自動車メーカーは、バッテリーの調達に関してテスラの戦略を追いかける必要があるかもしれない。写真は「ハマーEV」にバッテリーを搭載しているところ。
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- 自動車メーカーはEVのバッテリー供給をこれまで以上に必要としているが、そのコストは大きく増えている。
- 価格と地元産の材料を使うという圧力から、自動車メーカーは自社製バッテリーに投資している。
- この動きはテスラが何年にもわたって行ってきたことと同じだ。
電気自動車(EV)のバッテリーのコストが上昇しているため、自動車メーカー各社は今後数年で電気自動車を大衆向けにより手頃な価格で提供できるように、あらゆる手を尽くしている。
それを実現するためには、サプライチェーンについて1世紀以上にわたって学んできた多くのことを忘れ、テスラ(Tesla)の戦略を追いかける必要があるかもしれない。
自動車メーカー各社は、従来のリチウムイオン電池のような需要の高い材料への依存を減らすために、さまざまな種類のバッテリーを開発することで今日の電気自動車の問題を回避しようとしている。またバッテリーのリサイクルにも力を入れており、リチウム、ニッケル、コバルトなどをサプライチェーンに戻す取り組みも行っている。
これらの解決策には、少なくとも短期的には、時期や費用の面で課題が伴う。つまり、各自動車メーカーは代替手段を探していて、アメリカ国内でのバッテリー供給を確保するために競争をしているということなのだ。
これは、バッテリーの材料の調達や生産などに投資し、業界がパンデミックによって被った世界的なサプライチェーンの混乱を減らすことを意味している。
「ほぼすべての大手企業は、まさにそのような理由で投資を行っている。垂直統合を進め、サプライチェーンをよりコントロールできるようにするためだ」と、インフォア(Infor)の自動車産業主席アナリストであるピーター・マイテル(Peter Maithel)は述べている。
フォルクスワーゲンは、グループ独自のバッテリーセルの大規模生産を計画しており、ドイツのザルツギッターに工場を建設している。
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各自動車メーカーが急いで進めていることとは?
これまで自動車メーカーは、自動車を作る各部品を多くのサプライヤーに依存しながらサプライチェーンを世界中に拡大してきた。重要なパーツのいくつかはアメリカ製かもしれないが、その他の部品はヨーロッパやアジアから調達していたかもしれない。
歴史的に見れば、これらのサプライチェーンの広がりは潜在的な障害を減らしてきた。しかし、新型コロナウイルスによるパンデミックや自然災害などの混乱は、いかに自動車メーカーが脆弱かを浮き彫りにした。世界中にある自動車部品工場にわずかな混乱が発生するだけで、製造ラインが数日から数週間停止するかもしれないのだ。
EVは黎明期であり、EVの材料調達の微妙な難しさは、このような懸念事項を含めて自動車メーカーの最重要課題となっている。特にアメリカは、バッテリーの供給や部品、さらに加工を海外に依存してきた。一方中国は、EVに必要な原材料を確保し、世界のバッテリーセルやバッテリーパックなどの多くを生産して管理している点で先行している。
しかし、新型コロナウイルスのような不測の事態であろうと、地理的な問題であろうと、企業はかなり脆弱な立場にあることがわかったため、今は製造拠点を国内に置くことがよしとされている。2022年の夏に制定された気候変動対策法をきっかけに、世界規模のサプライチェーンモデルから脱却しようという動きが一般的になっている。
「自動車メーカーが、電池材料メーカーや電池メーカーと共同開発契約や早期供給契約を結ぶような前例のない発表が相次いでいる」と、ノムラ・グリーンテック(Nomura GreenTech)のアドバンスド・トランスポーテーション・チームのエグゼクティブディレクター、マット・スカルニック(Matt Sculnick)は話している。
リビアンはイリノイ州で電気自動車を製造している。
Rivian
EVの購入者にはメリットになるかもしれない
これは垂直統合と呼ばれるもので、テスラが長い間得意としてきたことだ。
「テスラは、鉱山に直接出向いて供給契約を交渉するなど、いつも画期的なことをやっている」とコンサルティング会社アルバレツ・アンド・マーサル(Alvarez & Marsal)のマネージングディレクター、トニー・リンチ(Tony Lynch)は話している。
GMやフォード(Ford)などがアメリカ国内の鉱山との取り引きや製造に乗り出そうと躍起になっている中、テスラは生産状況を把握できるという点で優位に立っている。
複雑で時間がかかってしまうが、これが最終的には自動車メーカーが新しいEVのコストを下げる最善の方法となるかもしれない。ケリー・ブルー・ブック(Kelley Blue Book)によると、2022年11月の新車のEVの平均取引価格は、約6万5041ドル(約893万円)で、同時期の新車のガソリン車の平均価格は、4万8681ドル(約668万円)だった。
特にアメリカでは、一般的に供給が増えればEVの台数も増えるので価格は下がっていくだろう。