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19歳のナジャ・マレーロがTikTokに初投稿したのは2021年8月のことだった。
当時のマレーロは検索エンジン最適化、いわゆるSEOには無関心だった。SEOが何なのかは理解していたが、それとTikTokとを結びつけて考えていなかったのだ。スキンケアと美容に関する自身のコンテンツをどうすればユーザーに見つけてもらいやすくできるかも念頭になかった。
考えを改めたのは、2022年9月にニューヨーク・タイムズが、TikTokはZ世代にとっての新たな検索エンジンであると報じた時のことだ。この記事では、いま若者たちはグーグルの検索エンジンではなく、TikTokを使って情報にアクセスするようになっているのだと伝えていた。TikTokはユーザーの関心に基づいて表示する動画をパーソナライズしているからだ。
ニューヨーク・タイムズの記事には、グーグル幹部のプラバカール・ラガバン(Prabhakar Raghavan)の発言も引用されていた。フォーチュン誌主催で7月に開催されたカンファレンスでラガバンは、若者の約40%が、どこで食事するかを考える際にGoogle Mapや検索エンジンではなくTikTokやInstagramを利用していることが同社の調査で分かったと述べている。
それだけではない。Z世代はおすすめのバケーションスポットや地元でできるアクティビティを探したり、NFTやAIといった概念について調べたりするのにもTikTokを使っている。
インフルエンサーマーケティングに詳しいバイラルネーション(Viral Nation)のCEO兼共同創業者、ジョー・ギャグリース(Joe Gagliese)はここ5年間、クリエイターら業界関係者はこのトレンドに注目すべきと発信してきた。
「自分のビジネスを伸ばしたいなら、クリエイターは自分の好きなものを投稿するのではなく、自分が狙う特定のセグメントに関する検索キーワードを意識したコンテンツ作りを心がける必要があります。
クリエイターの多くは、コンテンツの企画にはあまり時間をかけていないんでしょうね。でもこの手間をかけるかどうかで結果は大きく変わるんです」(ギャグリース)
マレーロや、Insiderの取材に応じてくれたメンタルヘルス系ティックトッカーのジョージ・アルバレス(23)といったクリエイターも、TikTokがSEOフレンドリーな動画を優先するようになったと感じている。エンゲージメント率の維持と、動画の閲覧者獲得に苦戦しているクリエイターたちと話していてそう思い至ったのだそうだ。
この変化と先述のニューヨーク・タイムズの記事を受けて、クリエイターたちもコンテンツの企画・投稿の仕方に意識を向けるようになった。なかにはマレーロのように、すでに大きな成果を上げているものもある。
「この2カ月でエンゲージメント率が大幅にアップし、過去の投稿動画も何本かバイラルヒットになりました」(マレーロ)
以降では、5人のティックトッカーが自身のコンテンツの検索性向上のために実践している3つのSEO対策を紹介する。
具体的なハッシュタグをつけて検索性を上げる
ニューヨークのブルックリンを拠点に活動しているユセフ・ハスウェ(20)は、大学進学や奨学金に関する動画を中心とした教育系ティックトッカーだ。2020年4月にTikTokを始めた当初は動画のパフォーマンスなど考えもせず即興的にコンテンツを撮影していたが、Z世代がTikTokをネット検索に利用しているというLinkedInの記事を読み、コンテンツの企画の立て方を見直した。
「もう二度とあんなやり方はしませんよ。今は、動画1本につき必ず台本を書き、できるだけ多くの高校生に動画を見つけてもらえるよう、ハッシュタグやキャプションを吟味しています」
ハスウェは、ユーザーがTikTokの検索ページで特定のキーワードを検索した際、自分の動画が検索結果上位に来るように、#highschoolsenior(高校最上級生)と#classof2023(2023年卒業組)というハッシュタグを使っている。
各動画のトピックに合わせてハッシュタグも調整している。特定の大学についての話題を取り上げる場合はその大学用のハッシュタグを設けるといった具合だ。また、自身のユーザーネームである@youssefuniversityも必ずハッシュタグとして付けている。
これにより、過去に投稿した古い動画をフォロワーが見つけやすくなり、よりコンテンツへの関心を引けるようになった、とハスウェは話す。SEOに注力することでハスウェのエンゲージメント率も上がり、「バズフィード&ハフポスト・タレント・レジデンシー・プログラム」のクリエイター10人にも選ばれた。
前出のアルバレスも、Z世代がTikTokを検索ツールとして活用していることを知り、ハッシュタグを意識するようになった。
「以前は、動画の中で出てきた言葉とか『メンタルヘルス』のように広く使われている言葉などを、手当り次第にハッシュタグにしていました。でも今は、『心の傷』や『自信』など、取り上げているトピックの枠に当てはまるような、より具体的なキーワードを使っています」(アルバレス)
アルバレスは今も最適なハッシュタグのあり方を試行錯誤中だが、SEOに注力していれば、やがてメンタルヘルス関連の企業に自身の動画を見つけてもらいやすくなり、有償のブランド契約や講演契約の話につながるかもしれない、と考えている。
「僕が苦労して作った昔の動画が今も出回っているので、認知度は確実に上がっています」(アルバレス)
自動キャプションを有効にする
カナダのトロントを拠点に活動するスキンケア系コンテンツのクリエイター、トシン・オラニーニ(26)は、SEOについて勉強を始めた当時、TikTokの検索エンジンで「スキンケア」と入力し、最初に表示される動画にどんなキャプションやキーワードが使われているのか調べてみたという。
「検索する人の身になって、検索バーにどんなキーワードを入力するだろうと考えたんです。トップに表示される動画を投稿したインフルエンサーたちは自動キャプションを有効にしていることに気づいたので、私も真似することにしました」
TikTokでの認知度をいち早く高めるうえで、このテクニックは特に役立ったとオラニーニは話す。自動キャプションとハッシュタグを取り入れて以降、彼女にコラボを持ちかけてくるブランドの数は倍増したという。
一人旅に関する動画を制作しているアビゲイル・アキンエミ(27)も、同様の手法でSEO対策を強化した。
アキンエミの動画は基本的に特定の旅行先を勧めるものだったので、動画の題材になっている国の名前をTikTokの検索バーに入力し、他のクリエイターが使っているキーワードをメモし、自身の動画の中でそれに言及することにした。キーワードはTikTokの自動キャプション機能に拾われ、画面上でハイライト表示される。
「動画の初期パフォーマンスが芳しくなくても、コンテンツのSEO対策ができていれば数カ月後には広まるはずなので、いずれうまくいくと確信を持てます」(アキンエミ)
ハンドルネームとプロフィールに得意分野を書き加える
マレーロは以前、TikTokのハンドルネームにファーストネームを使っていた。だが何カ月か前に@h8myfacelovemyskin(「自分の顔が嫌い、肌は好き」の意)に変えたところ、動画の認知度が劇的に高まっただけでなく、スキンケア系インフルエンサーを探しているブランドの目に留まるようになったという。
また、プロフィールを更新し、スキンケア、メイクアップ、ヘア、ビューティーといったキーワードを取り入れた。
「以前はブランドから、偶然私のページにたどり着いたと言われていましたが、今はもう違います。あるブランドの担当者が、インフルエンサーをスカウトする時はいつも業界名で検索していると言っていたので、このテクニックは認知度を高めるのに重宝するかもしれません」(マレーロ)
マレーロがハンドルネームとプロフィールを変更し、ハッシュタグを含め、自動キャプションを有効にしてから、9月以降にブランド7社から有償コラボの申し入れがあったと話す。以前は2カ月に1件程度の引き合いだったので段違いだ。
「この方法をとったおかげで収益が断然上がりました。これもすべてSEOのおかげです」(マレーロ)