TSMCの創業者、モリス・チャン(左)と握手を交わすアップルのティム・クックCEO(右)。フェニックスで建設中のTSMCの工場にて2022年12月6日撮影。
Ross D. Franklin/Associated Press
- 台湾を拠点とする世界最大のチップメーカーのTSMCは、アリゾナ州の工場建設に400億ドルを投じることを発表した。
- TSMCの創業者は以前、アメリカへの進出を「高額で無駄な行動」と呼んでいた。
- しかし、この投資は地理的多様性の実現や、アメリカからの支持を強化することに繋がる可能性がある。
世界最大の半導体チップメーカーのTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing)は、アメリカに向けて史上最大の海外投資を行うことを発表した。同社のトップは過去に、アメリカでのチップ生産について懐疑的な発言をしていた。
TSMCは2022年12月13日、アリゾナに2つめの工場を開設することを発表し、アメリカへの投資を120億ドル(約1兆5700億円)から400億ドル(約5兆2400億円)に増やした。だが同社創業者のモリス・チャン(Morris Chang)は過去に、この投資が同社にとってもアメリカにとっても賢明ではないと主張していた。
チャンは2022年4月、アメリカでのチップ生産を増やす動きについて、製造業での人材不足や「アメリカでのチップ生産コストは台湾より50%も高い」という彼自身の意見を理由に、「高額で無駄な行動」だとブルッキングス研究所のインタビューで語っていた。
アメリカは、自動車、PC、iPhoneや洗濯機向けのチップ製造を台湾にあるTSMCの工場に依存しているが、最近チップの国内生産を増加させるための一歩を踏み出した。自分たちの島と主張する中国が台湾に侵攻し、チップ生産が停止した場合、数兆ドルの経済損失になりかねないからだ。そして、多くの専門家は侵攻が起こるのは時間の問題だと述べている。
だが専門家は、2026年にアリゾナに2つの工場が完成したとしても、台湾への依存を大幅に減らせるのかどうかについて懐疑的で、チャンのコメントはさらにこの投資が根本的な問題に直面する可能性があることを示唆している。
ビジネス上の課題があったとして、アリゾナへの投資はTSMCの利益になるだろう
ビジネス上の課題があるにも関わらず、TSMCがアリゾナに最初の工場を建設するだけでなく、2つ目も建設する理由はいくつかある。
まず、アメリカのチップ生産コストは、最終的に50%も高くはならないと考えられることだ。
「15%から20%高くなる程度だ」と半導体調査・コンサルティング企業のSemiAnalysisのチーフアナリスト、ダイラン・パテル(Dylan Patel)はInsiderに語った。
「アメリカは助成金でそれを相殺しようとするので、実際のコストの違いはあまりないだろう」
この工場は、2022年8月に可決した、アメリカでの半導体チップ生産を増加させるために520億ドル(約6兆8000億円)を支出する「CIPS and Science Act」を通じてアメリカ政府から支援を受けることになる。
さらにパテルは、TSMCの顧客は生産コストが高くなっても、過去数年間で重要性を増しているサプライチェーンの多様化のために喜んでそのコストを支払うと見ている。
それらの顧客の中にはTSMCの2022年の売上の26%を占めるアップル(Apple)も含まれる。アップルのティム・クック(Tim Cook)CEOはすでに、アリゾナの工場が稼働すれば同社が最大の顧客になるだろうと述べている。
「TSMCの経営陣はオペレーションにおける地域多様性を持つことにメリットがあると考えている。特に世界の主要経済国の政府から強く要請を受けている場合には」と元CIA職員で現在はCenter for a New American Securityのセキュリティとテクノロジー専門家であるマーティン・ラッサー(Martijn Rasser)はInsiderに語った。
ラッサーが述べたように、アメリカ政府の支持を得ることも、彼らがアメリカに進出する要因になるだろう。
チャンは4月のブルッキングス研究所のインタビューで、アリゾナでの1つめの工場建設は彼の意思ではなかったが「アメリカ政府からの強い要望」に沿って行っていると述べた。
そしてTSMCは、アメリカと良好な関係を結ぶ理由があったのかもしれない。
Stratecheryによると、アリゾナへの投資が中国の侵略に対して「台湾へのアメリカの支援を強化する代償」であるなら「本質的に台湾と一心同体である重要な事業のために、同社が購入できる最高の保険だ」という。