メタ・プラットフォームズ(Meta platforms)の仮想現実(VR)担当技術顧問、ジョン・カーマック氏。
GABRIELLE LURIE/Getty Images
メタ・プラットフォームズで仮想現実(VR)/拡張現実(AR)分野を担当する技術顧問(Consulting CTO)のジョン・カーマック氏は、12月16日付の社内向けメッセージで退社の意思を明らかにした。Insiderは全文を確認した。
同社内で使われているコラボツール「ワークプレイス(Workplace)」のフィードにカーマック氏が投稿した内容は、メタが推進するメタバース事業の核となるAR/VR分野の取り組みを公然と批判するものだった。
マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)はすでに数十億ドル規模の資金をメタバースに投じ、同社株を保有する投資家たちにとって大きな不安材料となっている。
カーマック氏は2013年、フェイスブック(当時)に買収される前のオキュラスに入社して最高技術責任者(CTO)を務め、2019年に現在の役職に就任。メタバース事業の中心人物の一人と目される同氏の投稿は、苦境のメタにとって「火に油を注ぐ」結果となりそうだ。
以下に、カーマック氏の投稿全文を掲載する。
メタの広報担当には、本件についてコメントを求めたが、記事公開までに返答を得られなかった。
「批判的」投稿の全文
仮想現実(VR)に全力を注いできた私の10年間が終わります。複雑な心境です。
「Meta Quest 2(メタクエストツー)」は、モバイル端末ハードウェア、インサイドアウト方式の位置トラッキング、PCの無線ストリーミング対応、(ほぼ)4K画質のディスプレイ、コストパフォーマンスなど、私が当初からこうしたいと考えていた仕様と寸分違わぬ仕上がりになりました。
当社製のソフトウェアには私としては随分な不満を抱いていますが、何百万人もの人々にこのヘッドセットの価値を感じてもらえているのは事実です。素晴らしい製品であり、成功です。この成功のおかげで、世界はより良い場所になるでしょう。
もう少しばかり早く世に出すこともできたかもしれませんし、違う判断を下していればもっと良い製品になったかもしれませんが、それにしても私たちは限りなく正しい選択に近いものを作り上げたのです。
問題は「効率」です。
なぜそんなに徹頭徹尾、進捗状況ばかり気になるのか、と言われるかもしれません。
もし私が誰かを動かそうというつもりなら、非効率なやり方しか知らない組織は、回避不能な競争や緊縮政策の導入に直面した時への備えが足りず、苦しむことになるとでも言うでしょう。
しかし、実際のところそのつもりはなく、もっと個人的な話で、稼働中のGPU(画像処理半導体)使用率が5%とかそういう数字を見るのが苦痛なのです。腹が立つのです。
[編集箇所:表現があまりに詩的になりすぎたせいで、私の意図を取り違えた人もいるようです。システム最適化に携わる人間として、私は効率に深く注意を払っています。人生の大半を最適化に費やしてきた者にとって、著しく非効率なものを見ることは精神の内奥をえぐられるような気持ちになるのです。ここの記述では、私たちの組織のパフォーマンスを見ていると、(GPUのパフォーマンス低下を診断する)プロファイリングツールで悲惨なくらい低い数字を見ているような気持ちになる、ということが言いたかったのでした]
私たちはとんでもない規模のスタッフとリソースを抱えているのに、自己破壊的とも言える行動ばかり繰り返して、労力の無駄遣いに終止してきました。うわべだけ取り繕ってみても、透けて見えるのです。私としては、AR/VR部門の業務効率は満足できる水準の半分程度だと思っています。
馬鹿らしいとあざけり笑う人もいるかもしれません。「我々はしっかりやってるさ」と。また別の人たちは笑ってこう言うでしょう。「半分?俺なんか4分の1だよ」と。
私にとってこの10年間は苦難の連続でした。ここで一番の指示命令権限を持っているのは私なのだから、物事を動かせるはずだと思うのですが、どうやら自分には説得力が足りないようです。
私が不満に思っていることの少なくとも一部は、1年、2年と経ってエビデンスが積み上がることで最後には改善されるのですが、それでも、馬鹿げた取り組みの芽を事前に摘み取って損害が生じるのを防いだり、一つの方向性を示してそこに向けてあるチームに猪突猛進させたり、そうしたことに私はこれまで成功した試しがありません。
周縁での影響力は発揮できたと思いますが、それは原動力にはなり得ませんでした。
オキュラスがメタに買収された後、(メタが本拠を置く)メンローパークに移って、数世代にわたる経営陣たちと主導権を争う選択肢もあったのかもしれませんが、私自身プログラミングに忙殺されていましたし、そもそも権力争いは嫌いでうまくもないので、やってもどうせ負けると思っていました。
愚痴はもう十分。私は戦いに疲れ、自分のスタートアップを経営することにしました。まだ勝ち目はあると思っています。
VRは世界の大半の人に価値をもたらすことができ、メタほどそれを実現するのに適した会社はありません。
もしかしたら、いまのやり方を変えずにひたすら突っ走っていけば、実はゴールにたどり着けるのかもしれません。けれども、私としてはやはり改善の余地がまだまだあるように思います。
より良い決定と判断を。そして、開発する製品にもっと深い関心を寄せてください。