OpenAI
Jakub Porzycki/NurPhoto via Getty Images
OpenAIの高機能チャットボット「ChatGPT」が先ごろリリースされて以来、それにまつわる過熱報道がテック業界の隅々にまであふれている。
OpenAIのCEOであるサム・アルトマンは、デイリーアクティブユーザー(DAU)がすでに100万人を超えたとツイートしたし、ある質問に対してChatGPTが返してきた長ったらしくも人間らしい回答のスクリーンショットをツイートする人も多かった。収益は比較的低いと報じられているものの、OpenAIのバリュエーションはさらに数十億ドルは押し上げられるかもしれない。
グーグル検索は駆逐されるのか
この過熱報道の中でもひときわ野心的な内容は「ChatGPTがグーグルに取って代わる可能性がある」というものだった。ニューヨーク・ポストは「恐ろしい(Scary)」という見出しで、チャットGPTが「2年以内にグーグルを駆逐するかもしれない」という専門家の言葉を紹介している。Twitterで22万フォロワーを持つアカウント@Doombergは、この技術を5分間使っただけでグーグルを「時代遅れ」と断じている。
ジャーナリストのケイシー・ニュートンはニュースレターの中でChatGPTを絶賛し、「この2つのアプローチのうちどちらが検索の未来像に近いか、私にはもう明白だ。グーグルではない」と公言した。
グーグルへの脅威をめぐる興奮状態は、当のグーグルにまで波及している。最近の全社員集会で、グーグルのAI責任者であるジェフ・ディーンは、ChatGPTとその基礎技術である大規模言語モデル(LLM)について、グーグルは機会を逸してしまったのではないかという質問をぶつけられた。CNBCの報道によれば、「否」というのが彼の答えだった。
匿名を条件にInsiderの取材に応じたグーグルの検索部門の幹部は、ChatGPTの脅威についてまったく心配していないと話す。
複数のAI専門家や検索専門家、グーグルの現・元社員たちによれば、LLMという技術にはいくつかの欠点があり、グーグル検索に取って代わるような代物ではないという。興味深くはあるが大きな欠陥のある新奇なツール、という現在の立ち位置を乗り越えるだけでも一苦労だろうと彼らは見ている。
間違っていても自信満々
はっきり言おう。LLMは質問に対して誤った答えを返すことが多く、グーグル検索に比べると運用コストが法外に高くつくうえ、検索に対してこれまで培われた世間の期待に応えることはほぼ不可能だ。
起業家でニューヨーク大学工学部のゲイリー・マーカス教授は、「LLMこそ『スタートレック』に出てくるようなコンピューターだと考えたいのは山々だが、実際は違う」と語る。
かつてグーグルに批判的だったマーカスは、ChatGPTとLLMを手品に例える。この技術は、インターネット中から膨大な単語を取り込み、質問に対して一見意味ありげな単語列を生成する。マーカスはこれを「筋肉増強剤を打ったオートコンプリート」と呼ぶ。
この技術は、自分の言っていることが正しいかどうかを検証できないし、確定している事実と取り込んだ誤情報との区別もつかないとマーカスは指摘する。さらに悪いことに、AIは自分で答えを作り上げてしまう傾向がある。これこそAI研究者が「幻覚」と呼ぶ現象だ。
例えば、ある本の著者が誰だったか、LLMに何度か尋ねたとする。正しい答えが返ってくることもあれば、「知らない」と答えることも、間違った人物を答えることもある。
それ以上にたちが悪いのは次の指摘だ。
「何が怖いって、間違っているときも正しいときも、同じくらい正しく、自信ありげに見えることですよ」と語るのは、グーグルの検索チームの元社員で現在は検索コンサルタントであるダニエル・タンケラングだ。
この件に関し、Insiderはグーグルの広報担当者にコメントを求めたが回答は得られなかった。また、OpenAIの広報担当者はInsiderに対し、ChatGPTはまだ学習中なのだと語った。
「ChatGPTを研究用のプレビューとして公開したのは、現実世界での利用から学ぶためです。つまり私たちはこれを、有能で安全なAIシステムを開発、展開するうえで欠かせないフェーズだと考えております。今後も繰り返し教訓を得ながら、システムの安全性と信頼性を高めてまいります」(OpenAIの広報担当者)
AI対AIの戦争
検索の専門家たちは、ChatGPTのようなLLMを使った技術によって、ウェブがいずれ不正確な二流の情報であふれ返るのではないかと懸念している。
その懸念から、グーグルはすでに、AIが書いたと思われる低品質なページを根絶するためにアルゴリズムを強化している。グーグル内部のAIが、どこぞのAIが作成したと思われるページを特定し、ランクを下げる——まさにAI対AIの戦争がウェブ上のそこここで勃発する可能性があるのだ。
グーグル検索ももちろん誤情報と無縁ではなく、不正確な情報を含むページへのリンクを表示することも多い。しかし、質問に答える際に情報源にリンクするグーグル検索とは異なり、LLMはそこで大きな問題に直面する。
「LLMは参照元を教えてくれますが、それ自体をでっちあげてしまうこともあります。情報の入手元を記録していないんです」(マーカス教授)
アルトマンは、ChatGPTの限界を率直に認め、それがまだ「プレビュー中」であり、正確性と真実性の点でやるべきことは多く残っているとツイートしている。
グーグルの元幹部の1人の指摘によれば、ChatGPTをはじめとするLLMがグーグルに取って代わるという議論は、検索の主なユースケースを見落としていることが多いという。つまり、質問への答えを探すのではなく、あるウェブページにたどり着くために検索するというものだ。パブリッシャーがグーグル検索の上位に表示されるよう、ウェブページの最適化に多額の投資を行うのはこのためだ。
コストという課題
仮にChatGPTがグーグルにとって直接的な脅威になるとしても、それにかかるコストは法外だ。アルトマンのツイートによれば、一つひとつのチャットのコンピューティングコストは「10セント未満」だという。これなら高くはないように聞こえるし、OpenAIは大口出資者であるマイクロソフトとの間で、そのコンピューティングコストをマイクロソフトのAzureのクレジットと相殺する契約を結んだと伝えられている。
しかしChatGPTのクエリが、何十億というグーグルの1日の検索処理数並みに膨れ上がった場合、そのコストは1日あたり1億ドル(約130億円、1ドル=130円換算)以上に跳ね上がることもありうる。グーグルの元幹部によれば、クエリの処理方法としてはきわめて効率が悪いという。
検索ツールとしてのLLMの潜在力は、引き続き懐疑的な意見と関心とを呼び起こしている。検索クエリに対する数ある回答の1つとしてLLMを統合することもありうるだろう。例えば、セールスフォースの元チーフ研究者が率いるスタートアップ検索エンジン「You.com」は、外部ウェブページへのリンク一覧に加え、AIを使って質問へのテキスト回答を生成するツールを組み込んでいる。
そのような状況でも、検索結果におけるグーグルの優位性は揺らがないだろう。同社は何年もかけてLLMに投資し、社内でテストしてきた。すでにLLMの要素を自社の検索技術に組み込んでいるのだ。
LLMこそ検索の未来像なのかどうか、判断するのは時期尚早だろう。しかしその未来像に対して、グーグルが備えるべきであることは間違いない。