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「日銀ショック」本質を読み解く「5つの論点」。利上げ?次期体制への配慮?

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2023年4月に任期満了を迎える日本銀行の黒田総裁。その間際に「黒田(日銀)ショック」と呼ばれるほどの不意打ち的政策決定を仕掛けた。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

日本銀行は12月20日に開いた金融政策決定会合で、イールドカーブコントロール(長短金利操作)の「柔軟化」に踏み切った。

長期金利(10年国債利回り)の誘導目標は0%程度に維持しつつ、許容する変動幅を従来のプラスマイナス0.25%程度から同0.5%程度に拡大した。

「市場は今回の決定を事実上の利上げと受け止めている」(日本経済新聞、12月20日付)「想定外の金融緩和政策の修正は市場との対話に課題を残した」(ブルームバーグ、12月21日付)などさまざまな指摘が出ているが、それらを含むいくつかの論点について、筆者の見解を交えてQ&A方式で整理してみたい。

【Q1】日銀は「利上げ」をしたのか?

今回の政策決定により、長期金利(10年国債利回り)には1%ポイントの変動幅が生まれたことになる。

日本の長期金利はもともとその程度しか動かないものだったので、それを容認するとなれば、人為的に金利を押さえつけてきたイールドカーブコントロールは、実質的に終了したとみることもできる。

今回の政策決定の大義名分は、あくまで「より円滑にイールドカーブ全体の形成を促し、金融緩和の持続性を高めること」であり「利上げではない」と、日銀の黒田総裁は会合後の記者会見で説明している。

しかし、円安および物価上昇が懸念され始めた2022年春以降、黒田総裁は(許容変動幅の上限としてきた)0.25%を超える金利上昇は「実体経済に悪影響を与える利上げ」とみなすかのような説明を続けてきた。

その経緯を踏まえると、どのような方便を使ったところで、今回の措置が「事実上の利上げ」であることは否定しがたい。そうでなければ、政策修正直後の為替市場で円買いが加速した(円は同日、主要通貨に対して3〜4%上昇してほぼ独歩高となった)説明がつかなくなる。

10年国債利回りの0%目標は従来どおり維持するのだから利上げではないというのは、説明として無理がある。

0.25%の上限を超える金利上昇を「極悪」のように位置づけてきた従来の説明との整合性を重視すれば、これはやはり利上げであり、日銀のピボット(政策転換)と説明する識者が多いのも当然だ。

【Q2】なぜいまこの措置なのか?

なぜこの時期にイールドカーブコントロールの修正(≒緩和修正)に踏み切ったのか。

ここでは大まかに、(1)海外勢が休暇に入っていること(2)円安が落ち着いていること(3)次期総裁体制に向けて露払いをしておく必要があったこと、という3点を挙げておきたい。

まず(1)は想像に難くない。

クリスマス休暇の前後で海外市場参加者が少ない時期ならば、投機の思惑に振らされにくく、政策変更に伴う急変動もある程度抑制できるメリットがある。

より重要なのは(2)だ。

円安が落ち着いていることと、金融緩和策の修正タイミングとの間に、一体どんな関係が?と疑問を持たれるかもしれない。そこは以下のように説明できる。

過去記事でも論じたことだが、日銀には「円安が懸念されている時に金融緩和策を修正すれば、ペイントレード(痛みを伴う取引)を誘発しかねない」という葛藤があったはずだ。

ドル/円相場が連日最高値を更新する(記録的な円安が進む)状況で緩和修正に踏み切れば、ほぼ確実に「円安抑制のために日銀が動き出した」との見方をされるだろう。

例えば、円安相場が始まった2022年3月に今回のようなイールドカーブコントロールの許容変動幅拡大を持ち出していたら、円安を止められただろうか。

当時はまだ、米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ退治のために0.75%の大幅利上げを繰り返す展開は想定されておらず、通常の0.25%では足りず、0.50%が必要になるかも?などと言われていた時期。欧州中央銀行(ECB)に至っては、利上げの可能性すら否定されていた頃だ。

そこで長期金利の許容変動幅を拡大したところで、円売りに一時的なブレーキがかかるくらいで、持続的な円安抑制はおそらくできなかったに違いない。

それどころか、カードを切るたびに「日銀は次に何をしてくれるのか」と催促相場に陥って金融緩和の修正を迫られた挙げ句、ついには望まぬ利上げにまで至っていたかもしれない。

上記のようなシナリオは日銀としてはもちろん避けたい。そこで、円安がある程度落ち着いてから金融緩和策を修正すれば、為替相場を争点に巻き込む展開を避けられるというわけだ。

中央銀行としては聡明な判断だったと言えよう。

【Q3】次期総裁体制への配慮なのか?政府の意向はあったか?

【Q2】で、この時期に緩和修正を決断した理由の最後に挙げた(3)だが、やはり次期総裁体制に配慮した面はあったと思われる。

一方、今回の政策決定にあたって、政府の意向がどれくらい加味されたのか、筆者には知るよしもない。

ただ、背景に次のような流れがあったことは指摘しておきたい。

10年国債利回りの従来上限(0.25%)を死守すべく(筆者から言わせれば拘泥だが)、日銀はひたすら市中の国債を買い入れてきた。

その結果、12月19日公表の資金循環統計によれば、日銀の国債保有比率は9月末時点でついに5割を超え、債券市場の機能が著しく棄損(きそん)されるなどの副作用が可視化され始めていた(市場機能の棄損は今に始まったことではなく、黒田体制では常態となっていたが、足元でさらなる悪化が進んでいたとは言える)。

そうした身動きの取れない状況をそのまま次期総裁体制に引き継ぎたくない、そんな発想があったのかもしれない。

また、2023年春以降に欧米のインフレが期待したほど減速しなかった場合、外国金利の上昇に伴う円安が再び鎌首をもたげる可能性が残されており、そうなった時に備えて政策の柔軟性をある程度確保しておきたいという考えもあっただろう。

いずれにせよ、長期金利上限0.25%を堅持してきた従来の論理との矛盾を指摘される可能性が高いが、すでにレームダック(死に体)化した黒田体制なので、汚れ仕事にも手が付けやすい面がある。

しかも、今回の措置はあくまでイールドカーブコントロールの「柔軟化」であって「利上げ」「引き締め」ではなく、したがって(無理筋だが)政策転換でもないという建て付けなので、黒田総裁の体面も一応保たれるというわけだ。

【Q4】次期総裁体制による「本当の利上げ」への布石?

今回の政策決定は、2023年春に発足する次期総裁体制が(事実上ではなく)本当の利上げをするための、言い換えればマイナス金利政策を解除するための「布石」なのか。

筆者としては、一足飛びにそのような展開にはならないと考えている。

繰り返しになるが、今回の政策決定はあくまでピボット(政策転換)ではなく、現行枠組みの修正と位置付けられている。要するに、展開してきた政策を否定する決定ではないので、ここまでの効果や副作用を総括、説明する必要はないことになる。

しかし、次期総裁体制で(イールドカーブコントロールの廃棄を伴う)マイナス金利の解除を決断するのなら、過去10年間の総括的検証もしくはそれに類する何かは必須だろう。

そして、それが2023年4月に突如実行に移されるとは考えにくく、ゆっくりと時間をかけてタイミングが模索されると筆者は予想する。

【Q5】政府・日銀の「共同声明」も修正されるのか?

日銀が引き締め方向に姿勢を転換するならば、問題となってくるのは(そしてすでに断続的に議論されてきた)、現行の緩和策の裏付けと言われる(2013年1月に当時の安倍政権と白川日銀総裁が交わした)政府・日銀の共同声明の取り扱いだ。

報道などを見ていると、「引き締めには政府とすり合わせの上で共同声明の修正が必要」といった解釈が流布しているように見受けられる。

だが、政府・日銀の共同声明はあくまで白川体制の産物であって、黒田体制のものではない。黒田体制や次期総裁体制が引き締め(日銀の政策転換)を検討するために、必ず共同声明の修正が必要になるという話でもないだろう。

そもそも、共同声明に記載されているのは「デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け」、政府・日銀が「政策連携を強化し、一体となって取り組む」といった枠組みだけであって、日銀の挙動を縛る具体的な言及はない。

それに、「緩和修正に声明文の修正が必要」という前例を作ることは、今後の日銀の政策運営やそれをウォッチする市場参加者との関係に照らして、健全とは言いにくいのではないか。

中央銀行の独立性が表立って否定されるような状況は避けるべきであり、日銀も政府も「共同声明の修正可否」と「金融政策の修正可否」がリンクされることはおそらく望んでいないはずだ。

共同声明は現在の形で残しつつ、日銀が総括的検証を行い、能動的に緩和策を修正することは、別に無理な話ではないと筆者は考える。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

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