H3ロケット試験機1号機。
画像:JAXA
2023年は国内の宇宙輸送ビジネス元年になるかもしれない。
2022年12月20日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は基幹ロケット「H3」試験機1号機の開発が概ね完了し、まもなく打ち上げに向けた準備作業に移行することを発表した。
その後12月23日には、2023年2月12日に打ち上げを実施すると発表があった。
2度の延期の末に新型エンジン「LE-9エンジン」完成
「我々H3プロジェクトに携わっている者はとにかくこのロケットを考えた通りのロケットとして完成させたいという思いでいます」
H3プロジェクトチームの岡田氏は12月20日の会見で、H3ロケットの打ち上げに向けた意気込みをこう語った。
12月20日、記者会見で説明するH3プロジェクトチーム 岡田匡史プロジェクトマネージャ。
画像:オンライン会見の画面をキャプチャ
H3は当初、2020年度内に打ち上げを予定していたが、これまでに計画を2度延期している。
そもそもH3は、H-IIAロケットの後継機として2014年に開発が始まった大型ロケットだ。
試験機1号機の打ち上げは当初2020年度内に実施される計画だった。ところが、新たに開発していたロケットエンジン「LE-9エンジン」に技術的課題が見つかり、JAXAは2020年9月、打ち上げを2021年度に延期することを発表していた。
その後、この技術的課題に対応する目処はついたものの、LE-9エンジンに別の不具合が発覚。2022年1月には、再び打ち上げが延期されていた。
当時、H3プロジェクトチームの岡田匡史プロジェクトマネージャは、2度目の延期の原因となった不具合について、打ち上げ失敗に直結する致命的なものだと断定はされていないが、LE-9エンジンをより信頼性が高いものに仕上げるために改良が必要だと説明していた。
今年9月の記者会見では、設計変更にあたり、開発チームは複数の対策案の評価を並行して進め、試験機1号機に適用する最有力案を選定したことが報告されていた。
LE-9エンジンの累積燃焼時間を表すグラフ。2022年4月から燃焼時間が急速に増加している。この時期からエンジンの性能が格段に良くなっていったことが読み取れる。
画像:12月20日JAXA記者会見資料
イプシロン6号機の打ち上げ失敗で、H3も設計を変更
2022年10月12日にJAXAの小型ロケット「イプシロン」6号機の打ち上げが失敗したことも、H3の開発に影響を与えた。
イプシロンの失敗の原因はいまだに究明には至っていない。ただ、調査の中で、打ち上げ失敗の原因となった可能性があるイプシロンの「パイロ弁」と呼ばれるパーツと同じ製造元・作動原理を持つ製品をH3でも採用していたことがわかった。
これを受けてJAXAは、H3のパイロ弁を十分な実績のあるH-IIAロケットで採用していたタイプのものに交換する方針を決めた。
幸いにも、H-IIAロケットのパイロ弁と、もともとH3で使用を想定していたパイロ弁はサイズが同等だったため、設計の変更点は少なかったという。念のため実施した試験でも耐性が確認された。
その後、11月6日〜8日には、H3の機体を種子島宇宙センターにある実際の打ち上げ設備に移し、一連の機能を確認する「1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)」が実施された。
1段実機型タンクステージ燃焼試験の様子。
提供:JAXA
JAXAによると、この試験で、LE-9エンジンをはじめとする推進系の機能や性能などが確認されたという。ただ、CFTの結果から改善事項も出てきており、現在は試験機1号機にその反映をしているところだ。
今後は機体を打ち上げるために必要な「固体ロケットブースター」の取り付けなど、打ち上げの本格的な準備段階に移行する。
順調に準備が進めば、H3は2023年2月12日に打ち上げられる。
H3は、機体側面に付ける固体ロケットブースターや、頭頂部に付けるフェアリング(宇宙へ運ぶ人工衛星などを格納しておく部位)を付け替えることで、打ち上げ能力が「可変」な点が特徴だ。
岡田プロジェクトマネージャは、
「激変するマーケットに対して、柔らかく、そしてH3の強みを持って対応していくようにこれからしていきたいと思っています。まずは目の前の打ち上げを頑張らなければ、そこへはたどり着けないので、(試験機1号機の打ち上げを)頑張りたいと思います」
と意気込みを語った。
国内ベンチャーも2023年に打ち上げか
北海道スペースポートの完成イメージ
提供:北海道スペースポート
2023年はJAXAのH3に限らず、日本の宇宙ビジネスにとっても勝負の一年になるかもしれない。世界的な宇宙輸送ビジネスの拡大に伴い、国内のスペースポートの整備が進んでいる。
キヤノン電子らが出資するベンチャー・スペースワンは、2023年2月に小型ロケット「カイロス」の初号機を和歌山県串本町にある自社運営の射場「スペースポート紀伊」から打ち上げる予定だ。
初号機の打ち上げを皮切りに打ち上げ事業を本格化する。将来的には年間20機以上の小型ロケットの打ち上げを目指す計画だという。
アメリカのVirgin Orbitとパートナーシップを結んでいる大分空港では、日米間の調整などが完了すれば、Virgin Orbitのロケットの打ち上げが実施されるとみられる。
さらに、北海道大樹町の「北海道スペースポート」は、この9月にホリエモンこと堀江貴文氏が率いるベンチャー・インターステラテクノロジズが開発中の軌道投入用小型ロケット「ZERO」の打ち上げに対応した射場「Launch Complex-1(LC-1)」を着工。
将来的にはインターステラテクノロジズ以外の国内外のロケット企業も誘致しながら、射場や滑走路を増やしていく構想だ。北海道スペースポートの整備と運用を担当するスペースコタンの大出大輔COOは
「既存滑走路の延伸工事も計画しており、2024年頃には、パワーアップしたスペースポートで、より活発な宇宙開発がされる予定です」
と語った。
2022年はロシアによるウクライナ侵攻の影響で、ソユーズロケットの運用が事実上停止する事態に追い込まれた。一方、イーロン・マスクが代表を務めるSpaceXは、36時間で3回の打ち上げを成功させるなど、ロケット事業者の明暗が大きく分かれた年になった。
ロケットの打ち上げ枠は不足している。日本のロケット事業者やスペースポートが市場に参入していく余地は十分にある。