12月になるとヨーロッパはどこもクリスマスモードだ。オランダで撮影。
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2022年も終わりが近づいてきた。ベルギーでは、街にはクリスマス・ツリーが飾られ、各地でクリスマス・マーケットが開催され、街が賑わっている。
クリスマスは、日本では恋人のためのものという認識が強いが、欧州では家族で過ごすものという感覚が強い。
今回は、ベルギー滞在で感じている「多様な家族の在り方」について考えたい。
「一人っ子政策」がもたらしたもの
ベルギーでは養子が珍しくない。
子どもが欲しいカップルは、精子バンクなどを活用することもあれば、養子を受け入れることもある。
私の大学院の友人は、見た目はアジア人だが、国籍はベルギーだ。親が移民としてベルギーにきたのだと思っていたら、「私は養子なの」とさらりと言われた。
気まずい感じでもなかったのでもう少し聞くと、1997年生まれの彼女は、赤ん坊のころに中国のスーパーに置き去りにされていたところを施設に保護されたそうだ。
ちょうど、中国が一人っ子政策を行っていた時期と重なり、ベルギー人のカップルが養子として彼女を迎え入れることを決めたという。「男の子が欲しい家庭が多かったから、同じような境遇の中国人の女の子は多い」と彼女は語った。
親は白人なので、小さいころから養子であることが隠されることはなかった。彼女の住む地域にアジア人は少なかったので最初は少し珍しがられたが、差別や嫌な経験をしたことはないそうだ。
血縁ではない家族の繋がり
ベルギーの世界遺産・グラン=プラスにも巨大なツリーが設置された。
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人種が同じでも、色々な家族の形がある。
私がベルギーについてしばらく滞在させてもらったベルギー人の家族は、日本では「複雑な家庭」と言われてしまうような環境だった。
母親は離婚を2回しており、子どもは3人いる。長男と長女は最初のパートナーとの子どもで、次男は二人目のパートナーとの子どもだ。
彼らは毎週土曜日には、家族で一週間分の買い出しにいく。ティーンエージャーの次男も買い出しに付き合い、積極的に荷物を車から家に運ぶ。
赤の他人である私に「家の鍵は自由につかっていいから」と初日に家のカギを渡してくれたときは、仰天した。
母親が18時ギリギリに帰宅するので、毎日の食事は少し早く帰宅する父親がつくり、皆で机を囲む。一日にあったことなどを話し合い、終わった後は各自が自由に時間を過ごす。
お互いのプライベートを大切にしながらも、助け合う距離感は非常に居心地がよかった。
次男にガールフレンドができると、「家族」のイベントに彼女も必ず招待された。来年の夏の2週間程度のフランス旅行にも、彼女は同行するそうだ。高校1年生であっても、大事な息子の彼女は「家族」になるのだ。
フランス語が全くわからない私も気を遣わずにすごせたのはこの「空気」のおかげといってもいいだろう。私が今まで過ごした家族のなかでもっとも居心地がいい時間を過ごすことができた。
私はこれまで日本で抱いてきた家族観との違いについて、その驚きを長男に話したことがあった。そして「家族に血縁関係は必要なのかな?」と聞いてみた。一瞬、彼はその質問に驚いた顔をして、「なんで?」と返し、こう続けた。
「必要だとは思わない。多様な家庭をみてきたし、一緒にそれなりの時間すごせば、それってもう『家族』だから」
筆者の誕生日も祝ってくれた時のケーキ。ベルギーの高級店のケーキでわざわざ買いに行ってくれた。
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誰とでも法的に同居できるベルギーの「すごい」制度
そもそもベルギーでは、法律婚をせずに子供を持つカップルも多い。
ベルギーには「法定同居(cohabitation)」という制度があり、市町村の当局に「一緒に住んでいる」と法定同居の宣言を行えば、法定同居人になれる。法定同居人になれば、住居の売却などは互いの同意が必要になるなど、一定の法的保護を受けることができる。
そして特徴的なのは、この届出はべルギーで同棲するすべての人に開かれていることだ。したがって、異性愛者のカップルも同性愛者のカップルも利用することができる。
この制度では、家族や性的な意味合いのない関係を持つ人と同居することも可能だ。「契約を締結する法的能力を有すること」「未婚者」などいくつかの条件は課されるが、この制度を使って法律婚をせずに子どもを持つカップルも多い。
ベルギーの統計サイトSTATBELは「婚外児はベルギーの出生数の50.9%を占めている(2019年時点)」と指摘する。つまり「結婚しているか否か」は重要ではなく、それによって子どもが差別されること、不利益を被ることはない。
私の友人のベルギー人カップルは、現在3歳と1歳の子どもがいる。しかし、彼らが法律婚をしたのは今年だ。コロナ禍で延期されていたということもあったが、「彼女がどうしても結婚式をやりたかった」ので、ついでに結婚をしたそうだ。
日本では戸籍上の「夫婦」にならないと、共同親権にならない。しかし、ベルギーでは生物学上の両親は、法律婚をしていてもいなくても、共同親権である。双方に扶養の義務が発生するという点も違いがある。
「違い」を乗り越えて
ベルギーの一部では隣国のドイツ語も話されている。ドイツのケルン大聖堂で撮影。
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またベルギーでは「違いを当たり前のものとして認識し、議論の中でよりよいものを作っていこう」とする土台があるように感じる。
そもそも、ベルギー国中では言語論争がある。フラマン語(オランダ語の一種)を話す北部とフランス語を話す南部、一部のドイツ語圏の激しい地域間対立を乗り越えながら、独自の風格を保っているのだ。こうした言語対立があるので首都のブリュッセルでは英語が主に利用される。
こうした状況はまさに27カ国が一つにまとまっているEUを体現している。首都ブリュッセルは欧州委員会、欧州連合理事会、欧州議会の一部の本拠地でもある。何かEUで決めごとがあるときには、ブリュッセルに要人が集まるのだ。
こうした背景もあり、ベルギーには世界各国から人が集まる。私が通う大学院も世界中からの学生が集い、授業のなかでも、色々な言語が飛び交う。
講義での「家族のスライド」に驚き
フランス語の授業で使われたスライド。家族のイラストは同性同士や、肌の色や人種も多様だった。
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ある時、フランス語の授業で「さすがだな」と思った瞬間があった。
「父親」「母親」など、家族についての単語を学んでいた時だ。スライドには、「家族」を表す写真が掲載されていたが、「男性と男性」「女性と女性」など、「伝統的な家族の形態」以外のものが当然のように掲載されていた。もちろん肌や髪の色も多様だ。
多様な国や宗教の人間がいれば、違っているのは当たり前。また、移民も多いので、見た目が国籍にそのまま直結しないことも多い。小さいころから、環境や教育を通じて、欧州では「家族の多様性」を学んでいくように感じる。
私は、日本ではこのような感覚を抱くことはなかったし、法律婚を軸とした伝統的な「家族」の形を前提に物事を考え、縛られていたように思う。
言葉の壁によって深まった家族の絆
早坂シャーニィーさん(左)と筆者。若者版ダボス会議と呼ばれるOne Young World Manchester(2022年9月)で撮影。
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先日、日本に住む友人でモデルの早坂シャーニィーと、日本と海外の家族の在り方について、久しぶりにメールや音声などで意見交換した。
彼女は母親が日本人で、父親は白人のオーストラリア人だ。幼いころからオーストラリアで育ち、オーストラリアの弁護士資格を取得。2年ほど前、日本に一人でやってきた。
日本に来て驚いたのは、多くの日本人から「人種や国籍が違う両親を持つのは大変?どう感じるの?」と質問されることだという。
「オーストラリアではほとんど親の国籍は気にされず、聞かれることはなかった」と彼女は言う。
彼女の母親は、英語が流暢ではなかったものの、基本的に家族の会話では英語が使われた。
「言葉の壁がある家族」と感じてしまうが、彼女は「むしろ、『言葉の壁』によって家族の絆は強まっているように感じていた」そうだ。壁があるからこそ、家族では、常にオープンで率直に意見を伝え合う空気があるという。
こうした話を聞くと、私は改めて「家族」のあり方の多様性を思う。
家族の在り方については、色々な意見があるだろう。それでも、日本では同性婚が認められていなかったり、特別養子縁組の認知が少なかったりと、「家族」に対する認識が少し狭いようにも感じる。
過去最低ペースの出生数など、少子化に関するニュースが話題になるが、クリスマスや年末年始のこの時期に、社会の土台である「家族」について考えてみてもいいのかもしれない。
雨宮百子(あめみや・ももこ):ベルギー在住のエディター。早稲田大学政治経済学部卒業後、Forbes JAPAN編集部でエディター・アシスタントを経て、日本経済新聞社に入社。記者として就活やベンチャーを取材する。その後、日本経済新聞出版社(現・日経BP)に書籍編集者として出向、60冊以上のビジネス書を作る。担当した『日経文庫 SDGs入門』『お父さんが教える13歳からの金融入門』は10万部を超える。就業中に名古屋商科大学院で経営学修士(MBA)を取得。2022年8月に退職・独立し、ベルギーに。若者版ダボス会議と言われるOne Young World 2022に日本代表として参加。現在はルーヴァン経営学院の上級修士課程で欧州ビジネス・経済政策を学ぶ。メディアへの執筆のほか、編集業務や海外企業の日本進出支援も行っている。Twitterは @amemiyaedit、「アラサー女子の社会人留学」としてボイシーでも配信。