ステフ・ゴードンとデン・マトゥは、2021年にそれまでの本業を辞め、フルタイムでコンテンツ制作に専念している。
Courtesy of Steph Gordon and Den Mathu
26歳のステフ・ゴードン(Steph Gordon)と27歳のデン・マトゥ(Den Mathu)は、経済的自立を達成するために計画を立てていた。2人とも20代前半で「BIG4」と呼ばれる会計事務所に就職、徐々に昇給するごとに収入から貯蓄に回す比率を上げていった。
ゴードンはプライスウォーターハウスクーパース(PricewaterhouseCoopers)の人事部門に勤務し、マトゥはデロイト(Deloitte)でコンサルタントとして働いていた。
カナダのトロントに住むこのカップルは、当時、収入の約60%を貯蓄・投資するまでになっていたという。彼らは収入のほとんどを貯め続けるつもりであり、30歳までにそれぞれがミリオネア(億万長者)になることを目標に掲げていた。
「ミリオン、つまり100万ドル(約1億3500万円、1ドル=135円換算)という数字は重要ではないんです。100万ドルという金額は、富を築くことの象徴として掲げています」と、ゴードンはマトゥと共同制作しているYouTubeチャンネルの動画で強調している。そして、彼らにとっての富とは「自由、時間、そして将来の経済的安定」を意味するのだ、と。
彼らは2021年秋に計画を軌道修正した。本業を辞め、副業だったキャリアとファイナンスのナビゲートに関するYouTube動画の制作を本格的に事業化することにしたのだ。
100万ドルの純資産を築きたいという思いは変わっていないが、誰かのために働くよりも、自分たちのために働いた方がそれをより早く実現できるかもしれないと考えたのだ。そしてこれまでのところ、その考えは正しい。
ゴードンとマトゥがコンテンツ制作に専念するために会社を辞めてから、約1年が経過した。
「トータルで見て、このビジネスから得られた収入のほうが、以前の仕事の給与の合計よりも多かった」とゴードンは明かす。Insiderが閲覧した資料によると、2022年、2人は月に最大2万6000カナダドル(約260万円、1カナダドル=100円換算)の収入を得ていた。
「それをさらに増やすことが、これからの目標です」と彼女は言う。
学生ローンを完済し、収入の60%を貯蓄
ゴードンとマトゥは2017年の夏、ある会社のインターンシップで知り合った。1年後に彼らは大学を卒業し、一緒にトロントのアパートに引っ越した。
ゴードンが借金なしで卒業し、貯蓄と投資のスタートを切ったのに対し、マトゥは大学の学費のために4万1000カナダドル(約410万円)の政府のローンを組んでいたことをInsiderは確認している。さらに、マトゥは学費をまかなうために8000カナダドル(約80万円)の民間ローンを組み、負債総額は4万9000カナダドル(約490万円)にも上っていたという。
「暗い雲が周りを覆っているような気分でした。できるだけ早く返済したかった」とマトゥは振り返る。
ローン会社は、10年後に完済できる計画を自動的に立て、毎月数百ドルの最低支払額を要求した。しかしマトゥは、この計画をもっと早めたいと考えていた。そこで毎月の必要経費をすべて洗い出し、初任給の5万カナダドル(約500万円)から計算すると、毎月最大1300カナダドル(約13万円)を借金返済に回せることを割り出した。
そして、毎月1300カナダドルの自動引き落としを設定し、約2年半の返済を続けた結果、彼は無借金になった。
マトゥは一時、約4万9000カナダドルの借金を背負っていた。
Courtesy of Steph Gordon and Den Mathu
マトゥが借金返済を優先している間、ゴードンは少しずつ貯蓄を増やしていった。最初は給与の20%(3万8000カナダドル、約380万円)を貯金し、投資していたという。そして収入が増えるにつれて、貯蓄に回す割合も上げていった。
「私の出費は決まった額で、給料が上がるたびに増えるということはありません。だから、昇給分はすべて貯金と投資に回しました。毎月20%だった貯蓄率は、30%、40%、50%、そして60%にまで上がりました」
2021年に仕事を辞めるまでに、ゴードンは約5万カナダドル(約500万円)、マトゥは3万カナダドル(約300万円)を貯金し、そして約4万カナダドル(約400万円)を彼らのビジネス用の銀行口座に蓄えていたという。
彼らは同居して家賃や光熱費、食料品などの固定費を折半することで、給料の大半を貯蓄に回すことができた。さらに、20代を謳歌しつつも、裁量的な支出を減らす方法を見つけたのだ。
「トロントには、無料や安い金額で楽しめるアクティビティがたくさんあります」とゴードンは言う。
「私たちは4カ月間200ドルほどですむバスケットボール・サークルでプレーし、楽しいネットワーキングのイベントを見つけ、豪華なディナーに出かける代わりに新しいコーヒーショップに行ったりしていました」
YouTubeチャンネルを収益化し、副業を本業のビジネスに
ゴードンとマトゥは、2019年に初めてYouTubeに動画をアップロードした。今はもう公開されていないが、自分たちの住むアパートを紹介する内容で、撮影と編集の練習をするためのものだったという。
マトゥは大学時代から動画撮影に興味があり、すでにビデオカメラを持っていて、それを自主制作映画の撮影をするときに使っていたという。その頃、彼はYouTubeを夢中で見ていたそうで、初めて賃貸契約をしたり、初めて給料を投資したりと、20代で経験した「初めて」を2人で記録しようと考えたのだと語った。
「僕らも分からないことだらけだったんですよ。例えば、新しい街に引っ越してきたとき、どうやってアパートを探せばいいのか、給料の交渉はどうするのか、とかね。そういうのってあまりみんな話さないじゃないですか」(マトゥ)
2人は2019年の8月からコンスタントに動画を投稿し始めた。マトゥがすでに持っていたカメラを使い、三脚とマイクを購入し、自分たちのアパートで撮影と編集を開始した。
彼らはカナダのトロントにあるアパートで撮影と編集を行っている。
Courtesy of Steph Gordon and Den Mathu
2020年の夏には、動画から収入を得るのに足る登録者数と視聴時間を獲得していた。
「YouTubeでお金を稼ぐには、収益化機能を有効にする必要がある」とゴードンは説明する。資格要件は、1年間に1000人以上の登録者と4000時間以上の視聴時間があることだ。その基準に達すると、Googleアドセンス(AdSense)のアカウントを設定し、動画内の広告から収入を得ることができるようになる。
登録者と視聴時間が急増したのはコンスタントに投稿し続けていたおかげだと彼らは考えている。
「2020年の初めには、『週の投稿をあと2回増やして、お金を稼げる副業にしよう』と思っていました」とゴードンは言う。そこから、彼らは実験と改良を続けた。
「改良を重ねる過程で『ニッチ化』が必要だと気づいたんです。メインのトピックを1つに絞って話すと、登録者を獲得し、ロイヤルな視聴者を増やすことができます」
彼らはパーソナルファイナンスにフォーカスし、節約、投資、収入アップ、借金返済などのトピックを取り上げた。
2021年の秋には、広告やブランドとの提携で、基本的な生活費(約4000カナダドル、約40万円)を賄えるだけの収入を得られるようになったという。この数字をコンスタントに達成するようになったところで、2人はYouTubeを使ってフルタイムで働くことの現実性についてじっくり話し合った。
最終的に、彼らは一時的な収入減少を受け入れ、ビジネスを成長させるチャンスに賭けることにした。2人は生活に必要な収入は十分に得ており、個人の預金口座とビジネス用の口座を合わせれば約12万カナダドル(約1200万円)の現金を持っていた。もしこれ以上の収入が必要だと感じたら、いつでも仕事を探せばいい。
彼らは、その月にどれだけビジネスがうまくいっても、自分たちには決まった給料(毎月2000カナダドル〔約20万円〕ずつ)を払うことにした。今では月収が2万6000カナダドル(約260万円)になったが、給料の額はそのままにしている。残りの収益は、ビジネスに還元されるか、彼らの個人的な投資口座(主にETFに投資している)に入る。また、動画編集者とグラフィックデザイナーにも報酬を支払っているという。
ブランドとの取引、広告、アフィリエイトを使ってオンラインで稼ぐ
ゴードンとマトゥは、主に3つの収入源を持っている。ブランドとの提携、YouTubeのアドセンス広告プログラムによる動画広告収入、そしてアフィリエイト・マーケティングだ。
収益の大半はブランドとの取引によるものだ。金融機関や貯蓄・投資関連企業と提携し、YouTube、ティックトック(TikTok)、インスタグラム(Instagram)でスポンサー付きのコンテンツを投稿する。
このようなパートナーシップは収益性が高いが、非常に不安定だとゴードンは言う。
「相手を見つけたり、相手から声がかかるように工夫する必要があります。こういう努力をずっと続けなければいけないんです」
それに比べると、広告収入のほうが安定している。2023年にはこの収益源を強化することでより多くの時間とエネルギーを確保し、会社の成長を継続できるようにしたいと2人は考えている。
彼らによれば、広告収入は一般的に動画の視聴回数と相関性があるという。
コンスタントに動画を投稿して、自分のチャンネルに人を呼び込むことに加えて、「動画を見てもらうためには、タイトルとサムネイルが重要」とマトゥは言う。
「サムネイルは映画の予告編のようなもの。人を動画に引き込むためには、サムネイルを魅力的にしなければいけません」
彼らはまた、他のパーソナルファイナンス系YouTuberがどんなことをしているかもウォッチしている。「誰の何がうまくいっていて、視聴者が何によく反応しているのかを見ることが大切です」とゴードンは話す。
オンラインでのプレゼンスを確立することは、常に学習を必要とするプロセスであり、自分の手で給料を稼ぐことは大変なことだと、ゴードンとマトゥは語る。
「起業家として厳しい日々が続くこともあれば、とても興奮するようなことが起こる日もあるし、その中間もあります。
でも一日の終わりには、自分のしていることはすべて、直接的に自分のためになっていると思えるんです。やりたくないと思うプロジェクトや、やらなければよかったと思うようなプロジェクトはひとつもありません。それを選択したのは自分自身ですからね」(ゴードン)