モデルナのステファン・バンセルCEO。
Nancy Lane/MediaNews Group/Boston Herald
- モデナのがんワクチンは、第2段階の臨床試験でメラノーマの再発率あるいは死亡率を低下させた。
- アナリストによると、このがんワクチンが長期的な成功を収めるためには、まだ証明しなければいけないことが残っているという。
- 「今や我々はオンコロジー(腫瘍学)企業だ」と、モデルナのステファン・バンセルCEOはInsiderに語っている。
マサチューセッツ州ケンブリッジを拠点とするバイオテクノロジー企業のモデルナ(Moderna)は2022年12月13日、メッセンジャーRNA(mRNA)技術を活用した個別化がんワクチンが、皮膚がん患者の第2段階の臨床試験で良好な結果を出したと発表し、この技術がコロナワクチンを超える「ゲームチェンジャー」になり得ることが確認されたと述べた。
投資家はこのニュースを歓迎し、モデルナの株価は12月13日の正午までに21%上昇した。
臨床試験は、皮膚がんの一種であるメラノーマの重症患者157人を対象に実施された。患者は手術でがんを切除した後、現在スタンダードな治療薬となっているメルク(Merck)製の「キイトルーダ」のみを投与した治療、あるいはキイトルーダとモデルナのがんワクチンを併用した治療を受けた。
モデルナは、ほぼ自動化された検査プロセスを通じて、各患者の腫瘍が持つ固有のDNAに合わせてがんワクチンを製造した。
モデルナのがんワクチンを併用したグループは、キイトルーダのみを投与したグループと比べて、がんの再発率あるいは死亡率が44%減少した。
モデルナは、2020年にmRNA技術を活用してコロナワクチンを開発し、一躍脚光を浴びた。2010年に設立されたモデルナにとって、初めて承認された製品がコロナワクチンだった。
同社のステファン・バンセル(Stéphane Bancel)CEOは、今回実施したがんワクチンの臨床試験と、コロナワクチンの開発に奔走したころとを比べ、「私にとっては(パンデミックが始まった)2020年1月に遡るCOVIDの時のような瞬間だ」とInsiderに語っている。
「私にとっては同じこと。今の敵はがんだ。この技術が有効であることは分かっている」
モデルナCEOは、がんワクチンの未来は明るいと考えている
バンセルCEOは、モデルナのmRNA技術が、同社の成功の鍵を握ると考えている。mRNAは免疫細胞の中に入り、がんを攻撃する特定のタンパク質を作り出すように指示を出す。この技術は大きな可能性を秘めており、その市場は同社のコロナウイルスワクチンを超えるかもしれないとバンセルは言う。
「これはキイトルーダと同じくらい、あるいはそれ以上の規模になるかもしれない」と、2022年の最初の9カ月間で155億ドル(約2兆円)という圧倒的な売上を記録したメルクのがん治療薬と比較した。
「今や、我々はオンコロジー(腫瘍学)企業だ。この先、最大規模のオンコロジー企業になるかもしれない」
バンセルによると、モデルナとパートナー企業のメルクは2023年に最終段階の試験を開始する計画であり、メラノーマ患者だけでなく、他の種類のがん患者に対してもがんワクチンの試験を行うとしている。
メルクは2022年初め、がんワクチンを共同開発する対価としてモデルナに2億5000万ドル(約340億円)を支払い、2016年に始まった両社のパートナーシップを延長した。
しかし、これらの試験を終えるには何年もかかるだろうとバンセルは認識している。つまり、アメリカ食品医薬品局(FDA)の承認と商業的な発売の可能性は近い将来にはないということだ。
アナリストたちは、このワクチンが長期的に見て成功することを期待しつつも慎重な見方を示している。
SVBセキュリティーズ(SVB Securities)のアナリスト、ダイナ・グレイボッシュ(Daina Graybosch)は12月13日のメモで、結果は期待を上回ったが、モデナとメルクがプレスリリースで提供した情報よりも詳細な結果が見たいと記した。研究結果はまだ学会で発表されておらず、学術誌にも掲載されていない。グレイボッシュは、他の実験的ながん治療薬が第2段階の臨床試験で有望な結果となったにもかかわらず、第3段階で失望させられたこともあるとして、注意を促した。
がん免疫(immuno-oncology)分野の企業に特化した上場投資信託(ETF)を運用するブラッド・ロンカー(Brad Loncar)は、モデルナががんを取り除く手術を受けた少数の患者グループにフォーカスしたことはよい決断だったとInsiderに語っている。しかし、メラノーマは他の種類のがんよりも治療がしやすいことから、免疫療法にとって「低いところにぶら下がっている果実(簡単に達成できること)」と呼んでいると彼は付け加えた。
「メラノーマで成功したからといって、他のがんでも成功する保証はない」