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アマゾンは「地球上で最高の雇用主」になることを標榜している。しかし、その取り組みの一環として実施された調査からは、この重要なプロジェクトが軌道に乗り始めた頃から、従業員の不満や課題が増大していることが明らかになった。
Insiderは、「地球上で最高の雇用主に関する議論」と題された調査のコピーを入手した。この文書はアマゾンの経営幹部向けに2021年10月に作成されたもので、11ページからなる。それによると、アマゾンは従業員が抱える課題を解決するために6つの改善点を特定している。
同文書には、従業員の赤裸々な本音が記載されている。「地球上で最高の雇用主」(社内ではEarth’s Best Employerを略して「EBE」と呼ばれている)プロジェクトが2021年に発足した背景には、こうした事情が関係しているようだ。2021年7月にアンディ・ジャシー(Andy Jassy)がCEOに就任すると、アマゾンは同社の行動指針をまとめた「リーダーシップ・プリンシプル」にEBEを追加し、最優先目標の1つとした。
だが2022年、このプロジェクトに水を差すような出来事が起きた。EBEに関わる主要幹部の1人が職場環境を悪化させたと複数の従業員から声が上がり、アマゾンがこの幹部を調査したのだ。
「当社は特にイノベーティブだと思われておらず、当社のイノベーション文化を楽しいとも思っていないことが明らかになった。アマゾンにおけるイノベーションは、ストレス、燃え尽き症候群、離職、殺伐とした雰囲気を連想させる」と文書には書かれている。
アマゾンの広報担当者はInsiderの取材にメールで回答を寄せ、同社は「長年トップクラスの雇用主だと評価されてきた」として、次のようにコメントしている。
「当社が良い雇用主だと考える理由の1つは、会社の改善点について従業員の意見に耳を傾けていることです。たとえそのアイデアやコメントが少数派の意見だったとしても、当社は常に最も重要な分野に目を向けています」(広報担当者)
技術職の不足
調査レポートによると、採用競争の激化も社内の変革を後押しする要因となったようだ。
アマゾンは2030年までにアメリカで600万~800万人の技術系人材が不足すると予想している。クラウド事業のAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)に限っても、2031年までに21万〜33万6000人、少なく見積もっても12万3000人の技術職が必要になると予測している。
しかし今回の調査によって、アマゾンは自社社員からも特に魅力的な職場と思われていないことが判明した。オフィス勤務の従業員たちは、長時間労働と過酷な仕事量を強いられていると語る。ちょっとした人事方針を確認するときですら社内が混乱することもあった。
一方、倉庫や配送など現場の従業員に対しては健康面でのサポートを充実させ、他社の現場労働者の間ではよく見られる筋骨格系疾患をアマゾンでは減らしたいと考えている。
「オフィス勤務の従業員も現場勤務の従業員も、アマゾンなら明確にキャリアを伸ばせて、個人としても成功を収められるとは感じていない」と報告書には記されている。
以降では、アマゾンが調査の中で重要なEBE要因として挙げた6分野を詳しく見ていこう。
1. 競争力のある報酬と福利厚生
報告書には、報酬額は「2021年、競合他社がアマゾンの人材に対して積極的なオファーを提示しているため、ますます問題化している」と書かれている。
アマゾンは、こうした競合からのオファーの中には「不合理」なものもあると考えつつも、「特に技術職の給与レンジは大幅に調整する必要がある」と認めている。同社は2022年に入って報酬体系を一部変更したが、従業員の多くは昇給がないことに依然として不満を抱いていた。
この調査では、ソフトウェア開発者がアマゾンを去る理由の第2位が報酬であることも判明している。
「十分な報酬と手厚い福利厚生は、従業員が雇用主に求める第1条件だ。これは、全米を対象とした外部調査だろうとアマゾンの内部調査だろうと変わらない」と同調査には記されている。
2. ワーク・ライフ・バランス
アマゾンはワーク・ライフ・バランスに関して、競合他社に大きく後れをとっている、と調査書には記されている。アマゾンはじめテック企業何社かの従業員に自社の企業文化について説明してもらったところ、グーグル社員の80%、マイクロソフト社員の97%がポジティブな表現を使っていたのに対し、アマゾン社員は12%しかポジティブな表現を使わなかったという。
「どの調査を見ても、オフィス勤務の従業員は、アマゾンがEBEになるための重要事項としてワーク・ライフ・バランスの改善を挙げている」と同調査書は述べている。
同じことは現場の従業員にも当てはまる。現場の従業員は柔軟な働き方やシフトの短縮、過酷な肉体労働の軽減を求めており、社内データによるとアマゾンの現場マネジャーの62%が退勤後には疲れ切っていると感じている。
3. 個人的な昇進の機会
アマゾンの技術職を対象とした調査では、回答者の半数以上が、同社が「地球上で最高の雇用主」になるためにできることトップ5の1つとして「キャリアアップ、昇進、または学習と人材開発」を選んだという。離職者のうち20%が、退職の主な理由としてキャリアアップの機会を挙げている。
また、アマゾンの現場従業員も同様の考えを示しており、会社に解決してほしい課題の第2位に「キャリアアップ」を選んでいる。「面談の中で、アソシエイトはキャリアアップや昇進の機会に関するコミュニケーションや透明性の欠如を、主なデメリットとして挙げている」と同調査書は述べている。
4. イノベーションを起こして実行する能力
アマゾンを退職するソフトウェア開発者たちによれば、同社は「クリエイティブでイノベーティブ」である必要があるが、実際には「お役所仕事風」がまん延しており、「イノベーションよりもスピード優先で何かを提供しようとする文化」があるという。同社の動きを鈍らせている「Day 2」文化についてはInsiderでも既報の通りだ。
現場従業員たちによれば、アマゾンは容赦のない場所で、「存在すら知らないルールによって警告なしに解雇される」可能性があり、「顧客には執着するわりに、従業員は使い捨ての『車輪の歯車』だ」という。
5. ポジティブな職場コミュニティと文化
アマゾンにおけるイノベーションについて従業員に尋ねたところ、出てきたキーワードは「強烈」「燃え尽き症候群」「高い離職率」などだったと、この調査書には書かれている。同じ回答者が、他のテック企業の文化については「楽しい」「クール」「従業員第一主義」などの言葉を使って表現していたにもかかわらず、だ。
アマゾンの現場従業員は多くの場合、自分たちの仕事を「孤立無援」と表現し、他の社員やマネジャーとのつながりがほとんどないと語っている。
6. 社会的影響力
アマゾン社員は、社会的責任のある仕事を大切にしている。同社の技術系社員は、社会的影響力のある仕事なら給料が5%低くても受け入れると述べている。また技術系社員の7.5%が、アマゾンがEBEになるためにもっとできることとして、社会的影響力に関係する回答を挙げている。
「我々は地球上で最高の雇用主になるために、イノベーティブで人の心を動かすアプローチをもって先導していきたい」と調査書には書かれている。