定の店舗でのPayPayを使った購入が対象となる。
商品クーポン(仮)の利用イメージ。体験としては現在の「PayPayクーポン」とあまり変わらない。
撮影:小林優多郎
PayPayクーポンと同じだが、商品クーポン(仮)も購入前に事前にクーポンを取得しておく必要がある。
施策を実施するメーカー側としては、LYPマイレージでは特定商品の継続的な購入を促し、中長期的な売り上げやブランド価値のアップが目的。
一方で、商品クーポン(仮)は基本的には「1回の購入に対する還元」なので、いわゆる「お試し購入」や短期的な売り上げアップを目的に導入されていくだろう。
飲料系メーカー、ドラッグストア、スーパーが名を連ねる
12月13日時点のマイレージ 参加企業。
撮影:小林優多郎
気になるのは、具体的にどんなメーカーのどんな商品がLYPマイレージや商品クーポン(仮)の対象となり、どの店舗が対象となるかだ。
LYPマイレージの参加企業については、メーカーとしてはアサヒ飲料。加盟店としては、ドラッグストアのウエルシア、サンドラッグ、スギ薬局、ツルハドラッグ、スーパーのオーケーが紹介された。
ただ、2023年3月や5月スタートということもあり、具体的な対象商品やその他の企業については、現時点では交渉の真っ最中だという。
12月13日時点のコンソーシアム参画企業。
撮影:小林優多郎
また、LINE、ヤフー、PayPayの3社は具体的な販促施策と同時に「LINE・Yahoo! JAPAN・PayPayコンソーシアム」を発表。
このコンソーシアムはLYPマイレージや商品クーポン(仮)の実現に必要なリアルタイムでのPOS連携やZHD側からメーカー・加盟店に提供する顧客管理(CRM)機能について協議・調整することが目的となっている。
コンソーシアムには2023年3月には10社以上が参画予定で、12月13日時点ではアサヒ飲料、キリン、サントリー、ウエルシア、オーケー、コーナン、サンドラッグ、スギ薬局、マツモトキヨシが名を連ねている。
施策対象にならず「割を食う」小規模店
今回の販促サービスの仕組み。
撮影:小林優多郎
今回発表された施策は基本はメーカー側が“販促費”などとしてコストを負担するので、消費者側の金銭的な追加コストはない。
一方、加盟店側には導入には一定のシステムの改修、対応が必須となる。前述のようなリアルタイムでのPOS連携など、技術的に高度な推奨要件が存在するためだ。
そうなると改修を柔軟にできない企業や、そもそも本格的なPOSを用意していない販売店は、今回発表された施策には対応できない。
鍵はデータをやり取りするリアルタイムPOS連携と、分析のためのCRMプラットフォーム。
撮影:小林優多郎
より具体的に言えば、ユーザースキャン型のQRコード(店頭に掲示されたコードをユーザーがアプリで読み取る)を導入している個人などの小規模な店舗は、まず対応不可能だ。
そういった店舗からしてみれば、同じPayPay加盟店で、同じ商品を売っていたとしても、ユーザーは施策の対象となる加盟店に流れる可能性があり、みすみす顧客を逃すことになる。
こういった状況について、PayPay広報は「現状で、ユーザースキャン型の店舗での(LYPマイレージや商品クーポンなどの)対応は未定」としつつも、「いずれはすべての(PayPay)加盟店で利用できるように、とは考えている」とコメントしている。
LINEの存在感が薄いワケ
LINEなどでキャンペーン自体を周知させていく。
撮影:小林優多郎
また、注目したいのはメッセージアプリ・LINEの立ち位置だ。
アプリの名前も冠しているはずのLYPマイレージでのLINEの影は相当薄い。
LINEはユーザーとの接点、還元施策そのものの想起、例えばLYPマイレージでは「PayPayポイント獲得まであと○○円」などといった、パーソナライズされたメッセージの送信でユーザーの購入を促すことが期待されている。
しかし、2023年3月のスタート時点では既存のLINE公式アカウント「LINEで応募」での、キャンペーンのお知らせに留まるとしている。
これは単に、PayPayやYahoo! JAPAN IDとLINE IDの紐付けが行われていないからだ。購入実績などはPayPayとヤフー側には貯まっているが、その分析結果をどのユーザーに送るか、まだ技術的に特定できる状態になっていない。
LINE社長でもあり、ZHDのCo-CEOでもある出澤剛氏。
撮影:小林優多郎
LINE IDとヤフー、PayPayの紐付けについて、LINE社長の出澤剛氏は従来通り「2023年以降」に実施すると12月13日の会見でも発言しているが、その具体的な方法や時期の言及は避けている。
LINEにはそもそもスマホ決済の「LINE Pay」やポイントの「LINEポイント」など、PayPayと重複するサービスがある。
ユーザー側からみれば「LINEの通知でお知らせが来たけど、貯まるポイントはPayPayポイント」のような、ややわかりにくい構造になっている。
LINEとヤフーの経営統合から1年9カ月以上が経つが、ID連携やサービスの重複なども含めて、3社が足並みを揃えられるのは、まだ先の話になりそうだ。