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「体験の機会」でも格差という衝撃。年収300万未満世帯の小学生、3人に1人“学校外の活動“なし

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記者会見で調査結果を発表したチャンス・フォー・チルドレン代表理事の今井悠介氏(右)。

shutterstoc、横山耕太郎撮影

「野球チームに入れてあげたいが、経済的に余裕がなくユニフォームを用意してあげられない」

「ピアノ教室に行かせたい。でもランニングコストがかかるので行かせられない」(子どもの「体験格差」実態調査中間報告書より)

低所得の家庭の小学生の3人に1人が、習い事や旅行や登山などの学校以外での「体験」を1年間に一度もしていないことが、公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」による調査でわかった。調査は2022年10月、世帯年収が300万円未満と300万円以上の世帯が5対5となるように実施し、全国2097世帯が回答した。

子どもの貧困対策としては生活や学習・進学支援が議論されるが、「体験の格差」の実態についてはこれまであまり把握されてこなかったという。

チャンス・フォー・チルドレン代表理事の今井悠介氏は「学校の外での活動は、学校の成績とは別の場で、自信をつけたり、人間関係を広げたりと学力の土台になる。公費投入も含めて、『体験格差』の解決に取り組む必要がある」としている。

調査では「体験活動」について、スポーツや習字など部活や習い事として定期的に行う活動や、キャンプやスキー、旅行、動物園見学、音楽鑑賞、スポーツ観戦など単発での活動と定義している。

「予想以上の割合に衝撃」

調査のグラフ

小学生の「学校外での体験」は世帯年収で異なることがわかる。

提供:チャンス・フォー・チルドレン

調査ではまず、世帯年収別に体験活動の状況を調べた。

世帯年収が600万円以上では、1年を通じて学校外での習い事やスポーツなどの体験活動をしていなかったのは11.3%だった。一方で、低所得世帯と定義している300万円未満では、約3人に1人に当たる29.9%が体験活動をしていなかった。

この結果について、今井代表理事はこう話す。

「これまでの貧困家庭の支援でも、習い事をあきらめる例はたくさんあったため、世帯による差はある程度は予想していました。ただ、低所得の世帯で3人に1人が1年間で活動経験がないという事実は、予想以上で衝撃だった。想像していた以上に子供にとっては厳しい現実があることがわかった

体験活動の支出額にも差

調査のグラフ

提供:チャンス・フォー・チルドレン

体験活動にかける年間支出も年収600万円以上の世帯では10万6674円なのに対し、300万円未満の世帯では約3分の1の3万8363円だった。

また世帯年収が低くなるほど、「経済的な理由」で子供がやってみたいと思う活動をさせてあげられなかったと回答する割合が高くなり、年収300万円未満では56.3%にのぼった。

調査のグラフ

提供:チャンス・フォー・チルドレン

自由記述で、やりたい活動をさせてあげられなかった経験を質問した設問では、切実な声が多く書き込まれていた。

  • 「やりたいと言われても、どれも経済的に無理なので、子供自身が、無理だよねって、何も言わなくなりました」(愛知県、小学4年生の40代母親)
  • 「母子家庭のため、周りの友達と同じようにいろいろな習い事をさせてあげることができず悔しい。スイミング、ダンス、英会話、ピアノ、したいことをたくさんさせてあげたかった」(新潟県、小学2年生の20代母親)
  • 「サッカーをしてがっていましたが、私が経済的にも体力的にも無理でさせてあげられませんでした」(宮崎県、小学4年生の40代母親)
  • 「プログラミング教室に行きたいと言っていたが、月謝が高額だったのでウヤムヤにして諦めさせた。心苦しかったです」(愛知県、小学4年生の40歳母親)

物価高騰で削られる「活動体験」

野球の写真

小学生のスポーツ教室などの「体験」ができるかどうかは、物価高騰の影響も受けているいる(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

調査からは、物価高騰が小学生の「体験格差」にも影響していることがわかった。

年収300万円未満の世帯では、30.8%が「物価高によって体験の機会が減った」と回答。一方で年収600万以上では13.7%にとどまっており、2倍以上の差があった。

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三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林氏。著書に『子どもの貧困が日本を滅ぼす 社会的損失40兆円の衝撃』がある。

撮影:横山耕太郎

調査の結果、物価高騰によって「体験の機会」だけでなく、塾などの「学習の機会」も減少していたが、「体験の機会」の減少の割合の方が大きかった。

調査に協力した三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員の小林庸平氏は「物価高もあり体験の機会への影響はこれからも続く」と指摘する。

「物価高の影響によって、学習の機会よりも体験の機会が減っていることは重要なポイントだ。東日本大震災後の子どもに関する先行研究でも、有事の先にはまず塾などの教育機会は確保し、体験活動は削られるという傾向があったが、今回の物価上昇でも同じ傾向が見られている。

学力は目に見えやすい一方で、体験活動は成果が見えにくい。ただ中長期的に考えた場合に体験が持つ意味は重要で、体験活動の減少は、格差の固定化や、将来的には国の損失にもつながる」

親の経験も影響

調査のグラフ

提供:チャンス・フォー・チルドレン

また調査からは、世帯年収が低い世帯の保護者ほど、自身も小学生の頃に体験活動をしていなかった割合が高いこともわかった。

定期的なスポーツや、文化芸術系の習い事を継続していなかった保護者の割合を見ると、年収600万以上の保護者では23.2%だったが、年収300万円未満の保護者では39.2%と高かった。

調査では「保護者の子ども時代の体験機会、大人になってからの収入、自身の子どもの体験機会は、それぞれ関係している可能性がある」としている。

調査を実施したチャンス・フォー・チルドレンでは今後、国などに対して「体験の格差」の解消を求めて活動していくとし、具体的には、自治体や地域のNPO、研究者などと連携し、モデル事業の実施と効果検証を実施を目指すという。

「調査からは、体験の格差というよりも『体験の貧困』とも言える実態がわかった。まだ光が当たっていないこの実態について、継続的な調査に加えて、どのような活動体験が、どう自己効力感や幸福感などに影響を与えるのかなど、具体的な検証が今後求められる」(今井代表理事)

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