企業が直面するサプライチェーンの廃棄物問題、その解決策は?

グローバルのサプライチェーンにおいて、毎年1630億米ドル相当の在庫が賞味期限切れや過剰生産により廃棄される一方、消費者はコスト、品質の次に耐久性を求めるようになっている――。

そんな驚くべきデータが、ラベリングおよび機能性材料を専門とするグローバルメーカーでありRFIDソリューション最大手、Avery Dennison Smartracの大規模調査レポート「失われた1000億ドル:サプライチェーンの無駄がもたらす本当のコスト」で明らかにされた。

サステナビリティを重視する傾向が高まる中、消費者にはどのような意識の変化が生じているのか。また企業のサプライチェーンにはどのような課題があり、どんな解決策がとられているのかに迫る。

ブラックボックス化するサプライチェーンの過剰在庫

サステナビリティ(持続可能性)の確保が重要な経営課題となり、サプライチェーンの各プロセスで発生する廃棄物や過剰在庫の解決は企業にとって急務とされている。

この大きな変化のなかで、企業はどんな課題に直面し、どんな手を打っているのか。また、消費者意識や購買行動にどのような影響を与えているのか。

サムネイル

提供:Avery Dennison Smartrac

その現状を把握するためにRFIDソリューションの世界最大手、Avery Dennison Smartracでは300社を超えるグローバル企業を対象にサプライチェーン廃棄物とオペレーションに関する調査を実施すると同時に、消費者の感情や優先順位を把握するために7500人以上の消費者を対象に定量調査を実施。両者の結果をレポート「失われた1000億ドル:サプライチェーンの無駄がもたらす本当のコスト」としてまとめた。

RFIDタグの画像

RFIDタグ

提供:Avery Dennison Smartrac

なお、RFIDとは個々の製品に固有のIDを付け電波でデータを伝送する技術で、電波の届く範囲であれば、離れていても複数のタグを一気にスキャンできる特徴がある。Avery Dennison Smartracの加藤順也マネージングディレクターはこう指摘する。

「サプライチェーンの見える化は1970年代からずっと指摘され続けてきた課題で、日本でも製・配・販の各プレーヤーが情報を共有すれば在庫の最適化ができるとの仮説は昔からありました。しかし、ユニクロのようなSPA(製造小売業)は別として、あまり進んではいません。

その背景には、企業間のパートナーシップ意識の欠如の他にも、小売業中心のサプライチェーンにおいては『欠品は悪』とみなされるため、ある程度の廃棄ロスが前提とされてきたという商習慣が挙げられるでしょう。

しかし現在は、サステナビリティへの関心の高まりに加え、パンデミックやロシアによるウクライナ侵攻でサプライチェーンが寸断される事態に直面し、『本当に無駄を許容しながら事業を続けてよいのか』という問題意識が世界的にも、また一部の日本企業の間でも高まっています」(加藤氏)

そもそもサプライチェーンでどれだけ無駄が発生しているか企業が把握できていないという根本的な問題もある、と加藤氏は続ける。

「例えばあるフランスの化粧品ブランドで、店舗を含むサプライチェーン上の在庫を可視化するためにすべての製品にRFIDを付けて見える化したところ、店舗のバックルームなどに4~5年前に発売した製品の在庫が多数、積まれたまま放置されているのが分かりました。

このように、モノとして使えず、売ることもできず、誰からも関心を持たれない、ブラックボックス化された在庫が大量に存在するのではないか。そんな問題意識を私たちはずっと持ってきました」(加藤氏)

毎年1630億米ドル相当もの在庫が損傷、廃棄

レポート「失われた1000億ドル」で調査対象とした企業はアメリカ、イギリス、フランス、中国、日本の5市場で、かつ食品、化粧品、アパレル、自動車、医薬品/ヘルスケアの318社である。

また、消費者調査は上記5市場で、食品、化粧品、アパレルの3つの小売りセグメントの消費者7500人以上を対象としている。

調査からはサプライチェーンに関する課題や消費者の傾向として、大きく4つのポイントが見えてきた。

スライド資料

Avery Dennison Smartracの大規模調査レポート「失われた1000億ドル」より

提供:Avery Dennison Smartrac

一つ目は、サプライチェーンのサステナビリティに対するIT投資の欠如である。

80%以上の企業がCO2削減や建物のエネルギー効率の改善などサステナビリティに対し投資を行っているものの、サプライチェーンの最適化には平均で4.4%のIT予算しか割り当てられていない。

見方を変えれば、十分なIT投資をサプライチェーン最適化に振り向ければ、企業はESG目標の達成と同時に、利益の改善を実現できる可能性がある。

二つ目は、過剰生産の問題である。

新型コロナウイルスの感染拡大により、2019年には3700件だったサプライチェーンの混乱や障害の発生数は、2021年には1万1642件に急増した。加えて地政学的リスクやエネルギーの高騰、インフレ圧力など社会の不確実性が高まっていることに伴い、企業は納期を守り顧客の不安を解消するために過剰生産を行っている。

結果として年間平均8%の在庫が損傷、または廃棄されており、これは1630億米ドルの在庫に相当する。調査対象の業界で比較すると、5業界のなかで化粧品業界が最も廃棄物率が高い(10.2%)。

一方、消費者の関心に目を向けると、買い物の際に意識するポイントは「品質」67%、「コスト」60%に続いて「耐久性」が48%となり、およそ半数の消費者が商品の耐久性を気にしていることが分かった。

これが3つ目のポイントで、すなわち、消費者は製品の耐久性に高い関心を示している。そうした製品を作ればニーズに応えられ、かつ廃棄物の削減につながるだろう。

4つ目は、サプライチェーンの透明性を高める必要性である。

消費者は製品が自分の手に入るまで、どのような工程を経ているのかを知らない。今回のレポートでは世界の消費者の半数以上が「ファストファッションはすべて機械によって作られている」と誤解していることが明らかになった。

一方、食品、アパレル、化粧品のいずれにおいても3分の1以上の消費者が、ブランドが製品の成分や素材について情報を開示するようになれば、より持続可能な商品を購入するようになると回答している。

(レポートの詳細についてはこちらからダウンロード可能)

サプライチェーンへのIT投資が競争力を強化する

以上のレポートから、サプライチェーンの最適化と情報開示が環境に与える恩恵は明らかだ。実際、先進的な企業はすでにこの課題の解決に着手し一定の成果をあげている。

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提供:Avery Dennison Smartrac

「Chipotle社というアメリカの大手レストランチェーンは、保存料を使わない新鮮な食材を使用していますが、例えば鶏肉は屠殺から消費期限まで15日で、需要が減少したときに消費期限の短さから在庫廃棄のリスクが高まります。

そこで同社はケース単位でRFIDを使いサプライヤーから店頭まで食材を追跡できるようにして、在庫管理工数や在庫回転日数を減らしつつ、消費期限の可視性を高めて新鮮な食材を消費者に提供。加えて、リコールが発生した際も、消費者への説明責任を果たせるようにしただけではなく、回収・廃棄のスコープを最小限に抑えることができるようになりました。

また、アディダスでは靴に固有のIDを付与し、購入した客がQRコードをスキャンすると『この靴は3か月使用したので〇ドルで買い取る』と販売期間に応じたリセールバリューを提案できるようにしました。買い取った靴は再販するか、分解してパーツごとにリサイクルする体制を整えたのです。これによりブランドのファンが増加したと同社はコメントしています」(加藤氏)

一般に、サプライチェーンの最適化のメリットとしてあげられるのは在庫管理の効率化だ。それは過剰生産と不要な輸送の削減に直結し、廃棄物やCO2排出量の減少、利益の向上に貢献する。また、新鮮な商品を安定して届けられるようになれば、競争力強化にもつながる。

先進的な企業の事例を眺めると、サプライチェーン最適化のメリットはそれらに留まらない。消費者意識の高まりにより、廃棄物の削減に対する取り組みはブランドへの信頼につながる。製品の二次利用や修理制度、アップサイクルの機会に関するメッセージを盛り込むことは、消費者の関心を引き付けるカギとなる可能性があるのだ。

倉庫のイメージ画像

Pressmaster/Shutterstock

さらに最近注目される動向として、生産や流通工程の見える化が付加価値となる可能性があるという。

「日本の消費者は食品の産地の偽装に敏感ですが、今後は細かな生産の過程や流通のされ方といったことにも関心が高まるでしょう。

化粧品や酒といったカテゴリでは、すでにその兆候があり、原料や作り方、流通や管理のされ方をデジタルで管理して、それを消費者に見えるようにする、そんなソリューションをいま一緒に作っていこうとしています」(加藤氏)

要するに、RFIDソリューションへの投資は過剰在庫の解消等のコスト削減だけでなく、競争力強化や売上高の拡大を目的としたソリューションとして捉えられているわけだ。

そうした意味でも、自社を含めたサプライチェーンにおける課題がどこにあるのかに気づくことが大きな一歩となるのは間違いない。

加藤さんの写真

加藤順也(かとう・じゅんや)氏/Avery Dennison Smartrac Japan マネージングディレクター。LVMHグループ、Kurt Salmon US を経て2011年にAvery Dennisonに入社、2019年4月から現職。小売業や消費財メーカーへのコンサルティングやソリューション開発が専門。Avery Dennisonにおいて、マーケット開拓やRFID導入プロジェクトをリードし、日本支社の成長を牽引。上智大学卒。UCバークレーHaasビジネススクール DLAP修了。


Avery Dennison Smartracの大規模調査レポート「失われた1000億ドル」のダウンロードはこちらから

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