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- ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンが、イーロン・マスクとサム・バンクマン-フリードを「オリガルヒ」と非難した。
- 「マスクが持つ莫大な資産により、彼のビジネスが停滞したとしても、ファンはずっと忠実でいられるのだろう」
- 「情報テクノロジーによって築かれた巨万の富が、本格的なカルトを生み出している」とクルーグマンは述べている。
イーロン・マスク(Elon Musk)やサム・バンクマン-フリード(Sam Bankman-Fried)といったテック界の突出したリーダーは革命家としてもてはやされてきた。だが、ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン(Paul Krugman)は彼らを激しく非難し、今の「短気なオリガルヒ」の時代を彼らが体現していると、2022年12月19日にニューヨークタイムズに掲載された寄稿文で述べている。
「大きな特権を得た者は、その振る舞いが良くないとは決して言わないような人々に囲まれている。だからこそ、イーロン・マスクが風評によって自滅していく大騒動を目にしても、私は驚かない」と、マスクによるツイッター(Twitter)の買収や、物議を醸している彼の運営手法に言及している。
「さらに興味深いのは、なぜこのような人たちに我々が支配されているのかということだ。それは我々が『短気なオリガルヒ』の時代に生きているからだ」
クルーグマンのコメントは、マスクによる混乱したツイッター改革に向けられたものだ。この改革をきっかけに、マスクの運営手法と政治的なツイートに対して厳しい目が向けられるようになった。クルーグマンはツイッター買収以前からマスクを声高に批判しており、2021年の寄稿文では彼を「危なっかしい億万長者」と呼び、ツイッターが「マスクポカリプス(Muskpocalypse)」に陥る危険性があると警告した。
マスクは2022年12月18日から19日にかけて、自身のCEOとしての進退を問うアンケートをツイッター上で行った。その結果、退任に票を投じたユーザーが過半数となった。それでもマスクには多数の熱心なフォロワーがおり、彼らはマスクを「不機嫌な子ども」ではなく、「ビジョナリー(先見の明がある人)」と見ているとクルーグマンは指摘する。それは、マスクの莫大な富に起因しているのかもしれない。億万長者であるマスクは、20世紀におけるビジネス界の大物ハワード・ヒューズ(Howard Hughes)と比較されることも多いが、マスクの資産はヒューズを大きく上回っている。テスラ(Tesla)の株価が60%急落した後でさえそうだ。そのため、マスクのビジネスが停滞したり、投資家が背を向けたりしても、ファンはずっと忠実でいられるのだろう。
「超富裕層の多くは、かつてはほとんど秘密主義的だったが、今ではセレブリティになっている」とクルーグマンは述べ、「情報テクノロジーによって築かれた巨万の富が(天才起業家を崇拝する)本格的なカルトを生み出し、テック界の大物になりたがる者やスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)風の者が至るところで見られるようになった」と続けた。
同じことが、サム・バンクマン-フリード(Sam Bankman-Fried)にも当てはまるだろう。彼は創業した仮想通貨(暗号資産)取引所のFTXが破綻した後、詐欺、マネーロンダリングなどの罪に問われ、その評価はすっかり地に落ちた。しかし、FTXの破綻以前は業界の寵児であり、慈悲深さの象徴とみなされていた。クルーグマンは「もじゃもじゃ頭でみすぼらしい服装だが、一般人にはできない方法で未来をつかむ空想家」と彼を言い表している。
しかし、マスクとバンクマン-フリードの評判が落ちたことは「天才起業家」の魅力が消え去ったことを意味するのかもしれない。
「マスクとバンクマン-フリードは結局、天才起業家の伝説に泥を塗ったことで、世の中のためになったのかもしれない。その打撃はかなりのものだろう」とクルーグマンは言う。
「しかし今のところ、マスクが好き勝手にふるまったために、ツイッターは崩壊しつつある。知識のある人から有用な情報を引き出すことができる場所になっていたのに。そして、この物語はハッピーエンドになりそうもない」
クルーグマンは、自身のツイッターフォロワーに対し、マストドン(Mastodon)などの代替となるソーシャルメディアに移行することを促している。12月15日に、マスクが著名なジャーナリストのツイッターアカウントを凍結してからは特に、他のツイッターユーザーもマスクの気のおもむくままに検閲されるのではないかという懸念が広がったからだ。