カリフォルニア州メンローパークにあるフェイスブック(現メタ)本社で、卓球をしてくつろぐフェイスブックの社員たち。
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この1年、企業が厳しい市場と潜在的な景気後退を乗り切ろうとしていたため、多くのテック系企業の従業員たちはその特典を廃止されてきた。
メタ(Meta)は、従業員一人当たりの福利厚生にまつわる手当を1000ドル(約13万7430円)削減。施設内でのランドリー(洗濯代行)サービスを廃止し、従業員が職場との往復に配車サービス「リフト(Lyft)」を月200ドル(約2万7480円)分まで無料で利用できる制度を終了した。さらに無料の食事の予算も縮小している。
グーグル(Google)も同様で、2022年から社員の出張を「ビジネスに不可欠な」ものだけに限定し始めた。セールスフォース(Salesforce)もこの流れに乗り、2024年度には「ウェルビーイング」デーを廃止することにした。
イーロン・マスク(Elon Musk)がツイッター(Twitter)を買収したとき、彼が最初にしたことの1つは、健康、家族計画、生産性、トレーニング、ホームオフィスに関する特典を取り除くことだった。彼は、無料のランチさえも廃止し、ツイッターからできる限り多くのものを切り捨てて、従業員に「仕事中毒」になるか、または辞職するかを選択するように迫った。
社員としての特典がなくなり、業績評価が厳しくなっても、テック業界で働く人たちの報酬が高いことには変わりはない。しかし、文字通りタダ飯を食っていた技術者は、やはり、一つの時代の終わりを感じているだろう。
特典の終焉
今回の特典の消滅は10年前とはまったく逆の動きだ。2010年代はエンジニアの採用・確保合戦で、特典が企業の差別化に貢献していた。また、特典によって、社員をオフィス(シリコンバレーの場合はキャンパス)にとどめておくことができた。ヨガのクラスがあなたのデスクからすぐ近くで行われるとしたら、あまり遠くへは行けないだろう。
しかし、新型コロナウイルスは多くの特典の魅力を消してしまった。誰もオフィスに行かないのに、オフィス内のクライミングウォールを楽しむのは難しい。
一部の企業では、パンデミック前の特典を、育児やメンタルヘルスのサポート、在宅勤務手当などより従業員の身近なニーズに置き換えた企業もあった。今ではこれらの特典も窮地に追い込まれている。
その一因は初めてテック企業の経営者が多くの技術者に対して優位に立ったことだ。レイオフがテック業界を襲い、2022年には15万人の労働者が職を失うと言われている。残った者は、ただひたすら耐え忍ぶのみだ。バーンスタイン(Bernstein)のアナリスト、マーク・シュムリック(Mark Shmulik)は、グーグルのレイオフの可能性についてのメモの中で、次のように述べている。
「あなたがもしグーグルで仕事をしているなら、身をひそめて静かにし、スシバーのトロがなくなることだけが自分への影響であることを祈るしかない」
ガートナー(Gartner)の調査によると、CFOの10人中7人は、リモートワークが定着していることから、不動産や施設管理の支出縮小をすでに計画していることが明らかになった。これは、オフィスが楽しいものではなく、機能性を重視したものになる可能性が高いことを意味している。
テック業界で働く人たちは特典を望んでいたのか
しかし、一部のテック企業の社員にとって、この特典の是正が遅きに失したことは明らかだ。
2022年5月、カトラ(Katla)のデベロッパー・リレーションズ・コンサルタント、ジェシカ・ローズ(Jessica Rose)はツイッターにある質問を投稿した。
「どんな特典が良さそう? またあなたにとって嫌な特典は?」
そして「私の場合、明らかに私をオフィスに閉じ込めて不幸せにするのを意図するものは嫌。食べ物、ハンモックやビデオゲームはいらないから、ただリモートワークができるか、定時に帰宅させてほしい」と彼女は付け加えた。
この彼女のツイートには、要らないものとして、オフィスのフィットネスセンターから卓球台までユーザーの答えが集まった。あるツイッターユーザーは、「チーム活動、チームバケーション、チームでのリトリート。経理のデニスとバハマに行きたくなんかない」と書き込んでいる。
別のツイッターユーザー、JessingAboutは、「『メンタルヘルス・ベネフィット』と言っても、実際にはアプリで、実際の治療とは異なる」と書き込んでいる。さらに、ノードヘルス(Nordhealth)の主任開発者デビッド・ダーンズ(David Darnes)は、「無料のランチ、デスクでのビール、オフィスのゲーム機。夜遅くまで働くときのテイクアウト」と不要な物をツイートしている。
2023年は、テック企業で働く若者たちがアイス抹茶ラテについて語るTikTokの「1日の生活(day in the life)」の動画は少なくなり、投稿される動画はかなり厳しい状況に置かれたものとなることだろう。