北京の夕方のラッシュアワー。
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- 住宅ローン危機とインフレの再加速は、2023年に市場が直面する大きな世界的リスクになりそうだ。
- 「典型的な一年における最大のリスクは、ありふれた風景の中に潜んでいることが多い」と、チャールズ・シュワブのチーフ投資ストラテジストは述べている。
- そのほか、中央銀行による過剰な利上げや、ウクライナにおけるロシアの戦争拡大もリスクになるとしている。
世界各国での金利の急上昇、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する中国の規制緩和。チャールズ・シュワブ(Charles Schwab)は2022年に生じた主要な出来事のうち、これらを2023年の世界市場のリスクになりそうなものとして挙げている。
8兆ドル超の資産を管理する金融サービス会社であるチャールズ・シュワブは2022年12月19日、「予期せぬ出来事を特定」するために、「2023年に投資家が直面するリスク」トップ5を発表した。このリストは株式市場が大幅に下落する中で発表された。
S&P500とMSCIワールド・インデックスは2022年、ともに20%近く下落した。投資家はこの間、ロシアのウクライナ侵攻、侵攻後に起きたエネルギー価格の高騰、インフレの熱を冷ますための中央銀行による利上げをくぐり抜けてきた。
チャールズ・シュワブのチーフ・グローバル投資ストラテジスト、ジェフリー・クライントップ(Jeffrey Kleintop)はこう書いている。
「歴史を見ればわかることだが、最大のリスクはたいていは不意打ちで来るのではなく(中略)むしろありふれた風景の中に潜んでいる場合が多い。リスクが出現するのは、ある事柄がうまくいかないことに対して、多くの市場参加者が確信を抱いているときだ」
以下では、チャールズ・シュワブが予想する「2023年のグローバルリスク」トップ5を順不同で紹介しよう。
1. 中国のコロナ規制緩和
世界最多の人口を抱える中国は、11月下旬の大規模な抗議行動を受け、新型コロナウイルス感染症に関する厳重な検査および行動制限の要件を唐突に緩和した。鬱積していた14億人の消費者による支出は、売上が中国の影響を受ける企業にとって、利益見通しのアップサイドリスクになる可能性がある。
ただし、「さらに重要な点は、原材料と商品の両方において、世界規模のインフレがリバウンドする可能性があることだ。このタイミングは理想的とは言えない」とクライントップは述べている。
「利益見通しに改善があっても、インフレの再燃に対する市場参加者の失望がそれを圧倒し、株価を押し下げるかもしれない」
2. 住宅ローン・ショック
アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行といった各国の中央銀行が2022年に金利を引き上げたのに伴い、世界中で住宅ローン金利が急上昇している。アメリカでは、1年見直し型の住宅ローン変動金利が、2倍超の5.6%まで上昇した。
長期固定金利の融資を利用していない世帯は、今後12カ月で金利が引き上げられ、毎月の住宅ローン返済額の急増に直面することになる。「世界的な景気後退の可能性が残る中、失業率が大幅に上昇すれば、消費者の返済能力が低下し、債務不履行が増加する可能性もある」とチャールズ・シュワブは述べている。
チャールズ・シュワブの予測によれば、アメリカ、フランス、ドイツ、イタリアよりも、イギリス、ノルウェー、ニュージーランドで「住宅ローン・ショックのリスクが大きく増加する」という(オーストラリア、スウェーデン、カナダにも若干のリスクがある)。
3. 中央銀行の過剰な引き締め
FRB、ECB、イングランド銀行は12月、最新の利上げ幅をそれぞれ50ベーシスポイントに縮小した。「だが、急激なペースの利上げをやめたとはいえ、主要中央銀行は、まだ終わりではないという姿勢を明確にしている」とクライントップは述べている。
チャールズ・シュワブの指摘によれば、アメリカの労働市場のデータは景気の遅行指標であることから、FRBが方針を変えるほど労働市場が大きく悪化するころには、すでに世界経済が現在の予想よりも深く景気後退にはまりこんでいる可能性があるという。
一方、ECBはインフレ率が2、3年で目標の2%まで下がると予想しているが、最新の政策発表では、「インフレ抑制の保険として、さらに高い政策金利という形をとった政策を模索」していることが示唆されている、とチャールズ・シュワブは述べている。
「(あまりにも長期にわたり、あまりにも低いまま放置してきたあとに)金利を過剰に引き上げ、金融政策の過剰な引き締めをはかる主要中央銀行は、ゆるやかな景気後退が2023年前半まで続くとする市場の予想へのダウンサイドリスクになる」とクライントップは述べている。
4. 欧州のエネルギー危機
ウクライナ侵攻に対する制裁後、ロシアがヨーロッパへの天然ガス供給を遮断したことを受け、ヨーロッパの指導者たちは、冬の暖房需要を満たせるだけの天然ガスを確保しようと苦心してきた。
だが、十分な備蓄、省エネ努力、初冬の暖かさにより、エネルギー危機のリスクが低下したことから、ヨーロッパの天然ガス価格は下落し、第4四半期には欧州株が世界の回復を牽引した。
「とはいえ、ヨーロッパのガス供給は不安定なままであり、世界的に冬の気温が低くなれば、ガス消費量の増加と、アメリカからの輸入ガスの減少が相まって、ヨーロッパの産業や自動車業界が操業停止に至るおそれはある」とチャールズ・シュワブは指摘している。
5. ウクライナ戦争の拡大
クライントップによれば、投資家たちはウクライナ戦争の激しさが和らぎ、交渉による解決に向かうという予想に基づいて行動しているようだという。
「しかし、戦争を終結させるためには、ロシアが2014年に占領したクリミア半島を、ウクライナが奪還することが必要となるかもしれない。領土奪還に向けた動きはなんであれ、プーチン大統領の許容ラインを越える可能性がある。ヘルソンでの進軍が続いたあとに、ウクライナがクリミアに入れば、ロシアによる攻撃がエスカレートするリスクが高まる」とクライントップは述べている。
ロシアが民間インフラにさらなる大規模攻撃を仕掛けたり、黒海航路で輸出を制限したりして、戦争がエスカレートすることも考えられる。
「だが、さらに重要なのは、そうしたエスカレートの一形態として、ロシアが同国の領土と見なしているものを守るために、禁止されている核兵器、生物兵器、化学兵器が使用されることだ」とクライントップは指摘する。
ロシアが、NATO加盟国によるウクライナへの武器輸送に先制攻撃を仕掛けたり、あるいは、意図的もしくは偶発的な近隣諸国への攻撃により、他国を戦争に引っぱりこむ可能性もある。